女の子の笑顔にはパワーがあふれている。わたしたちの心を癒し、幸せな気持ちにさせてくれる。笑顔は、すべての動物の中でも、人間だけが持っている特別な能力だと言われている。誰にだって、人の笑顔に救われた経験があるだろう。笑顔は国境を越える。そして連鎖する。
「逆境の中で咲く花は、どの花よりも貴重で美しい」とウォルト・ディズニーは言った。その言葉のように、悲しみから立ち上がり、笑顔を咲かせた女の子がいる。
人生は変えられる−−笑顔でそう語るのは、カメルーンで暮らすラマナさん(19歳)。学校に通い、コンピューターサイエンスを勉強している。彼女の瞳はキラキラと輝き希望に満ちている。
そんなラマナさんだが、実は辛く悲しい過去をもつ。まだ20歳にも満たない彼女は、一体どのような人生を歩んできたのだろうか。
15歳で悲しい結婚。彼女が見たひと筋の光とは
ラマナさんは、カメルーンの首都ヤウンデで生まれ育った。幼い頃から、毎朝4時に起床。家族のための食事を用意し、妹や弟たちの分まで洗濯をした。一家は決して裕福ではなかったが、彼女は学校に通っていた。学ぶことが大好きで、成績も良かった。
しかし15歳になったある日、ラマナさんは父親に連れられ、見知らぬ男の家に嫁ぐことになった。彼女は望まない結婚をしたのだ。それまで通っていた学校にはもう通えない。それでもカメルーンでは、多くの親が"早い結婚が娘にとって最も良いこと"だと信じているという。
彼女の結婚は、良い方向には向かわなかった。
「夫は性交渉を求めるときは、いつも私に暴力を振るいました。家から出ることも許してくれませんでした。自分の力では何もできず希望が持てなくなりました。父はとても悲しんでくれたけど、私たちが離婚することは望まなかったわ。世間の目を気にしていたから」
なんてひどい夫だろう。なんてひどい父親だろう。そんな風に思うかもしれない。しかし、ラマナさんの暮らすこの国で、それは決して珍しいことではない。女の子を困難に追いやる古い習慣や価値観が、こうして未熟な少女たちを苦しめているのだ。
夫の暴力は日を追うごとに壮絶なものとなった。外出もできず、お金を稼ぐことのできないラマナさんは、暴力を振るう夫に服従するだけ。そうするしか生きるすべがなかった。ある日の晩とくにひどい暴力を受けたが、拒む力はもうなかった。でも「生きたい」という意識だけはかすかにあった。ラマナさんは、深夜に荷物をまとめ、朝になると家を出た。夫が目覚める前に逃げ出し、家族が暮らす家に帰ったのだ。
「結婚するまではいろいろなことを夢見ていました。でも悲しい思い出ばかり。結婚する前の記憶もかすんでしまって......。ただひとつ、教室で読み書きを学んだ経験が、わたしにとって生きる糧になりました」
その後、ラマナさんに転機が訪れる。国際NGO団体の支援によって、彼女は再び学校へ通えるようになった。学ぶ喜びを思い出したラマナさんを見て、離婚に反対していた父親は言った。「もう結婚のことは考えなくていい。学校で学びなさい。卒業するようにがんばるんだ」と。無事に卒業証書を受け取った彼女は今、笑顔を取り戻した。
ラマナさんの暮らすカメルーンでは、毎年多くの女の子が19歳を迎える前に結婚しているという。これはカメルーンに限ったことではない。世界の途上国と呼ばれる地域では、6200万人の女の子たちが「早すぎる結婚」により教育の場が奪われ、その先の未来が閉ざされてしまっている。
女の子が学校に通えない5つの理由
1、貧困により、学用品や制服が買えない
途上国と呼ばれる国々でも、公立の小学校では学費を無料にするなど、政府や国際組織の働きかけによって対策がとられるようになった。そのため就学率は男女ともに大きく改善された。しかし、学用品や制服などにかかる費用は別途必要になるため、家庭によっては学校に通えない子どもたちもいるのだという。
2、女性は家事労働をするものという偏見
貧しい家庭で親が子どもの就学を諦める場合は、まず女の子からだ。「女の子は結婚して子どもを産み、家のことをするから学校に通う必要はない」という偏見がある。そのため、男の子が学んだり、友だちと遊んだりしている間に、女の子には、水汲みや食事の支度などの家事労働をさせる家庭も少なくないという。こうした性差別の意識が色濃く残っている地域が、世界にはまだまだたくさんあるのだ。
水汲みは女の子たちの仕事(ラオスにて)
3、近くに学校がない
