故郷を後にして70年。今も試練に直面し続けるパレスチナ難民と彼らを支援する国連機関UNRWA No.1

連載第1回 1948年のナクバ(大惨事)から70年たった今年、パレスチナ難民にさらなる試練が降りかかる
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連載第1回 1948年のナクバ(大惨事)から70年たった今年、パレスチナ難民にさらなる試練が降りかかる

中東でパレスチナ難民が発生して今年で70年となります。彼らの多くは今も故郷に戻ることができず、ヨルダン、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸地区、およびガザ地区で主にUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関、「ウンルワ」と呼ぶ)から最低限の支援を受けながら暮らしています。難民としてのこれほど長い歴史は、彼らの「人間としての尊厳」が脅かされてきた歴史でもあります。

イスラエルにとって今年は建国70周年。米国政府が聖都エルサレムをイスラエルの首都と認め、2018年5月14日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移しました。これが大きなきっかけとなり、パレスチナでの緊張が一挙に高まり、和平への道のりはさらに遠くなりつつあります。国連広報センターの妹尾靖子(せのお やすこ)広報官は、2018年4月16日から約二週間、UNRWAの活動現場であるヨルダン、西岸地区およびガザ地区を訪問し、難民の暮らしと彼らを支えるUNRWAの活動をはじめ日本からの様々な支援を視察しました。

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UNRWAの活動地域
©UNRWA
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ガザのビーチ難民キャンプから、さらにレバノンやエジプトに海から避難するパレスチナ難民
©1949 UNRWA Photo By Hrant Nakashian

日本から遠い中東の地、パレスチナ。パレスチナ難民はどのような人なのでしょうか。

まずはパレスチナ難民について説明しましょう。今から70年前の1948年5月14日、パレスチナにイスラエルが建国したことによって第1次中東戦争が起こりました。パレスチナにはアラブ人が暮らしていましたが、この戦争で故郷の家を残してヨルダン川の西岸およびガザに、あるいはさらに周辺国であるレバノン、シリア、ヨルダンにまで避難したのです。その数、およそ70万人。これらがパレスチナ難民となった最初の人々です。そして、イスラエル建国に伴って自分たちが難民となった1948年5月15日を「ナクバ(大惨事)」として、決して忘れることのないよう毎年想起しています。

パレスチナ難民を支援する国連機関、UNRWA 「ウンルワ」の誕生

これらの難民を支援するために、1949年、国連総会でUNRWA が設立され、翌年5月、その活動が開始しました。UNRWAは、ヨルダン、レバノン、シリア、西岸地区、およびガザという5つのフィールドに住むパレスチナ難民に教育、保健、救済、社会福祉など、基礎的なサービスを提供しています。その後、パレスチナ人を支援する周辺アラブ諸国とイスラエルとの間で度々戦争があったため、新たな難民も発生し、現在の難民数は第三世代、第四世代の子どもや孫までも含む約530万人に上ります。これは、世界の難民総数である2,250 万人の約24%を占める規模です。[ 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の世界難民報告書 2017 年 6 月 ]

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ガザの南部にあるハンユニス難民キャンプの過去 (1955年)と現在
© UNRWA Photo

現在、パレスチナ難民はヨルダン(220万人、難民キャンプ数19)、西岸地区(81万人、同19)、ガザ地区(130万人でこれは同地区総人口の約70%、同8)、シリア(53万人、同9)、レバノン(45万人、同12)にある難民キャンプやその外で暮らしています。こうした難民を支援するUNRWAのスタッフは総勢3万人を超え、その多くはパレスチナ難民です。これら職員の大部分は学校の教員や医療関係者として働いています。

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西岸にあるベイト・ジブリン難民キャンプ
© 2015 UNRWA Photo by Dominiek Benoot

なぜ今、パレスチナ難民を支援するUNRWAが注目されているのでしょうか?

1)聖地エルサレムをめぐる問題とガザ地区の大規模な抗議運動

この70年、パレスチナ難民はパレスチナ問題についての最終的な解決がないまま、中東の政治の混乱に巻き込まれ続けてきました。2017年末からの米国による決定によってパレスチナ難民はこれまで以上に厳しい局面に立たされています。まず、2017年12月6日、米国政府はユダヤ教、キリスト教およびイスラム教の聖地であるエルサレムをイスラエルの首都とし、自国の大使館をエルサレムに移転すると発表しました。国際社会はこの米国の決定に即座に反応し、国連総会は12月21日緊急特別総会を開き、米国政府に方針の撤回を求める決議案を128カ国の賛成多数で採択しました。

