かき氷やアイスクリーム、生ビールがおいしい季節が近づいてきました。
ところが冷たいものを口にした時、思わず歯がキーンと痛むことはありませんか。
「虫歯かな?」と思う前に、知覚過敏を疑った方がいいかもしれません。
7月25日は「かき氷の日」と同時に、「知覚過敏の日」でもあります。
知覚過敏の原因や予防について、歯科医でもある慶應義塾大学医学部の中川種昭教授に話を聞きました。
歯磨きの怖さ
──知覚過敏の症状や原因について教えてください。
知覚過敏というのは、歯磨きをしたり、冷たいものを飲んだりした時、一時的に歯が痛む症状のことです。歯の中にある神経をへて脳に刺激が伝わることで痛みを感じるのです。
こうした症状は虫歯でも起こりますが、虫歯は痛みが持続的に生じるのに対し、知覚過敏は一過性の痛みです。
従って、虫歯なのか、知覚過敏なのか、まずは歯科医院で検診するなどして見極めることが大切です。
知覚過敏だとしたら、まず考えられる原因は歯磨きの問題です。
歯の中にある神経は象牙質とエナメル質で覆われています。このうち、エナメル質はカチカチに硬い無機物ですが、過剰な歯磨きなどで削られ、象牙質があらわになると、ここに空いている無数の小さな筒状の穴から刺激が神経に伝わってしまうのです。
歯磨き剤も知覚過敏に関係しますよ。歯磨き剤の多くは、「研磨剤」が入っています。歯を白くする働きがあるのですが、量が多いと歯のエナメル質を削ってしまうことになります。
──歯磨き剤選びは重要なんですね。知覚過敏を予防する意味で、おすすめの歯磨き剤はありますか。
虫歯予防の観点からは高濃度フッ素が入っているものをお薦めします。
知覚過敏を意識する場合には、硝酸カリウムなどの薬用成分の入ったものが、神経を刺激するのを防いでくれる効果があります。
エナメル質を痛めるほかの原因もありますよ。
例えば、歯ぎしりが激しければエナメル質が割れ、象牙質がむき出しになることがあります。
──酸性度の高い飲み物や食べ物を摂りすぎると、やはりエナメル質を溶かしてしまうと聞いたことがあります。
そうですね。特にお酢やスポーツドリンクなどの飲み物は酸性度が高いため、頻繁に飲むと知覚過敏を誘発することにつながります。
──エナメル質が傷ついてしまうことが問題なのですね。
知覚過敏の基本的な原因ですね。でも、実はまだほかの原因があるんです。歯ぐきが下がることです。
歯の根元にはセメント質と言われる部分があって、エナメル質よりも薄いんです。歯茎が健康であればここは隠れているんですが、歯周病などの理由によって歯ぐきが下がったり、痩せてしまったりするとこのセメント質が露出し、痛みを感じるようになります。
──なるほど。歯そのものの問題だけでなく、歯ぐきが不健康でも知覚過敏は起きるのですね。
そうですね。あとは強い噛み締めで顎(あご)の筋肉が炎症を起こす「顎(がく)関節症」が知覚過敏を引き起こすこともあります。その主な原因はストレスです。
──「ストレス社会」に生きる現代人ならではの原因なのでしょうか。
そうですね。人はストレスを感じると食いしばったり、寝ている時に歯ぎしりをしたりすると言われています。
歯にとってもマイナスに働きますね。
──知覚過敏といっても、原因は様々なのですね。
そうですね。たくさんの原因がありますね。
「知覚過敏かな」と思って歯科医院で診察をしたら「虫歯だった」ということもあるので、歯に違和感を感じたら一度診てもらって、症状を把握することが大切ですね。
歯磨き下手な人ほど電動歯ブラシ
──知覚過敏はどうしたら予防できますか。
すでに言ったとおり、知覚過敏の主な原因はエナメル質の摩耗と歯茎が下がることによるセメント質の露出なんですね。これはいずれも、正しい歯磨きをすれば防げるケースが多いのです。
ということで、まずは毎食後、しっかりと歯磨きをすることです。歯に汚れが付くことで知覚過敏にもなりますので、口内を清潔に保つことが重要です。
特に寝る前の歯磨きは大切です。
起きている間は、自らの唾液やお口が動くことによって口の汚れが流れていきます。自浄作用ですね。ところが、寝ている間は唾液の流れが悪くなり、そうした作用は低下します。
そういうわけで、寝る前の歯磨きは大切なんです。知覚過敏に限らず、虫歯や歯周病などの予防にもなります。
──正しい磨き方について教えてください。
まず大事なのは、どこから磨くのか、スタート地点を決めておくことです。
そうすることで磨き残しを防ぐことができます。
あとは、ゴシゴシと音を立てないよう、磨くことですね。
ゴシゴシ磨きは、歯の表面をきれいにしますが、歯と歯の間や、歯と歯茎の境目にたまった汚れを取り除くことには適していません。
隙間の汚れは虫歯や歯周病の原因になりやすいので、ゴシゴシ磨きが思い当たる方はもう一度、歯磨きの仕方を振り返ってみるといいかもしれません。
定期的に歯科医院で歯ブラシチェックやクリーニングをしてもらうことをお薦めします。
──どうしても歯磨きが下手な人がいると思うのですが、その場合はどうしたらいいのでしょうか。
以前、歯磨きのうまさを比較する調査をほかの研究者たちと共同でやったことがあるんですね。※1
面白い結果になりまして、手で磨くと上手な人も下手な人もいたんですが、その人たちに電動歯ブラシを使ってもらったら、うまさの差はほとんどありませんでした。
つまり、電動歯ブラシだと、比較的誰でも上手に磨けるということなんです。電動歯ブラシは毛先が自動で動いてくれるので、歯に当てるだけでいいんですね。
歯磨きの技術がそこまで必要ないんです。
汚れの除去率についても、手で磨くより電動歯ブラシの方がいいという結果が出ています。※2
「時短」にも有効です。電動歯ブラシの毛先の振動回数は、1分間で3万回以上。※3
手で磨くよりはるかに多く、1回あたり2分で磨くことができます。※4
──歯磨きが苦手な人、忙しい人に適していますね。
それだけではないんです。70歳とか80歳とかになると、気づかないうちにだんだん磨き残しが増えてしまうんです。
割と早い時期から電動歯ブラシを使い慣れていれば、年をとっても歯の健康を維持しやすいと思います。
副次的ないい作用もあります。電動歯ブラシの振動が唾液の分泌を促進するとも言われます。
虫歯や歯周病を防ぐのに重要な唾液は、加齢とともに分泌量が減ってしまいます。服用している薬によっては、副作用で唾液が出づらくなることもあります。
そういった点を、電動歯ブラシは補うことにもなるんです。
(終わり)
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