「求める人物像」を明確に伝えることの危険と非効率

会社では「期待する人物像」を従業員に伝えるのは、大事なことだというのが共通認識ですが、これは効果的でないどころか、へたをすると逆効果にさえなるかもしれません。
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会社では人材育成のために、または組織の戦略的な観点からも「期待する人物像」を従業員に伝えるのは、大事なことだというのが共通認識ですよね。

しかしこれは効果的でないどころか、へたをすると逆効果にさえなるかもしれません。

ちなみに〝期待する人物像〟という言葉でgoogleに入れて上がってきた企業のHPトップ4から、少し紹介してみます(4社のHPから該当部分を一部抜粋)

明るく素直で、ものづくりが好きで、じっとしているより動き回るのが好きな人。

学校の成績がいい人というより、興味を失わずねばり強く努力を積み重ねていける人が、この仕事に向いている。

○○○○の基本方針に心から共感し、自らの手で未来を勝ち獲る覚悟がある人をお待ちしています。

建設的な思考で常に前向きに行動する人・人の意見に素直に耳を傾けコミュニケーションできる人・グローバルな発想と向上心をもつ人

どれも特に違和感はないのですが、問題はどのように伝わるか。それがまさにコミュニケーションの根幹です。

期待する人物像とは、「採用(登用や抜擢)にあたって、・・・のような在り方、ふるまいを求める」という、言わば会社が示す条件付けです。

例示したものは、いずれも別段わかりにくい内容ではありません。

それでも一般に企業が人材育成やエンゲージメント(組織と人の一体感の醸成)に苦労するのはなぜか。

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それを考えるために、一つの例を挙げてみます。

あなたが今、「おそらく自分は千葉の九十九里あたりに立っている」と、自分の居場所を推定しているとしましょう。

実際の道案内とちがって、人生や仕事にはクリアな道標がないことが通常。だから自分の立ち位置は、あくまで推測です。

この曖昧さを実感するために、〝居場所〟と表現したことを、自分の置かれている立場や状況、周囲からの評価、自分の強みや課題といった、リアルな項目に置き換えてください。

日々こうして、なんとなく推測しながら生きているあなたのところに、上司から電話がかかってきました。

「今すぐ、東京駅の丸の内中央口に来なさい」

今度はこの要請を、〝期待する人物像〟に置き換えてみましょう。

(たぶん)自分は九十九里にいると思っているあなたは、上司の期待に沿うべく西を目指します。

この場合、大筋の自己推量は当たっていたけれど、もしもあなたが本当にいる場所が仙台だったら、とてもじゃないけど九十九里から向かうスピードでは到達できません。

もしも実際は横浜にいたら、東京とは逆方向に向かって突き進んでいくことになります。

何が言いたいかと言うと、

精度の高い自己認知=セルフアウェアネスがないままに、

会社や上司の指示を素直に聞くのは危険だ、ということです。

あなたが指示を出す立場であれば、

他者に「こうなってほしい」「こんな行動をとってほしい」と、

力強く明確に伝えることは危険だ、ということです。

「マネジメントに求められるコミュニケーション」という研修プログラムを企画したとします。

部下をアクノリッジ(承認する)ことが大事だ、と講師が伝えました。

受講する20名の管理職の何割かは、もともと人との交流自体に触発されにくい傾向があります。

そもそも関心が低いので、「そのくらいならやっている」、「この程度でいいだろう」・・・と、さらっとスキルをすくい取ってオフィスに帰ります。

また他の何割かは、もともと人に対する配慮が過剰になる傾向があります。そもそも自分が大事にしていることなので、「このままでいいんだ」と安心したり、「もっとやろう」と意気込んでオフィスに帰ります。

お互い、ほんとうに持ち帰らなければいけないことは、他にあるのに。

「知っているつもりで知らない自分」に対する気づき。

自分の強みや弱み、癖や習慣。他者に及ぼしている影響の中身や程度。価値観や信念。もっと基本的なことで言えば、健康状態や体力。さいきんの精神状態、モチベーション、その背景・・・。

自分を知るといっても、その対象は実に多様です。

その多様な自分に対する継続的な気づきのプロセスがあってこそ、他者から自分に投げかけられること、その情報が貴重なリソースになっていきます。

スタンフォードのビジネススクールにおいて、カウンシル(評議委員)が「リーダーシップにおいて開発されるべき最も重要なものは何か」の問いに答えました。

その結果、満場一致で「セルフアウェアネス=自己認知」と結論づけられました。

リーダーシップ、あるいは自己を律するセルフリーダーシップも含めて、パフォーマンスの根幹は自分を知ること。

セルフアウェアネスを醸成する機会を蔑ろにしたまま、「期待する人物像」に沿って人づくり、組織づくりを考えるのは、危険で非効率なことだと思います。

(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート理事 吉田典生)

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