梅雨真っ最中の7月の渋谷、12日金曜日の朝9時。
しっとりとした小雨の中、私はパタゴニア渋谷ストアに向かった。
今年の参院選の投票日(7月21日)、全ての直営店を休業することを発表したパタゴニア。各店舗が選挙を前に開催している、政治や社会のあり方などについて気軽に会話する「ローカル選挙カフェ」に参加するためだ。
平日午前開催の渋谷ストアでのイベントには、「職業体験」に来ている地元の中学生や、大学生、ストア近辺に勤める社会人から近所に住む70代まで、約30人が集まっていた。テレビや新聞などの取材陣も多く、注目度が伺える。
開始時刻の9時が少し過ぎ、イベント開始。パタゴニアの企業理念や選挙への思い、イベントの趣旨などの短い説明の後、グループに分かれて、選挙や社会問題についてのディスカッションがスタート。嬉しいことに、朝ということでパンやコーヒーも用意されている。
私が参加したグループは、男子中学生から町内会の70代の女性、大学生、社会人、海外出身者など、多様性に富んだメンバーの集まりだった。それぞれの自己紹介の後、「選挙に行く意義」や「気になる社会・環境問題」などについて、スタッフを中心にみんなで会話を始めた。
環境保護に力を入れる同社は、選挙において「Vote Our Planetー私たちの地球のために投票しようー」というキャンペーンを実施している。しかしグループディスカッションでは「海洋プラスチック問題」への意見も出るものの、「年金問題」「孤独死」「夫婦別性」など、環境よりも社会問題への関心の方が高かったと感じた。
海外では環境問題は政治や選挙の際の大きな焦点の1つになるが、日本ではまだ時間がかかるのだろうか(地球温暖化は待ってくれないのだが)。
政治について語る敷居の高さもしかり。
海外出身で今回初めて投票に行くという18歳の女子大学生は、「アメリカだと高校生でも普通に政治について話すけど、日本でそんな話したら『意識高い人』って言われて。しかもそれが時に褒め言葉じゃなくてちょっとネガティブな意味だと知ってびっくりしました」と話していた。
今回、私は選挙に行くつもりだ。それは自分の意見を政府へ届ける、自分でできるせめてもの意思表示だと思っているから。しかし、ちょっとドライな気持ちもある。そこで、グループの皆さんに聞いてみた。
「選挙は行こうと思っています。でも正直、私の1票で何か変わりますか? 熱い思いを込めて投票しても、たったの1票で何か変わると思いますか?」
すると、グループ最年長の70代の女性は、真剣な表情で「はい、変わりますよ」と答えた。
「私の長い選挙経験から言うと、投票結果って結構接戦だったりするんです。あー、あと数票足りてれば...とか。だから、1人の投票でも違いが出るんです。だから私は、1票でも変わると思いますよ」
キャッチコピーで「あなたの1票で日本を変えよう」などとよく耳にするが、人生と選挙の先輩からの、イチ国民としてのリアルな経験に基づく意見は、どの選挙ポスターよりも心に響いた。
イベントはその後、各グループが意見発表などをし、盛り上がりをみせて終了した。
帰り際に話をした20代女性(社会人)は、「普段交流のないような人たちと、普段話さないような事を話せて勉強になったし楽しかった」と貴重な体験を楽しんだ様子。やはり、日本で政治や社会問題について話すことは、特に若い世代の日常生活でよくあることではないのだろう。
金曜日、渋谷、朝10時半。
店を出ると、まだ小雨が降っている。
私は通り沿いにある「タピオカ始めました」と謳う飲食店を横目に、駅に向かって歩いた。
「タピオカを飲みながら政治を語ろう!」という企画はどうだろうか......などと考えながら。