塾の「合格率」の罠

合格率がその塾の真の実力を上手く表せているかというと、様々な問題点が存在しています。
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さっき気づいたのですがこの土日はセンター試験なのですね。

私がセンター受けたのももう随分と前の話になってしまって懐かしささえ感じます。

現在進行形の受験生の皆さんはほんとしんどいと思うのですが、こんな風に時間が経つと「ああ、センター試験かぁ、そんなのもあったなぁ」といずれ良い思い出になる時が来るので、何とか乗り切って欲しいなと思います。

とはいっても、もしもう一回センター試験を受けなさいと言われたら、もちろん全身全霊を挙げて丁重にお断りさせていただきますけれど・・・(あんなの二度と嫌です)。

さて、センター試験と聞いて思い出したのですが、先日、電車の中である学習塾の広告を見たんですよ(どこの塾かは忘れました)。

座れずに特に何もすることが無かったので、ボーっとその広告を眺めてたのですが、イマイチ良く分からないんです。

その広告は「合格率90%!」と、高い合格率を強調しているものでした(細かい数字は覚えてません)。まあ、一般的な塾広告の形態ですよね。

広告ですし、高い合格率を売りにその塾がいかに優れているかをアピールしようとしてるのだろうなという意図は、もちろん分かります。

では、私が何が分からなかったかというと、そもそものこの「合格率」という概念そのものです。この数字がいったい何を指してる数字なのか私にはさっぱり分からなかったんですよ。

「合格率90%!」と言うからには、何かの中の何かの割合が90%のはずです。

じゃあ、その分子分母は何なのか――でもそれがその広告にはしっかり書かれていなかったのです。(もしかしたら、こまかーーーーい字で隅っこにあったのかなぁ)

合格率の分子・分母は大事

合格率の分子・分母?

そんなの受験者数で合格者数を割ったに決まってるじゃないか。

こう思われる人も多いかもしれません。

でも、実はそうでもないのです。

ザッと見たところ、同じ合格率と言っておきながら、ある学校の受験者数でその学校の合格者数を割ったオーソドックスなものから、対象校の定員でその学校の合格者数を割っているもの(マーケットシェアみたいなものでしょうか)や、塾所属者数で第一志望校の合格者数を割っているもの(希望叶った率?)、塾所属者数でどこかに合格できた者を割ったもの(進学率?)など、意外と色んな「合格率」が見られます。

こうした中で、ただ「合格率90%!」と言うだけで何を何で割ったものなのか明記されていないと、解釈に非常に悩むことになります。というより、解釈できません。

例えば、難関校の受験者数/合格者数やシェアとしての合格率が90%であれば高いと思えても、第一志望校の合格率だったり、進学率だったりすれば、もう少し欲しいなと思うかもしれませんよね。

当然ですが、どの「合格率」なのかで、その数字から受ける印象は当然変わりうるのです。

やはり、まずある数字が高いか低いかを評価する際には、その数字がどうやって計算されたものなのかが確認できる必要があります。

合格率で言えば、分子・分母がはっきりしていることが不可欠です。

そうでなければ、その数字が何を指し示しているのかさっぱり分かりません。

もし、このような不完全な合格率表示が許されるのであれば、私だったら合格者数で合格者数を割ってしまいます。

それなら、合格率いつでも100%ですから♪

合格率の分母の選び方がとても大事

もちろん実際には私が冒頭で上げたような不十分な情報の広告ばかりでなく、ちゃんと分母・分子を明記している塾はたくさんあります。

では、分母・分子が明記されていれば合格率広告の問題は解消かと言えば、そうでもありません。

なぜなら、分母は事前に選抜することができるからです。

分子は、多くの場合対象校の合格者数などで、学校や大学側が主体となって入学試験で決める要素ですから、塾側が簡単にどうこうすることはできません。

しかし、分母、多くの場合は受験者数や塾生数ですが、これは塾側が介入することが可能です。

例えば難関校の合格率(合格者数/受験者数)を上げたいと思えば、受験者数を減らしたり受験者の質を上げれば実現できます。つまり、その難関校に受かりそうな出来の良い子だけ受験させ、成績が足りない子は受験させないという「分母の選抜」を行えば良いのです。

たとえ成績が良い子が難関校志望でなかったとしても「受かる実力があるのに受験しないのはもったいない」などと言い難関校受験を促したり、成績が悪い子が難関校志望であったとしても「このままでは受験しても受かる見込みは無い、安全に他を受験することをオススメします」などと言い難関校受験を諦めさせたり、それを実現する方法は十分あるでしょう。

