一昔前は「幼稚」「子供っぽい」と、現在ほど良い印象がなかった「かわいい」という言葉。でも、最近では、大人も日常の中でのちょっとした褒め言葉に使っていませんか? それに、「キモかわいい」「ブサかわいい」など様々な派生も誕生し、市民権を得ています。
ロングセラーブランドのアイス「ピノ」が10月、いろんな「かわいい」を応援する50種類のパッケージを発売しました。これを記念し、改めて「かわいい」について考えてみるべく、YouTuberのkemioさん、モデル・タレントの西山茉希さん、そして「かわいい」研究の第一人者入戸野宏教授にお話を伺いました。
仕事も、住む場所もバラバラの3人が「かわいい」を通して一つに…?
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「かわいい」は子供っぽい?大人も使っていいの?
──まずは、皆さんの「かわいい」という言葉への印象を教えてください。
kemio:僕にとっては空気みたいな言葉です。何を見ても何を手にとっても、気持ちとリンクされて自然とポロポロ出てきちゃう。今、ニューヨークに住んでいますが、英語でも友だちと一緒に「Cute!」「Cute!」言いまくっています。
kemioさんSNSを駆使した動画の発信でユーモアのあるトークが若者から絶大な支持を得る。現在はYouTubeでの発信を中心に、モデル、歌手としても幅広く活動。ニューヨーク在住。
西山:私は、大人になってから「かわいい」の意味に含まれるものが増えたような気がしています。例えば、男性にかっこいいお洋服が似合っている時にも、「すごいかわいいじゃん」と褒めることがあって。人によってはまだ違和感を感じる方もいると思うんですが、これは私にとっては最大限の褒め言葉なんです。
もともと、子どもっぽくて、大人の方に使うと失礼なイメージのある言葉だったのかもしれないですが、今の時代は大人にも使える言葉になってきていますよね。だから、進化しているのかも。
西山茉希さん「CanCam」の専属モデルとして人気を博し、タレントとしても幅広く活動。YouTubeの「西山茉希の#俺流チャンネル」では料理実況をはじめ等身大の生活を詰め込んだ動画が人気。
入戸野:日本の「かわいい」という感性には、平安時代から続く1000年以上の歴史があるといわれています。いわゆる現代的な「かわいい」は1970年代以降、若者、特に女性が自分たちの文化として編み出したものでした。当時の大人は、それを幼稚で未熟な一時の流行だと考えたんですね。
それでも「かわいい」と言い続けてきた世代がだんだん大人になることで、「かわいい」に抵抗のない人が増え、その意味も広がってきました。
入戸野宏さん大阪大学大学院人間科学研究科教授。実験心理学という手法を使って人間の心や行動を科学的に研究。「かわいい」という感情を分析した著作に『「かわいい」のちから:実験で探るその心理』(化学同人 / 2019)がある。
75%がかわいいは「必要」と答えた
──「“かわいい” は、あなた個人や社会にとって必要だと思いますか?」というTwitterアンケートの質問に対して「必要だと思う」と答えた人が過半数を超えました。皆さんはいかがでしょう?
西山:私は必要だと思います。言霊という考え方もありますが、すでに大人になっていても、「かわいい」という言葉を使うことによって心がキュンとしたり、意識が上がる、ということを経験しています。
kemio:かわいく死にたい、が僕のモットーなので、絶対必要です! ニューヨークでは、全然知らない人が「その服すごいかわいいね!」みたいに褒めてくれることがたくさんあって。そういう人からの声って、自分を一歩先に連れて行ってくれるような気がします。
入戸野:このアンケートのように「必要だとやや思う」を含めて75%を超えるというのは、しばらく前には考えられなかったと思います。今の時代だからこそ「かわいい」が求められている、と言えるんじゃないでしょうか。先行き不安だと言われる中で、自分のポジティブな直感を受け入れることの重要性に、いろんな人が気づきはじめた結果だと思います。
ステレオタイプだった「かわいい」はどう進化したか?
