「眠り」「食」「排泄」「活動」はどれも密接に関連しています。そしてこれらは本来すべて「気持ちのよい」行為なのです。
ヒトは「寝て食べて出して初めて心身の活動のパフォーマンスが高まる昼行性の動物」です。眠る、食べる、出す、身体や脳を働かせる、の四つにはすべて快が伴います。みな気持ちのよい行為です。気持ちがいいということは、その行為が生きていくうえで大切であるということなのだと思います。
でも今の社会、これらが義務にさせられています。子どもには眠りが大切なのだから寝かせなければならない。運動は大切なので、ジムには夜中にでも通って身体を動かさなければならない。なんだかとてもかなしい社会に思えてしまいます。
さらに今の社会では「寝る間を惜しんで仕事をする」ことが素晴らしいこととされています。周りを見回せば、眠気に負けるな、眠気なんか吹っ飛ばせ、疲れてもがんばれ、とあって、各種端末にはさまざまなコンテンツが24時間配信され、社会を挙げて「寝るな」と叫んでいるかのようです。
寝ないと太り、脳や心や身体に悪影響を与えることが報道はされるのですが、多くの方は自分とは関係ないことと感じているかのようです。
現代人は理屈で身体を支配しようとしています。ビタミンAやビタミンCの量を考えて食べるトマトがおいしいのでしょうか? 食べて快は得られるのでしょうか? 私は真っ赤なトマトを見てうまそう、と思えばそれが今の自分に必要なのだろうと感じてむしゃぶりつき、うまいと快を感じます。
24時間よりも周期が長い生体時計を地球時刻に合わせるのに必要な朝の光を浴びるために早起きをするのではなく、朝日を浴びると気持ちがいいので早起きをします。夜の光が生体時計の周期を遅らせ地球時刻とのズレを拡大し、眠気をもたらし、酸素の毒性から細胞を守るメラトニンの分泌を抑えてしまうから夜ふかしをしないのではなく、夜眠ると気持ちいいから眠るのです。
寝ることは、食べること、排泄、そして活動(運動)と密接に結びついています。眠りというと夜のことにばかり注意が向きますが、わかっていただきたいのは、眠りは1日の生活すべてと密接に結びついている、という点です。
たとえば運動不足の状態では便秘になりがちで、便秘になると夜中に何度も目が覚めやすくなります。きちんと排泄がなされるためにはきちんと食べていなければなりませんが、寝不足では脳も身体も十分には働きませんし、おなかもすきません。
眠りには食べて出して活動することが必要です。食べるためにはしっかり寝て、出して、活動しなければなりませんし、出すためには食べて、眠り、活動することが重要です。また脳や身体の活動のためには眠り、食べ、出しておかなければなりません。
眠り、食、排泄、そして活動が密接に関連していることを忘れないでください。どれか一つの調子が悪くなったら残り三つのことを考えることが大切です。
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【医師プロフィール】
神山 潤(こうやま じゅん) 小児科
公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者)
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。