いつものようにTikTokをスクロールして、たくさんのメイクアップ動画と恋愛リアリティ番組まとめ、そしてネコ動画まで見終わると、スーパーモデルのケンダル・ジェンナーの動画に行き着く。
しかし、それは彼女のリアリティ番組の動画でも、モデルとしてランウェイを闊歩している姿でもない。彼女の顔が美容外科医によって分析されている動画だ。医師は、彼女がどこを整形してどこをしていないかを説明し、唇へのフィラー注射、ボトックス、そして鼻の整形をしていると述べた。
そしてその医師のページをクリックすると、突如セレブたちの整形動画の世界に迷い込む。
ここ数カ月、私への「おすすめ」ページにはこうした動画が急増している。「#plassticsurgery(整形手術)」のハッシュタグの再生回数は133億回、「#celebrityface(セレブの顔)」は16億回にものぼる。
「ケンダル・ジェンナーは整形してる?」と検索すると、何百もの動画が出てきた。美容のプロから一般人まで、彼女の顔を好き勝手に分析している。当然ながら、こうした動画は主に女性有名人を分析しており、アリアナ・グランデやセレーナ・ゴメスなど、セレブの顔を毎日のように調べている。
10代の有名人でさえ分析されているが、「成長しただけ」や「化粧が上手くなっただけ」と反論する声もある。
それにしてもなぜ、このような動画がそれほどにも人気があるのか?
それは、有名人たちがどのような整形をしたかを公表せず、ファンにその憶測を委ねているからかもしれない。
真実を語らないセレブ、憶測するファン
25歳のスーパーモデル、ベラ・ハディッドが、14歳の時に鼻形成術をしたと公表した際、驚く人は殆どいなかった。ビフォーアフターの写真を見たことがある人も多く、彼女が手術代を支払うお金があることは分かっており、本人が認めたと聞いてショックを受ける人はさほどいなかった。
しかし有名人の顔についての憶測は、多くの場合、ただの憶測に過ぎない。
2022年初旬、ラッパーのドージャ・キャットは、彼女が鼻の整形手術をしていると主張した動画を制作したYouTuberのロリー・ヒルメイドを批判した。ヒルメイド自身も整形手術をしており、コンテンツでセレブの顔を分析し、整形の有無を判定している。
ドージャ・キャットはInstagramでこの動画に対し、「嘘をついていて怒りを感じている」と不満を語った。
しかし、ロンドンの美容外科医Tunc Tiryaki医師は、問題の根源は動画ではないと考えている。真実を語らない有名人による影響もあると指摘する。
「セレブの方にも問題があるかもしれません。例えば、脂肪吸引を受けたのにダイエットの成果だと主張したり、顔のたるみを改善するフェイスリフト手術を受けたのに、切らない施術の糸リフトをしたと言ったりする人もいます」
そういった主張が間違った期待を生むことになるになる、とTiryaki医師は語る。ファンは、手頃な施術やメイクなどではなく、高額な手術の結果から成り立つセレブと自分を比較することになるというのだ。
「もう一つは、こうしたビデオは、手術の効果に対して誤解を与えている」と話す。「有名人がどんな手術を受けたか嘘をついた為、人々は大きな効果を期待して私のところに来ているのです」
Tiryaki医師は、これは危険な傾向だと述べる。特にフィラー注射やボトックスなどの非外科的施術に関しては年齢制限がなく、業界も適切に規制していないという。
「フィラー注射の合併症の発生率は急増しています。理由の一つは、この施術は簡単で、アメリカでは皮膚科医や美容外科医だけでなく、歯科医など他の医療従事者でも行うことができる為です」と話す。
これらの動画の多くは美容外科医が制作しているものだが、たとえ美容外科医であっても、自分が担当したのではない限り、そのセレブが整形手術をしたか判定できないとTiryaki医師は述べ、こういった意見を信じないよう警告する。
そして、このような動画の視聴者がいる限り、同様のコンテンツは作り続けられるだろう。
では、なぜ人々はこうした動画が好きなのだろうか?
なぜ私たちはこうした動画が好きなのか?
多くのコメント欄では、好きなセレブがフィラー注射を受けていることへの安堵感が目に付く。ある投稿者は「私は醜いのではなく、お金がないだけ」とコメントしている。
こういった動画は、パーフェクトに見えるネットの世界はリアルではなく、私たちが自分とセレブを比較すべきではないと教えてくれる。それだけでも、十分意味があるのかもしれない。
臨床心理学者のフェデリカ・ロッソ氏は、このようなコンテンツが人気なのは、少しの間だけでも良い気分にさせてくれるからだと考える。
「人々は、完璧なんて存在しない、と思えるのかもしれません。鏡の中の自分が『完璧じゃない』と感じていても、綺麗なセレブは整形していて、前はそうではなかったと納得するのです」とロッソ氏は話す。
「これは実際、最悪な気分から脱出するために行われるメカニズムなのです」
一方こうしたコンテンツは、健康面や経済面でベストな選択ではないかもしれないにも関わらず、整形手術を受けることを後押しする可能性もある。
「こうした動画の問題点は、手術さえ受ければ同じような結果を得られるというメッセージを助長することです」とロッソ氏は述べる。
「自分の顔は醜いのか、魅力的ではないのか、体で整形した方がいいパーツがあるのか、と考え始めるかもしれません。これは、身体醜形障害や摂食障害など、自傷行為や自殺に至ることもある、危険な道に繋がる可能性があります」
セレブにとっても悪影響が
同時に、こういった動画は、取り上げられるセレブにとってもトリガーとなる。整形をしているいないに関わらず、自分の容姿にとても自己批判的になってしまうのだ。
「このような動画で自身を見ることは、ビンタされているようなものです。セレブは常に、自分の欠点や失敗を指摘されているのですから。たとえそれが本当でなくてもです」
こうした問題に声を上げる有名人もいる。
『ブリジット・ジョーンズの日記』などで知られる有名俳優のレネー・ゼルウィガーさんは、目を整形したという噂に対し、ハフポストで「We can do better」と題した公開書簡で反論している。
「歴史的にも、女性の価値は常に外見で測られてきたことは周知の事実です」とした上で、
「今も残るダブルスタンダードは、毎日私たちが耳にするネガティブな会話によって強化されています」と述べた。
「その結果生じるメッセージは、若い世代や多感な心にとって悪影響であり、適合性、偏見、平等、自己受容、いじめ、健康に関する数々の問題を後に引き起こすトリガーとなります」
では、私たちはこのような動画をクリックし続けるべきだろうか?
その答えは、なぜそれを見ているのかを、自分に正直になることにある。これらのコンテンツは、私たちがネットで見ている加工されたセレブたちの顔はリアルではないことを思い出させてくれる。
でも、その顔の裏にいるのは、本物の心ある人間だということを覚えておきたい。
ハフポストUK版の記事を翻訳・編集しました。