ベビーカーで電車に乗ると冷たい視線を送られる。子連れで入れるレストランは少数派……。子育て世代に厳しいと言われる日本。「子どもが大きくなるまでは我慢しなきゃ」と思っているパパ、ママもいるのでは。
でも、その我慢、本当に必要ですか?
「子どもも親も生きやすい社会は、どうしたらつくれる?」待機児童問題などに取り組む駒崎弘樹さん、子連れ海外旅行を提唱する田中伶さん、男性学の視点から男性の生き方などを研究する田中俊之さんが、話し合いました。
◾️ベビーカーで電車に乗ってはダメ? 日本で子育てしにくい理由
―― 日本は子育て世代に厳しいという声がよく聞かれますが、皆さんは実際に子育てを始めて困ったこと、驚いたことはありますか?
田中俊之さん(以下、田中(俊)):僕は子どもと電車に乗った時「ベビーカーで乗ってくるなよ」と言われたことがあります。ベビーカー優先のエレベーターで誰も譲ってくれないとか、いろんな経験があります。
田中伶さん(以下、田中伶):私は1人目の子の保活ですごく苦労しました。うちは夫婦ともに自営業なのですが、認可保育園に入れたくても、区の制度では会社員より不利で。ポイント稼ぎのためだけに、生後3カ月から認可外保育園に預けました。
駒崎弘樹さん(以下、駒崎):僕の子どもは小学生なので少し前の話になりますが、保育園の「送りも迎えもママ」という光景に驚きました。女性の負担がものすごく大きい。日本の育休制度は、世界一と言ってもいいくらい充実しているけど、男性の取得率は今も約6%という惨憺たる状況です。
―― 親は子どものためにすべてを犠牲にするべき。そんな根強い価値観も、子育て世代を苦しめているようです。
田中伶:私は子連れの台湾旅行を提唱しているのですが、ネット上には「子どものリスクを考えたら海外に行くなんて、もっての外」「子どもが小さいうちは自分の仕事や楽しみより、子どもを優先するべき」なんてコメントが……。
田中(俊):ネットと現実は別で、現実には応援してくれる人もたくさんいるんですけどね。人間の心理として、3歳児神話(*1)とか、極端な言説に引かれてしまう。
駒崎:3歳児神話は、神話じゃなくてデマですよ。エビデンスはどこにあるんだって(笑)。僕は、そういう日本の子育てしづらさの背景には、家父長制の文化があると思っています。「子どもは親のもので、親は子どもに対して全責任を負うんだ」と、親に完璧を求める。だから、子どもに何かあれば「親は何をしているんだ?」とすぐプレッシャーがかかるんです。
◾️アルゼンチンでは子どもと一緒に夜更かしも。海外の子育て
―― 海外の子育て事情は、日本と異なりますか?
田中伶:台湾は、日本と同じく少子化社会なのですが、だからこそ「子育てをみんなで応援しよう」「子どもなんだから少しぐらい騒いでもいいよ」という雰囲気があります。地下鉄には親子優先車両もあるんですよ。
例えば、これは友人から聞いた話ですが、ある小籠包屋さんで小さな子が騒ぎ始めた時、海外の旅行客の方が「うるさいから注意してきて」って店員さんに言ったんです。そしたら「子どもが騒ぐのは当たり前。皆さんを別の席にご案内します」って、その方を違う席に誘導したそうです。スマートな対応に感心しました。
田中(俊):世界の子育て例を紹介している本によると、フランスには幼児食がなくて、2歳児も大人と同じ食べ物を食べている。アルゼンチンなんて、子どもが寝ないならパーティーに連れていって、一緒に夜更かししちゃう(笑)。
駒崎:そういう事例を知ると、子育てを相対化できる。カナダで子どもができたときに配られる冊子のタイトルは「Nobody’s Perfect」。完璧な親なんていないんです。日本でも、もっと多様で寛容な子育てが認められるべきです。
◾️誰もが子育ての「支援者」になれる、ちょっとした声がけ
―― 子育ての苦労や実情は、当事者にならないと、なかなか分かりづらいと思います。個人として、できることはありますか?
