新型コロナウイルスは、私たちに「新しい日常」をもたらした。外出自粛、一斉休校、ソーシャル・ディスタンスーー。「密」を避ける行動は、いまだかつてない長い時間を部屋で過ごす機会を私たちに与えた。当たり前に触れていた世界から隔離された日々の中で、私たちと社会を繋いでくれるのは、インターネットと部屋の窓くらいではないだろうか。
SNSやテレビでは、中国やイタリアで、窓から外を眺めたり、時には励ましの声を掛け合ったりする住民の姿が映された。それを見た東京在住のフォトグラファー・野辺地ジョージさんは、自身が過去に経験した孤独な時を思い出したという。
カナダの大学在学中に父親が突然亡くなった。卒業後は東京とアメリカ・ニューヨークで働いたが、それは自身が描いていたキャリアとは違うものだった。野辺地さんはその後仕事を辞め、帰る家もないまま旅に出た。長年の趣味であったカメラを手に、日本や世界各地を訪れ、窓越しの風景を収めた作品が『静寂はここに』だ。
その空間には、過去にきっと誰かがいたであろう気配が放つ温もりと、静かだが着々と時を刻む世界への繋がりが交差している。
「19の時に父が急に亡くなったので、一緒にビールを飲むなど、大人になってからしたかったけれどできなかったことがありました。そういった思いがあって、部屋にはいないけど感じることができる気配からくる温もりを求めて撮影し続けました」
「一人である時間にも、美しさはあります。一緒くたにそれを悲しく思うことはなくて、人の温かさもそこに感じることができる。人と繋がりたい気持ちや、触れたい気持ちを伝えたいと考えていました」
今、あなたが一人であっても、人との繋がりはある。野辺地さんの作品を一部、ここに紹介する。