フィリピンの“麻薬撲滅戦争”の裏側で、少なくとも122人の子どもたちが殺されている――国際的なNGOが、フィリピンで子どもや若者の命が奪われている状況をレポートにまとめて発表した。
122人の死の中には、次のようなケースがあったという。
7歳のソニーさんは2019年4月、警察官が麻薬常習者を殺害した場面を目撃したために殺害された。ソニーさんを手にかけたのは、警察関係者とみられている。
16歳のポールさんは2017年1月、妊娠した恋人の横で寝ていたところ、警察官と思われる複数の人物に襲われ、頭や体に銃弾を打ち込まれた。彼は死の直前「お母さん!」と母を呼び求めていた。
レポートをまとめたのは国際NGO「世界拷問禁止機関(OMCT)」とフィリピンの「子どもの法的権利と成長センター(CLRDC)」だ。
麻薬撲滅を掲げるフィリピンでは、ドゥテルテ大統領の指揮の下、違法薬物の使用者や密売人を厳しく取り締まってきた。
しかし、人権保護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、この作戦で多くの人が不当に警察によって殺害され、なかには殺人を正当化するために証拠を捏造するケースもあるという。
犠牲者の多くは貧しい地域に住む人々だ。そしてその多くに、幼い子どもや若者が含まれていることを今回のレポートは伝える。
122人は2016年7月から2019年12月の間に殺された子どもや若者の数で、年齢は生後20カ月から17歳。そのほとんどが警察か警察関係者に殺害されたという。
警察の標的になって殺された若者もいれば、ソニーさんのように他の殺人の目撃者になったために殺されたケースもある。
また、標的としていた人物を見つけられなかった警察が身代わりとして殺したり、人違いや流れ弾で命を失ったりした子どもたちもいる。
レポートは、殺害現場での情報収集や、家族や目撃者や地元警察への聞き取り、そして公文書の分析を元にまとめられた。
証言した家族や目撃者は全員が匿名だ。
我が子が殺されたにも関わらず、家族のほとんどが報復を恐れて訴訟を起こせないという。そのため、実際はもっと多くの犠牲者がいるだろうとレポートは述べる。
そして、実行した警察のほとんどが刑事責任を問われていない。
フィリピンの人権団体は、これまでに麻薬撲滅戦争で不当に殺された人たちの数は2万7000人に上ると推定しているが、警察官が有罪判決を受けたのは1件だけだ。
OMCTはフィリピン政府に、超法規的な殺人や重大な人権侵害を即刻中止し、法を侵した警察官らを制裁するように求めている。
OMCTのジェラルド・ステイブロック氏は、レポートが伝える犠牲者の数は「氷山の一角に過ぎない」と述べる。
同団体は国連人権理事会に対し、独立した調査委員会を立ち上げてフィリピンの若者たちに対する重大な人権侵害を調べるよう、強く訴えている。