さらに塾側は入塾の段階で入塾テストなどをして、優秀な子のみ入塾させることもできます。優秀な子のみ入塾させれば、自然と難関校合格率も上がります。

他、第一志望合格率(第一志望合格者数/塾生数)や進学率(合格者数/塾生数)も受験指導で塾生に安全策をとってもらえば高めることが可能です。

本来、塾の広告を読む保護者の方々の関心は、その塾が我が子の合格可能性を入塾前より高めてくれるかどうかのはずです。ですから、塾同士の合格率を比べた時に、おそらく高い合格率を誇る塾にその効果を期待することでしょう。

しかし、もしその高い合格率がこのような「分母の選抜」によって実現されていたとすれば、入塾前から出来が良い子が難関校に入り、入塾前から出来が悪い子はそれなりのところに行くという事実を示しているだけで、入塾前の我が子の合格可能性を何ら変えるものではない恐れがあります。

極端な話、全国トップの生徒のみを集めた塾があったとすれば、その塾が大したことをしていなくても難関校の合格率は高くなることが容易に想像がつきますよね。

ですから、「合格率」だけでは塾側によって「分母」の中身が選抜されている余地があるために、本当に知りたいその塾の実力というのが分からない可能性があることに注意が必要です。

そして、その「分母の選抜」があるのかどうか、あるとすればどのようになされたのかという情報は、まず残念ながら外からでは得ることはできません。

どうやって指標を選んでいるかがとてもとても大事

ところで、ずっと合格率の話をしてきましたが、実は合格率表記以外の塾の広告も少なくありません。

代表的なのが「合格者数」での表記です。

「A校合格者○○名!」とか、こういうタイプですね。

合格率と違って分母が無いですし単純な事実を示しているだけで、表示上は問題無いと思うのですが、この数字の解釈もなかなか難しいのです。

例えば、塾生が10名ぐらいしかいない小さな個人塾などでは、合格者数は当然ですが10名を超えることはできません。

しかし、何千人と塾生を抱える大手塾などでは、合格率が10%ぐらいしかなかったとしても合格者数が10名を超えることが可能です。

小さな塾と大手塾の塾としての教え方の実力が全く同じであったとしても、大きな塾の方が合格者数が多くなりやすいことは間違いないでしょう。

つまり、合格者数は単純にその塾の規模によって決まってしまっている可能性があるのです。

そして、問題なのは、このように塾によって合格者数を掲げたり、合格率を掲げたり、塾の実力をアピールするのに使っている指標がまちまちであることです。

これは、残念ながら、合格者数だと少なく見えるから合格率をアピールしようとか、合格率低いけど合格者数だけならまあまあ居るから合格者数をアピールしようとか、自分たちの都合の良い指標を選んで表示している恐れがあります。

さらに言えば、合格率の中にも様々なタイプがありますけれど、あの中のどのタイプの合格率を表示するかというのも、色んなやり方で合格率を計算してみてたまたま自分たちの塾に都合の良かった数字を選んでいる可能性があるわけです。

これはフェアではありませんよね。

結局、どの指標で塾の実力を比べるのかというスタンダードが定まっていないために、各塾で指標の選り好みができてしまうのです。

本来なら塾業界で統一してどれか一つの指標のみで勝負することにするとか、各塾が計算した色んな指標の数字は全て公開するようにするなどしないといけないのかもしれませんが、これを徹底するのはなかなか難しいことでしょう。

塾の真の実力の評価は難しい

以上見てきたように、合格率がその塾の真の実力を上手く表せているかというと、様々な問題点が存在しています。

さらに言えば、中には合格者数自体を水増しして表示したり計算したりする悪徳な塾もあるかもしれません。本当のデータであっても評価が難しいのであれば、嘘のデータが混じってしまえばなおさら適切な評価は絶望的となります。

とはいえ、現実、数多ある塾の実力を客観的に評価するのに決定的な良い方法が存在しないのも事実でしょう。

そういう意味では、どうしても現状通り不十分な情報の「合格率」のままで塾選びをするしかないのかもしれません。

ただ、その数字の妥当性にはいくらか問題があることを認識して、その数字のみを鵜呑みすることなく、通われている方の感想を聞いたり、実際に入塾してその内容を評価したりなど、常に多角的な視点から塾を評価しようという姿勢が保護者の方々にも必要になってくるのだと思います。

大変ですけれど、これがある意味、保護者の皆さんの入学試験なのかもしれませんね。

P.S.

私個人的には、本当にこんな風に「合格率」の意義を尋ねる入学試験なんてできたら面白いんじゃないかなって思うのですが、いかがでしょうか(笑)

(2015年1月18日「雪見、月見、花見。」より掲載)