スマートフォン向けゲームとして大ヒットした「パズル&ドラゴンズ」、通称“パズドラ”。スマートフォンの普及を背景に利用者を伸ばし、7月には1700万ダウンロードを達成。開発元のガンホー・オンライン・エンターテイメントの時価総額は1兆円を超えている。これは国内ゲーム業界では任天堂につぐ規模だ。2012年の売上が258億円だった同社が、2013年2月だけで100億円。前年同月比で13.8倍と驚異的な成長を続けている。
日本でのヒットを受けて、ガンホーはこれまでの日本、韓国に加えて、欧州とオーストラリアに進出するという報道もある。
パズドラがどんなゲームで、どういうビジネスモデルで、なぜ成功したのかをまとめた。
■パズドラ、そもそもどういうゲーム?
スマートフォンの普及率が50%を超える中、1700万ダウンロードを達成したパズドラ。スマートフォンユーザーの3人から4人に一人が遊んでいることになる。いったい、どういうゲームなのか。
パズドラは、「パズルRPG」と呼ばれるゲームで、パズルゲームの要素と、戦いなどを通してキャラクターを成長させていくRPG(ロールプレイングゲーム)の要素を併せ持っている。ゲームの基本は、「ドロップ」と呼ばれる何種類かの絵柄を、縦か横に三つ揃えて消す簡単なパズルゲームである。ドロップを消すと、プレーヤーの育成しているモンスターが敵モンスターに攻撃をする仕組みになっている。消すドロップの種類や数によって攻撃力などが異なってくるため、ドロップの消し方を工夫しながら敵モンスターを倒し、ダンジョンを攻略していく。
(コトバンク「パズドラ とは」より)
■パズドラのビジネスモデルは?
パズドラはただ遊ぶだけなら無料だ。よりゲームを楽にするアイテムや、普通にプレイすると滅多に出現しないキャラクターを手に入れるのに課金をするのがビジネスモデルだ。
無料で遊べ、アイテムで課金、というと、射倖性が高く、高額課金を招くいわゆる「コンプガチャ」が問題にされ、グリーやモバゲーのDeNAなど業界が自主規制するといった動きがあった。一見、似たビジネスモデルに感じられるが、ガンホーの森下一喜社長はこれを否定する。
単純にガチャを回してビックリマンチョコのようにカードを獲得しても、お金を払う努力をしているかもしれませんが、それは努力ではありません。努力がいらないゲームばかりが世の中に増えると、ゲームは世の中に必要ないものになってしまう。
当時流行っているカードバトルゲームをゲームと言っていいのかと考えたときに、達成する喜びや感動を与えるゲームを作りたいと考え、パズドラの開発に当たりました。
(東洋経済オンライン「「パズドラ」大ヒットの真相 | インタビュー」より 2013/02/25)
また、別のインタビューでは、コンプガチャのように高額課金に頼るのではなく、細く長く遊んでもらうことで利益を上げる、という考え方も示している。
―えぇ! 株式会社という利益を追求する組織である以上、収益を少しでも多く上げようと考えていると思っていましたが。
「何も儲けたくないわけじゃないんです。ただ、よりたくさんの人に細く長く遊んでもらったほうがいい。短期間で爆発的に儲けるより、長期間にわたって儲けが出るようにしようと考えたわけです。基本無料のアイテム課金制ゲームは短期間に多額の売り上げを上げるものほど、ブームが終わるのも早い傾向にあります。課金してくれるユーザーがそれだけ早く息切れしてしまうんでしょうね。だからパズドラでは長期的に売り上げを上げられるようなゲームシステムにしているんですよ」
(週プレNEWS「『パズドラ』の祖、ガンホー・森下一喜社長「パズドラは課金したい人だけ課金してくれればいいんです(笑)」 - インタビュー - 週刊プレイボーイのニュースサイト」より 2013/04/15)
■爆発的ヒットの理由 1. 時代背景
スマホゲームの世界は、ヒット作が出るとすぐに模倣される。そうした中でパズドラが長期間に渡って支持される理由はなんなのか。まず、真っ先に指摘されるのはスマホ化、クラウド化、ソーシャルメディア、といった時代の潮流だ。これはパズドラに限ったことではなく、「スマホゲーム隆盛」の背景そのものと言える。
クラウドをはじめとするネットワーク環境の整備、スマートフォンやタブレットといった情報端末の技術革新と急速な普及、ソーシャルメディアの浸透によるコミュニケーションの変化と遊びの概念の広がり……。あらゆる要素が一気に押し寄せているわけです。
いわば、ゲーム業界における「ゲームのルール」が変わりつつあります。この波に乗って成長を遂げる新興勢力と、任天堂、ソニー・コンピュータエンタテインメントといった老舗企業の間で、熾烈な戦いが繰り広げられています。
(ダイヤモンド・オンライン「「パズドラ」が国民的大ヒット 時流をつかんだガンホーの底力を大解剖」より 2013/07/22)
■爆発的ヒットの理由 2. ゲーム性
では、他のスマホゲームとパズドラを分けたのはなんなのか。面白さ優先したゲーム性、という意見が根強い。これは、パズドラのプロデューサーも語っている。
- パズドラ生んだだけじゃなくて、育てた土壌ということでガンホー社のスタイルとかその辺も聞かせてください。
山本:社長の森下がとにかく面白いゲームを作るのが最優先だ、っていう会社なので、プロトタイプを1ヶ月とか2ヶ月とかで作るんですね。その時は事業計画とか予算とかも一切いらないからゲーム作っていいよ、って感じで始まって、面白かったら本格的に開発っていうスタイルなので、作る側としてはベストな環境ですよね。
(AppBank「【徹底インタビューその2】パズドラはこうして生まれた」より 2013/01/12)
ユーザー側からも、ゲーム性への評価は高い。
今やスマホユーザーなら知らない人はいないほど浸透したパズドラですが、人気の秘訣は何でしょうか?