──「かわいい」という言葉には、気持ちをポジティブに上向かせる力があるんですね。
入戸野:ちょっと前までは「誰かがかわいいと言ったものをかわいいと言わなければならない」みたいな圧力があって、辛い時代だったと思うんです。ステレオタイプの「かわいい」が流行って、それについていけない人は「自分は遅れてるんじゃないか?」と不安を感じたりしていた。
でも、今はそうじゃなくて、西山さんとkemioさんがおっしゃったように、何に対しても「かわいい」と言っていい時代になったんですね。それは本当にここ最近の話だと思います。
──西山さんとkemioさんは、これまで自分の思う「かわいい」と、人の思う「かわいい」が違うと感じたことはありますか?
西山:私は小さい頃に、親と買い物に行った時、自分は「この服がかわいいからこれがいい」と思っても、大人の感覚で「そんなのかわいくないからやめておきなさい」と否定されたりして、それはすごく悔しかったな…と。
kemio:幼少期はそういうの、僕もありました! 僕は男の子がよく好きになる戦隊モノが嫌いで、女の子が主人公のアニメばっかり見てたんですけど、家族に「もっと男の子っぽいものを見なさい」って言われて…好きになるものを強制するって、それが教育なの? って、混乱したことがありました。今は、人間それぞれ感性も違うし追いかける「かわいい」もバラバラなので、それぞれにリスペクトしあえばいいじゃんって思います。
西山:私も、大人になった今では自分が思う「かわいい」に胸を張れるようになったので、人から何を言われても全然気にならないですね。
実験心理学が実証する「かわいい」の力とは
──今回、ピノが50種類のさまざまな「かわいい」を表現したパッケージを発表しました。
kemio:ウェブページでたくさんある中から好きなパッケージを見つけて、思わずスクショ撮っちゃいました。いろんな店舗に行って集めたくなりますよね。僕はギャルのカルチャーに影響を受けてきたので、「原宿かわいい」と「デコかわいい」の原色の色使いに惹かれました。
西山:あっ、これですね。本当だ、かわいい! なんだかカルタみたい(笑)。私はこれかな。大人っぽくて、レトロでかわいい。「ポップかわいい」っていうみたいです。先生はどうですか?
入戸野:僕は、この「なかよしかわいい」のコミカルな感じが好きです。
西山:50種類もあると、必ず自分の好きなものが見つかるし、好みがかぶらないから面白いですね。今、3人の「かわいい」をシェアしているだけでもすごくハッピーな空気になりますし、ただアイスを食べるだけじゃない、特別な時間になるのが素敵だと思いました。
入戸野:実験心理学の研究から、「かわいい」ものを見た人は思わず笑顔になり、そして、笑顔は他の人から「かわいい」と思われることが分かっています。しかも、「かわいい」と声に出すと自然と口角が上がって、笑っているように見えるでしょう? だから、人から人へ、とてもわかりやすく幸せな感情が伝播していくんです。
kemio:そうなんですか、じゃあたくさん笑わないと!
──今回のインタビューを経て、「かわいい」という言葉への印象はどのように変わりましたか?
西山:改めて、「かわいい」がもっと人のハッピーをつなぐための一番使いやすい言葉として広がったらいいな、と思いました。好き、愛してる、って言うのはなかなか難しいけど、「かわいい」ならスッと言える。kemioさんが言ったように、空気みたいにみんなが「かわいい」と感じることができたら、世界はもっとハッピーになると思います。
kemio:これからも自分の心に素直に、自分がかわいいと思ったことを表現できるようになりたいです。それから、今日先生のお話を聞いて「かわいい溜め」はよくないって思いました。「かわいい」と思ったら口に出す!(笑)
入戸野:そう、思っているだけじゃなくて声に出すのが大切ですね。「かわいい」と笑顔になっている様子を見て、周囲の人も笑顔になってくれると思いますよ。
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時代とともに変わってきた「かわいい」という感性。今では、社会を明るくする大きな力を秘めているようです。
一人ひとりの「かわいい」を応援するピノでは、AR機能を使い、スマホのカメラを「ピノ」の箱にむけると表示される背景やスタンプ、文字をカスタイマイズしてオリジナルパッケージを作る「ピノかわいいジェネレーター」を公開しています。ぜひ、自分だけの特別な「かわいい」を追求してみてください。
(執筆:清藤千秋、編集:磯本美穂)