北極域の永久凍土の気温上昇と衰退が地球温暖化との関連で注目されている。その原因として、積雪の影響が気温よりも大きいことを、海洋研究開発機構地球環境観測研究開発センターの朴昊澤(パク ホーテク)主任研究員らが観測データの解析と数値モデルで示した。温暖化は一筋縄ではいかない複雑な現象であることを印象づけた。ロシア科学アカデミーシベリア支部永久凍土研究所と米アラスカ大学フェアバンクス校との共同研究で、10月14日に米科学誌Climate Dynamicsオンライン版に発表した。
近年、温暖化の影響で北極陸域の永久凍土の衰退及び地温上昇が急速に進行している。地温の上昇率は気温上昇よりも高く、その要因として積雪の影響がこれまでも指摘されていたが、その寄与率は未解明だった。今回、観測データを詳しく解析するとともに、コンピューターの数値モデルで定量的に分析した。東シベリアとアラスカの永久凍土域では、地温に対する積雪による断熱効果の影響が50%以上と気温より大きいことがわかった。
北極域は、気候変化の影響が顕著に現れる地域で、近年の北極海の海氷の減少は、周辺の大陸だけでなく、日本を含む北東アジアの気候にも影響を及ぼすと考えられている。2007年の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書」によると、北極地域の気温はここ25年で地球全体の平均の2倍近く上昇したことが指摘されている。東シベリアのヤクーツク周辺では、近年、温暖化によって永久凍土が急激に衰退しており、東シベリアの森林を枯死・荒廃が進んでいることも明らかになっている。
研究チームは、1901~2009年の北極陸域の観測データと数値計算結果、地温に対する積雪の影響などを調べた。東シベリアでは、過去100年間で気温が1.5℃上昇したが、地温の上昇は1.87~2.50℃と、気温よりさらに高い上昇率となっている。1950年以降の深い積雪が断熱効果を発揮して、地中が暖まりやすくなったためと考えられる。一方、北米では特に1990年以降、急激に気温が上がっているにもかかわらず、地温の変化は横ばいか、下がっている。同時期の積雪の深さが急激に減少して断熱効果が下がり、地温の上昇を抑えたと研究チームはみた。
この説を検証するため、研究チームは数値モデルを用いて、降雪量に異なる条件を与え、地温がどう変動するかをコンピューターで数値実験した。研究チームが考えた通り、北極域では積雪が増えると、断熱効果の増加で地温が上昇し、反対に積雪が減ると、地温が明らかに低下していた。特に、積雪の影響は暖かい南より寒い北の方でより大きかった。
さらに、北極の凍土域では気温条件にかかわらず、積雪の変化に連動して地温が上下することもわかった。北極域でも特にアラスカや東シベリアの永久凍土域で、積雪の影響が大きく、積雪の寄与率が50%にも上った。その傾向は積雪の始まる秋により顕著だった。一方、アラスカと東シベリア以外の北極域では気温の寄与率が高くなっていた。
朴昊澤主任研究員は「地球温暖化に伴い、今後も東シベリアとアラスカの凍土域で積雪の増加が予想され、地温上昇がさらに進むことが十分考えられる。凍土内に存在する多量の炭素有機物と氷塊の分解や融解が促進されると、温暖化が加速する可能性がある。温暖化研究で北極域の積雪の役割をもっと重視する必要があるだろう」と指摘している。
関連リンク
・海洋研究開発機構 プレスリリース
サイエンスポータルの過去の関連記事
・2008年1月21日ニュース「東シベリア永久凍土の融解進む」