途上国では教育施設が不十分で、子どもたちが暮らす家から学校が遠い場合が多い。通学には「時間がかかる」「通学路が整備されていない」といった問題があるほか、学校では女の子に対する嫌がらせや、性的暴力などの危険が潜んでいるため、両親が通学を許さないことも少なくない。
学校までの道のりはひたすら長く、危険も多い(タンザニアにて)
4、女の子にとって、劣悪な学習環境
学校では、女の子が差別や嫌がらせ、ときには性的暴力の被害に遭ってしまうこともある。女子トイレなどの設備が整っていないことも、思春期の女の子たちにとっては大きな問題。学校には、女性の先生が少ないため、女子生徒に対する配慮や環境への理解が乏しいばかりではなく、将来のロールモデルを描けないことにも繋がっている。
5、早すぎる結婚・妊娠
途上国では、9人に1人が15歳未満で本人の意思をともなわない結婚を強いられている。ニジェール、チャド、マリ、バングラデシュでは5人に3人(60%)にも及ぶ。なかには親が決めた10歳前後の結婚もあり、結婚させられた女の子は、同時に教育の機会を奪われてしまう。
2億5000万人の女の子が15歳未満で結婚
ユニセフの調査によると、世界では7億人以上の女の子が18歳未満で、そのうちの2億5000万人は15歳未満で結婚している。からだが未熟なうちに妊娠・出産を経験することで健康被害に遭うケースも少なくない。産前産後の医療ケアや知識不足、不衛生な環境での出産なども原因とされており、出産時に命を落とすこともあるという。
「早すぎる結婚」は、教育の機会を奪われるだけではなく、精神的・身体的なダメージを幼い女の子に与える。それでも「早すぎる結婚」が行われている背景には、宗教的な考えや、脈々と受け継がれてきた古き慣習があるのだ。
宗教によっては「娘が初潮をむかえる前に結婚させると縁起が良い」とされているものもある。また男性が結婚結納金として、金品を家族に渡す習慣のある地域では、貧しい家庭にとって娘の結婚が家計を助ける手段になっている実情がある。
「女の子への教育」が世界を変える力に
世界のあらゆる場所で、女の子は男の子に比べて社会的地位が低く、教育の機会が限られている。ガーナの教育者 J.E.クウェギール・アグレイ博士は「男性への教育は一個人を教育することだが、女性への教育は一家族を教育すること」と述べている。これは一体どういうことか? その言葉を裏付けるいくつかの数値的なデータがあるようだ。
世界銀行の調査資料によると、「女の子が初等教育を5年間受けると、将来産まれてくる子どもが5歳まで生き延びる確率が40%以上も上がる」という。ケニアでは、女性が男性と同等の教育を受け農作業に決定権を持った場合、収穫高が20%上昇するという推計がある。
ジンバブエでは、学校に通う15歳〜18歳の女の子がHIVに感染する確率は、中途退学した女の子の5分の1であることが明らかになった。女の子の就学率が高いほど、GDP(国内総生産)もあがるという報告もある。女の子が教育を受けると収入を得ることができる職業につくことができ、経済効果への影響が大きくなるとも言われている。
こうしたデータから、女の子たちも教育によって、自分の意思で人生を選び、社会的、経済的、政治的な状況を変える力を身につけることができることがわかる。国際NGOプランでは、「Because I am a Girl」というグローバルキャンペーンを実施している。女の子への教育は、すべての子どもたちが能力を伸ばせる世界に導き、貧困の解決につながる、−−その考えのもと、集めた寄付金で女の子たちが"生きていくスキル"を身につけられるよう支援するキャンペーンが「Because I am a Girl」だ。
世界の女の子のために、私たちができること
カメルーンのラマナさんは、プランの支援によって復学し、未来を切り開こうと前に進んでいる。もちろん、彼女が負った深い傷は、そう簡単に癒えるものではないが、彼女の笑顔には、希望を胸にこれからの人生を歩んでいこうという強さがある。
海の向こうでは「早すぎる結婚」により未来を奪われている多くの女の子がいるということに驚かされる。まずは、その事実を知ること、それを誰かに伝えること、ほんのささやかな寄付−−これが世界の女の子たちにとって大きなパワーとなる。
私たちにできることを続けていこう。支援なんて、いらなくなる日まで。