高まる国際社会の批判をよそに、米国政府は2018年5月14日、イスラエル建国70周年に合わせて在イスラエルの米国大使館をエルサレムに移しました。これは、中東における政治的バランスや国際社会の世論を配慮し、歴代の米政権のいずれもが手を付けなかった決定です。東エルサレムを将来のパレスチナ国家の首都とすることを求めるパレスチナ側にとっては、到底認めることのできない事態です。エルサレムの地位をめぐって、パレスチナでは一挙に緊張が高まり、ガザ地区にあるイスラエルとの境界付近では今年3月からガザの住民が抗議デモを行っています。5月14日には幼い子ども含む60名以上がイスラエルの銃撃などで命を落としたというショッキングなニュースが飛び込んできました。(2018年5月16日現在)このような状況に強い危機感を持つアントニオ・グテーレス国連事務総長は、イスラエルとパレスチナ双方に対して強く自制を訴えています。

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オリーブ山から見たエルサレムの旧市街 (2015)
© UNRWA Photo

2)UNRWAの財政状況、危機に陥る

パレスチナ難民への支援に関しても、大きな打撃がありました。2018年1月16日、米国政府は、突然、UNRWAに拠出する予定の1億2,500万ドル(約140億円)のうち、およそ半分の6,000万ドルのみを拠出し、残りの6,500万ドルについては凍結する、と発表したのです。米国からの拠出金は、これまでUNRWA全予算の3割を占め、その多くがパレスチナ難民への支援の根幹となる教育、医療、福祉サービスという最重要分野に用いられてきました。

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ローマで開催されたUNRWA主要拠出国会議において、財政難にあえぐUNRWAへの緊急的な追加支援を求めるグテーレス国連事務総長
©FAO
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UNRWAの中学校で
© 2010 UNRWA Photo by Shareef Sarhan
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エルサレムのアマリ難民キャンプのUNRWAクリニック
� 2016 UNRWA photo by Marwan Baghdadi

翌日、ピエール・クレヘンビュールUNRWA事務局長は声明を出し「パレスチナ難民数百万人の尊厳、人間の安全保障が危機に瀕しています」と世界に訴え、このような拠出の凍結は人々の過激化を助長してしまうと警鐘を鳴らしました。グテーレス国連事務総長は、「大幅な予算カットによってUNRWAが存続できなくなれば、中東全体の安全が損なわれる」と国際社会に警告を発しました。

それから数か月後、私が訪れたUNRWA事務所で出会ったどのスタッフも、米国が決定した拠出の大幅削減について、大きな戸惑いと不安を感じていました。UNRWAは創設来最大の危機を乗り越えるため、米国政府に働きかけ、また、国際社会に対して支援を増やすよう粘り強く訴えています。これに対応するように、カタール、サウジアラビア、UAEがそれぞれ5,000万ドルの追加拠出を表明したほか、4月末には日本政府も1,000万ドルの追加支援を表明しましたが、UNRWAの資金難は未だ解消されていません。このままの財政状況が続くと、約50万人のパレスチナ難民の子どもたちが通うUNRWA学校が今年秋の新学期を開けない可能性もでてきました。UNRWAは今年に入ってからはソーシャルメディアで「#尊厳を守る#DignityIsPriceless」キャンペーンを開始しており、パレスチナ難民の尊厳と希望を守るため、日本を含む世界からの支援が求められています。

2018年1月29日、クレヘンビュールUNRWA事務局長は「#尊厳を守る (#DignityIsPriceless)」キャンペーンを開始を宣言

広がるパレスチナ難民支援の輪と日本からの支援への期待

大きな試練に直面しているパレスチナ難民とUNRWA。今回の視察中、私はUNRWA の活動現場をじっくりと見る機会を得ました。高まる不安や脅威にも関わらず、ヨルダン、西岸地区、そしてガザでUNRWAの職員たちは最も脆弱な難民コミュニティーにサービスを提供し続けていました。実は、その職員の多くは自らも難民なのです。中東和平への道のりは遠のいたものの、日本を含む国際社会は現在、難民への支援を徐々に強めています。そこには政府のみならず、市民社会や個人も参加しています。次回からは、その支援の様子について詳しく報告していきます。お楽しみに!

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「 #尊厳を守る ( #DignityIsPriceless )」キャンペーン( https://www.securite.jp/unrwa )
UNRWA

UNRWAはパレスチナ難民の尊厳と希望を守るため、皆さんの支援を求めています。

こちらのビデオもご覧ください。