パタゴニア、休業してまで社員を選挙に行かせる理由。「企業が政治を語ることはタブー視されていますが…」

パタゴニアは参院選の投開票日、全直営店を休業して社員が選挙に行けるようにする。日本支社の担当者がその理由を明かした。
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取材に応じた佐藤潤一さん=東京
Yukiko Oga

パタゴニアが参院選の投開票日(7月21日)、全ての直営店を休業することを発表した。これに対し、SNSで賛同の声が広がっている。

この日は日曜日、小売業にとって稼ぎ時のはずだ。異例の決定には何があるのか。パタゴニア日本支社の環境・社会部門シニアディレクター、佐藤潤一さんに聞いた。

━━ 参院選の投開票日、すべての直営店を休業することにしましたね。

お客様に投票を呼びかけるキャンペーンは2016年の参院選と2017年の衆院選でもやってきました。

「Vote Our Planet」と銘打ち、投票を通じてお客様に環境問題を考えてもらうというのが狙いでした。

今回は弊社の社員やスタッフにも投票に行ってもらったり、家族や友人、大切な人たちと政治や選挙について話す機会を持ってもらいたかったんです。

投開票日を休みにした方がインパクトが大きく効果的だということになり、それで全直営店を一斉休業させることにしたんです。

━━ とはいえ、小売業で日曜日を丸一日休みにするのは大変なことなのでは。

そもそも一斉に休みにすること自体がほとんどなく、それこそ正月休みくらいです。

ただ経済的にどうこうというよりも、パタゴニアが会社としてしっかり選挙に関わる、ビジネスを行う者の責任として地球環境を守っていくんだ、という姿勢を示すことに重きを置きました。

━━ 確かに、SNS上では「これからはパタゴニア製品を選ぼう」という声も見られます。

予想以上に反応がありました。パタゴニア創設者のイヴォン・シュイナードは、「ものを売るのではなく、会社の考えを広めるのがマーケティングだ」という趣旨の発言をしています。

パタゴニアは売り上げだけをビジネスの指標にはしていません。今回のことで、企業の理念に賛同が集まり、それが購買につながるということが実証されれば、他のビジネスにもプラスになると思います。

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Yukiko Oga

━━ パタゴニア製品に限らず、環境に優しい製品は値が張る印象がありますが、若者の客は増えているのでしょうか。

そこを差っ引いても、着る人は増えました。メルカリなどの人気もあり、きちんとしたものを買った方が後々売れる、ということも関係しているとは思いますが。

最近は10代の高校生や大学生がパタゴニア製品を購入してくれることが多くなったのですが、弊社のフェアトレードやオーガニックコットンといった、環境に配慮した製品に共鳴してくれているようなのです。

特にパタゴニアロゴの入ったTシャツが売れています。インスタグラマーとかが着てくれたのかな?

長く着てもらえるよう、流行に乗ったデザインを出しているわけではないので、何がきっかけになったのかは分からないです。

━━ 18歳選挙権が始まったにも関わらず、若者の投票率が低いままのことを御社は憂慮されていますね。

海外では若者がデモを企画したりと、積極的に政治活動をしています。

若者から支持を受けるブランドだからこそ、「パタゴニアが言うなら自分も投票に行こうかな」「投票に行くことは、かっこいいことなんだ」と思ってもらえたらいいなと。

直営店舗で配布している「VOTE OUR PLANET」のステッカーは、実は上のシールをはがすと「I VOTED OUR PLANET」(「地球に投票しました」の意)のロゴが現れるようになっているのです。

SNS映えを狙ったのですが、まだあまり気づかれていないみたいです(笑)

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直営店で配っているステッカー。表(右)をめくると、「I VOTED」(「投票しました」の意)
Yukiko Oga

━━ 今回、特に環境問題の中でも気候変動に絞って訴えているのはなぜですか。

日本でもここ最近、豪雨災害が毎年のように続くなど、気候変動によるとみられる異常気象が深刻になっています。

健全な地球がなければ、ビジネスはおろか、日々の生活も成り立ちません。それなのに、日本の政治で環境問題が争点になることはまれです。

G20大阪サミットを伝えるニュースでもほとんど触れられなかったと思います。

今回の選挙も、身近な年金や増税のことがよく語られています。しかし気候変動も同じくらい自分たちの生活につながっているのです。

そこでパタゴニアでは、せっかくの機会だから、あえてこちらから問題を発信して争点にしていこう、議論のきっかけを作ろう、と行動しました。

━━ 企業が政治的な発言をするというのは、日本では珍しいですね。

同じような休業は、(パタゴニアの本社がある)アメリカでは既に大統領選挙の中間投票の際に実施されているのです。アイデア自体はアメリカからもらっています。

アメリカでは他にも、Outdoor Industry Association(パタゴニアやノースフェイスなど、アウトドアウェアブランドが加盟する協会)が、自分たちの理念にあった候補者のリストを公表したり、GoogleやFacebookといった大企業が、トランプ大統領の移民政策に反対の声を上げたりしています。

このように企業による政治的発言が社会で許容されている、むしろ企業に求められてきています。

日本では、企業が政治を語ることはタブー視されています。ですが私たちは、色々な人が発言することで、健全な地球が守られると考えています。

━━ スタッフにはパタゴニアの理念に合った政治家や政党に投票するように薦めているのでしょうか。

それは一切していませんし、投票も強制はしていません。期日前に投票して、投開票日当日は家族や友人との時間を過ごしても構わないと思っています。

大切なのは、一人一人が自主的に興味を持ち、自分の意見を持って、政治に参加することなのです。