仕事と育児を両立できる社会をつくるために、企業・個人ができることは何か?その答えを探るべく、NPO法人『ぱぱとままになるまえに』の西出博美さん、セプテーニの『hug-kumi委員会』のみなさんと話してきました(SmartNews ATLAS Programとの連動記事です)。
仕事と育児を両立するためのカギは、結婚・妊娠前にあった!?
2016年2月29日、衆議院予算委員会でも取り上げられた待機児童問題を指摘する匿名のブログ。「保育園に子どもを預けられないこと」は、仕事と育児の両立を実現するうえで、非常に高いハードルとなります。今まさに子育てをしている人にとってはもちろんのこと、これから結婚・妊娠を考えている人にとっても関係するテーマです。
待機児童問題だけではありません。身体のことや金銭的なこと、パートナーやその家族との関係性など、結婚や妊娠に関して気がかりなことが、実はたくさんあるのです。
"「親になること」が社会で、より自然に、人生の選択肢として考えられるように。"
このような理念を掲げ、活動しているのがNPO法人『ぱぱとままになるまえに』(以下、ぱぱまま)。これから結婚・妊娠を迎える可能性のある人たちが「親になること」を人生の選択肢として自然に考えられるためのプラットフォーム作りをしている団体です。
妊婦さんや子育て中の方を招いたトークイベントの開催や、結婚・妊娠前の若者が助産院へ足を運ぶ見学ツアーの実施、さらにはご自身も"ぱぱとままになるまえ"の当事者としてブログで情報発信するなど多岐にわたる活動を行なっています。
ぱぱまま主催による助産院見学ツアーの様子
2016年3月10日、『ぱぱまま』は大手ネットマーケティング企業 セプテーニにおいて、社内の働き方支援・育児支援を行なう『hug-kumi(はぐくみ)委員会』と初のコラボ型ワークショップを開催しました。ワークショップの参加対象者は、セプテーニグループの未婚・もしくはまだ子どもがいない既婚社員。まだ「親になること」を経験していない人たちが、こういったワークショップに参加することにはどのような意味があるのでしょうか。
そこで今回、将来パパになるかもしれないCAREER HACK編集部のメンバーが、西出さん、そして『hug-kumi委員会』のみなさんに「仕事と育児を両立できる社会をつくるために、結婚・出産前にできることは何か」を聞いてきました。
<参加者>
NPO法人ぱぱとままになるまえに 代表
西出博美さん(既婚)
株式会社セプテーニ 『hug-kumi委員会』メンバー
井上祥子さん(既婚・子ども1人)
種木将之さん(既婚・子ども1人)
田原晴加さん(未婚)
左から西出さん、井上さん、種木さん、田原さん
男性社員も多数参加!ワークショップ『産んだらどうする?サミット』を開催したワケ
― 早速なんですけど、ぱぱままがセプテーニの『hug-kumi委員会』とワークショップを開催した経緯を教えてください。
西出さん:
お互いの社会への課題認識が近かったからです。
初めての打ち合わせのときに「これからは結婚や妊娠前の人たちに対しても何か支援したいと思っていたんです」という話になって。
妊娠や出産、育児って直面すれば、必然的に切羽詰まってくるので、会社の人事担当者に"ウチの会社の産休・育休の制度ってどうなっていますか?"って聞き、制度を利用するなどの明確なアクションを起こします。
でも、結婚や妊娠前って、仕事と育児の両立という課題に直面する機会がそもそもありません。なので、"なんとなくの不安"を抱えながら仕事をしていたり、あるいは直面してから焦ったり、急な方向転換を強いられたりすることになります。「でも、結婚や妊娠前からできることってあるよね」と思い、アクションを続けてきたのがぱぱままで、『hug-kumi委員会』でも同じ課題を感じていたのが今回の経緯です。
ワークショップ『産んだらどうする?サミット』で話す西出さん
― ぱぱままがワークショップをする際に意識していることはなんでしょう?