"パズルという単調作業にRPG要素を加えた"
"比較的動作が安定&マメなイベント更新&グラフィックが綺麗"
"無課金で長く遊べる"
(HighChartsFreQuent「【1700万DL突破】パズドラ 累計ダウンロード数の推移をグラフ化 -」より 2013/07/28)
■爆発的なヒットの理由 3. スマホへの最適化
ゲーム性と同時にヒットの理由として語られるのが、「スマホへの最適化」だ。
ヒットした要因の一つは、スマホに最適化したゲーム作りをした点にある。パズドラはパズルを並べて消すことで相手のモンスターを倒し、ダンジョンを冒険していくパズル&RPGというジャンルを開拓。ガラケーと呼ばれる従来型携帯電話上のゲームはボタンを押すだけの単純なゲームが多かったが、パズドラはスマホの性能を生かした操作性の高いゲームを作ったことが大ヒットにつながった。
(web R25「「パズドラ」快進撃の理由」より 2013/06/20)
■爆発的なヒットの理由 4. 運
一方で、「運」という答えも、作り手自身が語っている。だが、「運」と言い切る裏には、やはり1つ目の理由、ゲーム性へのこだわりが背景にあることは間違いない。
──ヒットの要因をどう分析していますか。
山本:半分以上は運だと思っています。どれだけ面白いと思うものを作っても、当たるかどうかわからないし、どのくらいゲームに共感してくれる人がいるかもわからない。
森下:運という言葉の裏には深い意味があります。ゲーム屋として当たり前にやるべきことをきちんとやる。ゲームは面白くてなんぼの世界なので、そこに徹底的にこだわって作り込む。
(東洋経済オンライン「パズドラのヒット、半分以上は”運”です」より 2013/06/21)
パズドラの成功を真似ることは簡単ではない、運の要素も大きい、と指摘する専門家も。
「パズドラ」が、この膨大なゲームの海の中で、突出して人気を得るようになったのは、次のような理由が考えられるだろう。
「ゲームの質がスマホ向けに高く、簡単操作だったこと」、「リリース時期がスマートフォンが急激に浸透する時期と重なったこと」、そして、「ネットワークの外部性の好循環にはまり口コミの広がりが早かったこと」、「女性ユーザーの支持があったこと」等だ。
しかし、「運」や「まぐれ」の要素は無視できない。
もちろん、成功するためには、そのゲームの「質が高く」、「適切なタイミング」で投入され、「適切なポジション」を獲得しなければ不可能だ。しかし、それを言うことは簡単だが、実際に行うことは容易ではない。
(ファミ通オンライン「「パズドラ」にはなぜ「運」が必要だったのか:認知バイアス(2) | 新清士の「デジタルと人が夢見る力」」より 2013/07/11 21:21)
■高額課金問題には自主規制
コンプガチャの時と同様、パズドラにも高額課金の問題がないわけではない。消費者庁はガンホーに対策を要請、ガンホーは自主規制を設けている。
ただ、スマホ向けゲーム市場が市民権を得るためには、未成年への高額課金問題は避けては通れない。国民生活センターに保護者からの電話相談が相次いだことを受け、消費者庁はガンホーに対策を要請。ガンホーは16歳未満は5000円、16歳以上20歳未満は2万円と月額利用料に上限を設けた。
「こうした取り組みが根付かない限り、パズドラの生涯顧客化戦略も本当の意味での成功とはいえない」(業界関係者)との声も聞かれる。ガンホーが描く青写真の成否が問われるのはこれからだ。
(Business Media 誠「:「パズドラ」の次は? 注目される、ガンホーの戦略 (1/2)」より 2013/07/10)