駒崎:皆が子育てをする必要はないけど、ぜひ親子の「アライ(Ally=支援者、味方)」になってほしい。当事者じゃなくても、アライになれるということを、僕はLGBTQ運動から学びました。アライになるためには、例えば電車の中に赤ちゃんがいたら、「大丈夫、味方だよ」と笑って話しかけるだけでいいんです。
田中伶:日本では子連れの外出で、肩身の狭い思いをすることが多い。そういう声がけをしてくれたら、緊張もほぐれます。
◾️巣鴨の“ゆっくりすぎるエスカレーター”は、子育てしやすい街づくりのヒント
―― 外出先で肩身の狭い思いをする、ということですが、街づくりについて、よい事例や提案はありますか。
田中(俊):都市部は健康な成人男性にちょうどいいスピードで動いているけど、子連れには速すぎる。だから、あたかも子連れが邪魔であるかのように見えてしまう。
“おばあちゃんの原宿”とも言われる巣鴨のあるスーパーのエスカレーターは、信じられないほどゆっくりしたスピードなんですよ。そうすると、健康な成人男性のスピードは速すぎると感じるようになるでしょう。どこが普通なのか、誰にスピードを合わせるのか、ということに疑問を持つと、街も変わると思います。
駒崎:それはすごく面白い。都市のスピードの基準をずらしていくということですね。巣鴨が高齢者を中心においてエスカレーターの速度を変えたように、社会の速度や構造を、子どもや子育て世代に合わせて転換する必要があると思います。
◾️おむつ替え台の設置を「パンパース」が開始。企業が変われば子育ても変わる
―― 企業ができることについてはどう思われますか? おむつブランドの「パンパース」は、全国の道の駅などに、おむつ替え台の寄付を始めました。
田中伶:おむつ替え台探しには苦労することが多く、出かける場所が限られてしまうので、本当に増やしてほしいですよね。
田中(俊):女性用トイレにしかないことも多いので、男性用のトイレにもぜひつけていただきたいです。
駒崎:企業は「子どもにやさしくない制度やインフラはイケてない」という文化をつくりだし、どんどん発信していってほしい。
◾️子どもは「社会の子」。どんな家族のかたちでも生きやすく
―― 皆さんは、どんな子育て、社会を理想としていますか。
田中伶:私の理想は、好きなことを諦めなくていい子育てです。子どもとの時間も、夢に向かって活動する時間も、自分らしく楽しんでいる姿を子どもに見せることで、「面白い人生もあるんだな」と感じながら育っていってくれたらと思います。
田中(俊):人と比較しない、自分が納得できる子育てが大事ですよね。僕は今、帰りが6時過ぎたら「今日遅くなっちゃった」って思うくらい働く時間が制限されていて、収入も下がりました。でも、自分が満足しているからいいんです。いつか子どもが自立して「お父さんはいなくていいよ」という日が来るまで、続けるつもりです。
駒崎:僕は、子どもは親の子であると同時に、皆の子、社会の子だと思っています。だから困っていたら「どうしたの?」と声をかける。また、親にとって、今の社会は「子育て」「仕事」の二者択一ですが、子育てをしていたって何にでも挑戦できる、というふうにしたい。そして、血が繋がっていなかろうが、LGBTQであろうが、どんな家族のかたちであっても、生きづらさを抱えずに笑って暮らせる社会にしていきたいです。
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「この世界の皆が一人ひとり違うように、子育ても一人ひとり違っていい」
1977年に日本へ上陸し、一般家庭に紙おむつを普及させてきたパンパースは、そんな思いを込めて、2020年「あなたらしい子育てが、いちばん。」という新プロジェクトを始めました。
まずは第一弾として、全国の道の駅などの公共施設に、誰でも使えるおむつ交換台の導入支援をしていきます。さらに、ベビーケアルームの導入サポート、被災地へのおむつ寄付などをします。
プロジェクト公式ページでは、皆さんの思う「#わたしらしい子育て」を募集しています。本当は“こうしたい”けれど周りの視線や意見が気になってできていないことや、周りの意見とは違うけれど実践していることなどをぜひ教えてください。
これからもパンパースは、多様な子育てを認め合える未来を目指していきます。
(撮影:川しまゆうこ)