西出さん:
医学的な視点をきちんと取り入れるということです。
女性は就職活動のタイミングから「若いうちにキャリアや実績を積んでおいたほうがいいよ」という話をされると聞きます。それって「産休・育休取得後、思い通りの部署に復職したいのなら」みたいな意味をはらんでいる場合もある気もしていて。女性だけが仕事と結婚・妊娠を天秤にかけなければならない社会があるわけです。
将来のことを想像し、仕事と育児の両立がしたくて一生懸命になるあまり、若いうちに仕事に励む=妊娠や出産が後回しになっているわけです。
でも、後回しにした結果どうなるのでしょうか。
年齢が上がれば上がるほど、妊娠・出産のリスクは増える。「若いうちに妊娠・出産しておけばよかった」と後悔してしまう夫婦も少なくありません。そういう状況を変えていくためには、きちんと医学の視点からアプローチすることが大切。ぱぱままには助産師のメンバーがいたり、産婦人科医や保育士とのネットワークもあったりするので、「若いうちにキャリアを積む」ということと「若いうちに結婚・妊娠する」という選択肢のうえで、ぱぱままの視点からの風を吹かせることで新しい道が開けるのではないか、と。
第一回のワークショップ『産んだらどうするサミット』の様子。
結婚・妊娠・出産・育児を経験した社員と、
未婚、または子どもがいない既婚社員が参加した。
「教えて!ぱぱまま先輩!コーナー」では
結婚・妊娠・出産・育児を経験した先輩社員への質問が相次いだ。
「先輩のママパパの話をきけたことで、不安が軽減できた」という声も。
「子どもができても"なるようになる"と思っていた...」
「他人の悩みを聞けるのが新鮮だった。ためになった」
という参加者の声が寄せられた。
出産や育児の経験を、次の世代へ
― 『hug-kumi委員会』のみなさんにも聞いてみましょう。『hug-kumi委員会』のメンバーでありながら、参加対象者でもあった田原さんはいかがだったでしょうか?
田原さん:
今回ワークショップに参加して感じたのは、これまでの人生を振り返って妊娠・出産・育児経験者の話をしっかり聞く機会がなかったということ。意外と聞きたいことが次から次へと出てくるし、思ったより盛り上がったなという印象です(笑)。妊娠や育児の話やそれにかかるお金や、やりくりの仕方の話って、なかなか面と向かって聞く機会ってないじゃないですか。対話の場をつくれたのはよかったと思います。
西出さん:
結婚や妊娠、出産、育児、夫婦関係について、という限定的なテーマのなかで「好きに聞いていい」という場を設定すると、普段の自分の生活と結びつけて考えたり、考え始めると予想もしなかったような質問が自分から出てきたり、というような発見もあります。一度このようなワークショップを経験すると、「自分はこんなところにこだわりがあったんだな」など気づくことがあるんですよね。
こういう場をキッカケに、ちょっとした悩みでも妊娠や出産、育児を経験している人たちに気軽に相談できる関係性を築いておくことが重要なんだと思います。本やネットに情報は溢れているけど、自分が必要としている情報だけをピックアップするのってとても難しいじゃないですか。
― 今回のワークショップは男性社員の参加も多かったそうですね。
種木さん:
自分が出産や育児を経験したり、自分の周りにいる女性社員のライフステージが結婚や出産などで変わったりすることで、きちんと見つめ合う男性社員が増えてきていると思います。ここ最近では、「基本的に保育園の送り迎えは僕がやっています」というパパ社員も増えてきました。
今回のワークショップへの参加も含めて、少しずつ雰囲気が変わってきているのは実感しています。
― なるほど...勉強になります。"先輩社員"として参加した井上さんはいかがだったでしょうか?
井上さん:
妊娠や出産って当事者でいる時間はとても短いんです。子どもが2~3歳になってイヤイヤ期が終わると、自分が何に不安を感じていたのかも忘れてしまう。2人目ができて、きっとハッとするのだろうと思います。だから私にとってもいい機会でしたね。
― 先輩社員が後輩社員に妊娠や出産、育児のことを話す意味って何でしょう?
井上さん:
今回のワークショップを通じて、私が『hug-kumi委員会』を関わり続けている理由は、妊娠や出産、育児を経験した私たちが大変だったことを忘れずに伝えていくことだと思いました。女性社員たちに同じ苦労をしてもらいたくないんですよね。よりよい環境で働いてもらいたい。私がやる理由って、むしろそれしかないですね。
西出さん:
『ぱぱまま』でたくさんのパパやママに会いました。話を客観的に聞いていると、みんな同じようなことで悩んだり、葛藤したりしているんです。「何で繰り返されてしまうんだろう?」と疑問でした。
だから、妊娠・出産のよろこびはもちろん、悩んだり葛藤したりといった経験も、これから親になる世代に繋いでいける社会の仕組みをつくっていきたいです。先輩パパママたちの経験や苦労は、次の世代が迷ったときの道しるべになります。保育園等の整備の他に、このようなソフト面からも"子育てしやすい社会"はつくれるんじゃないかと可能性を感じているので、今後も企業との連携の事例をつくっていきたいですね。
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これから妊娠や出産を迎える世代は、経験者たちと困ったときに相談できる関係性を築くこと。妊娠や出産を経験した人たちは次の世代へ伝えていくこと。また、企業としてもNPOと連携をとり、新たな可能性にチャレンジしていくこと。そして企業が変われば、少しずつ社会は変わっていく。保育園や手当といった国の政策に期待するだけではなく、個人や企業が一歩踏み出すことの大切さを感じられた取材でした。
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