ヒット作が生まれる職場とは? ピクサーで働く日本人クリエイターに聞く

日本でもインクレ旋風が巻き起こっている中、クリエイターが語った。
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ヒット作が生まれる職場 ピクサーで働く日本人クリエイターに聞く~成田裕明さん

 8月1日より公開中のディズニー/ピクサー映画『インクレディブル・ファミリー』は、全米で、『アナと雪の女王』(2013年)や『ファインディング・ドリー』(16年)を超え、全米歴代アニメーション作品興行収入歴代No.1を記録。実写映画を含む歴代興行収入は『美女と野獣』を抜きTOP10入りする快挙を成し遂げた中、日本でもインクレ旋風が巻き起こっている。

 公開2週目の週末(8月11日・12日)は土日2日間で観客動員36万8560人、興収は4億6670万2700円を記録。これは、公開週である前週対比で動員・興収ともに110%という驚異的な伸びを見せたのだ。累計成績も公開わずか12日間で動員170万人、興行収入は早くも20億円を突破している(累計動員:173万2804人/累計興収:20億6660万5300円)。

 同作は、『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』のピクサー・アニメーション・スタジオが制作する長編アニメーション20作目という記念すべき作品でもある。ヒット作を毎回世に送り出し続けるピクサー・アニメーション・スタジオについて、『インクレディブル・ファミリー』の制作にエフェクト・テクニカル・ディレクターとして携わった日本人スタッフの成田裕明さんに話を聞いた。

 成田さんは、ハリウッドの実写映画制作の経験を経て、ディズニー・アニメーション・スタジオで、『ベイマックス』(14年)、『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』(15年)、『スートピア』(16年)、『モアナと伝説の海』(16年)、『アナと雪の女王/家族の思い出』(17年)などの作品にビジュアル・エフェクト・アーティストとして参加した実績を持ち、『インクレディブル・ファミリー』は、ピクサーに移籍して最初の作品となる。

■ピクサーが好きな人たちが集まったファミリー感をより強く感じます

――同じディズニーグループ内で違いはありますか?

【成田】制作の工程としては基本的に大きく変わらないんですが、ディズニーに手描きアニメーションの歴史があるように、ピクサーにもコンピューター・アニメーションの先駆けという歴史を感じます。どちらのスタジオも自分たちの作りたいものにすごくこだわる姿勢というのは同じですね。

――ピクサーの居心地はいかがですか?

【成田】ピクサーは、キャンパスが広くて、緑も多い。プールやビーチバレーのコート、バーベキュー場などもあって、福利厚生が充実していますし、すごく働きやすいですね。会社というより、ピクサーが好きな人たちが集まってできた集団、ファミリー感をより強く感じます。ディズニーの時もそうでしたが、監督や仲間、人と人とのつながりを感じながら映画を作れる。一人ひとりが技術的にも能力的にも高い人たちが多いんですけど、自分の仕事だけじゃなく、ほかの人が何をしているかもお互いシェアして、協力して物事を進めていこう、作品をより良いものしようという姿勢で一致している。ですから、本当に仕事がしやすいです。

――『インクレディブル・ファミリー』では具体的にはどういう部分を担当されたのでしょうか?

【成田】エフェクト・テクニカル・ディレクターとして、特殊効果に携わりました。具体的にいうと、煙や水しぶき、アクションシーンでもいろいろなエフェクトが必要でした。スーパーパワーを持っているキャラクターならでは通常ではあり得ない映像も作りました。

 例えば冒頭のシーンでは、自分の身体を透明にする能力を使っていたヴァイオレットが姿を現すところがあるんですが、ブラッド・バード監督の演出として、目に見えないものが水蒸気の中を通り抜けてきた、というのが伝わるような特殊効果を作りました。ジャック・ジャックのスーパーパワーに関連した特殊効果も担当しました。

■ブラッド・バード監督が率先してみせるコラボレイティブな姿勢

――制作過程で印象に残っていることや苦労したこと、こだわったことなどは?

【成田】ジャック・ジャックを担当されたベテランアニメーターの方から技術的に少しハードルの高いアイディアの提案があり、できる限り頑張ってやってみたら、最終的に面白い映像になって、ブラッド・バード監督も大爆笑してくれました。

 『インクレディブル・ファミリー』は、前作『Mr.インクレディブル』(2004年)からほとんど時間が経っていないんですが、実際は14年も経っているわけで、テクノロジーは14年分進んでいます。極論を言うと、コンピューターでなんでも表現できるようになってしまっているんです。実写作品では、主に実際のものと見分けのつかないようなCGを目指すのですが、アニメーションはすべてが手作りの世界なので物理的な法則も作品ごとに大きく異なりますし、観客がそれに共感できるリアリティを織り込んでいくのは今でも相変わらず難しい課題です。

 さらに『インクレディブル・ファミリー』では、前作からガラッと変わりすぎてはいけなかったですし、とはいえ観客の目も肥えているから、昔のままというわけにもいかない。新しい技術を使って、前作の世界観を踏襲しつつ、見栄えを良くしていくという、ことばにするのは難しいのですが、ほかの作品にはない挑戦があったと思います。

――そこが腕の見せどころだったわけですね。『Mr.インクレディブル』『インクレディブル・ファミリー』を監督したブラッド・バード監督はどんな人なんでしょうか? 

【成田】頭の中で常に具体的なヴィジョンを持ってらっしゃる方で、一目見ただけで「この部分を変えてほしい」と的確に指摘されるところはさすがだと思いますし、迷ったりしないところがすごいと思います。それでいて、それに固執しないところがすばらしい。

 例えば、今回エフェクトがとても多い映画になっているので、私たちもいろいろ創意工夫を凝らして「こういう見せ方でどうでしょうか?」とさまざまな提案を積極的に行いました。その提案にも、いいものは「いい」と、とてもオープンに受け入れてくださいました。ストーリーにそぐわないと思った時も「こういうふうに見せたら、これはOKだよ」というように、監督自らコラボレイティブな姿勢で仕事をしているんです。自分の核となるものはしっかり持っていて、良いと思うものはどんどん取り入れていく、それでよりよい作品を作り上げているところは特別だと思います。

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