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「セオリーを変える挑戦を」 P&Gの川畑麻美さんに聞く、新しいニーズの見つけかた

世界的消費材メーカーP&Gでブランドマネージャーとして活躍する川畑麻美さん。日本やシンガポールを拠点に、化粧品や柔軟剤のマーケティングを担当。現在は、P&Gの看板商品のひとつである柔軟剤「レノア」や「さらさ」の企画やマーケティングを統括している。
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Yuko Kawashima

世界的消費材メーカーP&Gでブランドマネージャーとして活躍する川畑麻美さん。日本やシンガポールを拠点に、化粧品や柔軟剤のマーケティングを担当。現在は、P&Gの看板商品のひとつである柔軟剤「レノア」や「さらさ」の企画やマーケティングを統括している。

そんな川畑さんが、2014年に手がけた「レノア オードリュクス」は人気口コミサイトで1位を記録。これまでにない上質な香りや世界観を提案する、新しいプレミアム柔軟剤に注目が集まっている。

今回は、川畑さんにP&Gでのキャリアや、日本における香りのニーズ、新商品開発の舞台裏について話を聞いた。

■マネージャーの転機は、入社3年目のシンガポール赴任

SK-Ⅱやマックスファクターなど化粧品のマーケティングを経て、20代でP&Gの柔軟剤チームを統括する川畑さん。広報や代理店、サプライヤーなど、たくさんの人たちと協力しながら、多くのプロジェクトを進めている。

そんな川畑さんにとって、キャリアの転機となったのは、入社3年目で経験したシンガポール赴任だった。現地で暮らすことで「日本の素晴らしさを実感し、将来やりたい仕事が見えた」と語る。

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「外に出てみて、初めてちゃんと日本のことを好きになったんです。シンガポールは、とても便利な国でしたが、『もう少し丁寧にサービスにするといいのに......』と思うこともよくありました。日本のサービスや、商品のクオリティーの高さを実感して『こんなに住みやすい街を作る日本人ってすごい!』と思いました」

「ただ、こんなに素晴らしい日本のサービスや商品が、海外に伝わっていないことが、すごく残念で悔しかったんです。だから、いつか将来的には日本の文化や優れた商品、サービスを、もっと世界に広めていける仕事をしたいなと思うようになりました」

夢を叶えるために「もっともっと、日本を理解したい」。川畑さんは、そんな想いを抱いたという。

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■シンガポール赴任、多国籍チームで日本人が埋もれる「悔しさ」

また、シンガポールでのビジネス経験は、川畑さんの「働きかた」を見直すきっかけにもなった。多国籍なチームで一緒に働くことで、控えめな日本人が活躍できていないケースを見るたびに「もったいなさや悔しさを感じました」と当時を振り返る。

「自分も含めて、日本人は"もったいない"と感じました。多国籍のチームには、アジアの国々の同僚もたくさんいて、もちろん、どの国からも能力を持った素晴らしい人たちが集まってきているのですが、『やっていることは明らかに日本人メンバーのほうが熟考されて質も高い場合でも、いざマネージメントの前でプレゼンしてみると、明らかに他の国のメンバーのほうが良さそうに聞こえる』と感じることが多かったんです」

「あの国の人は主張が激しい、この国の人はおしゃべり、といった情報は、メディアなどで見聞きしていましたが、実際に自分が目の当りにしました。もちろん、どの国にも能力を持った素晴らしい人はいましたが、ただ単に言葉を発していない、前に出ていないという理由だけで、埋もれてしまっている日本の才能がたくさんあることを知って......とても悔しかったです(笑)」

川畑さんは、シンガポールの日々を通じて、年齢や国籍に関係なく、前に出て、自分のやりたいことを伝え、プロジェクトを進めていく姿勢を学んだという。

■日本の柔軟剤市場、高まる「香り」のニーズ

シンガポールから帰国後、川畑さんは柔軟剤を担当することになった。4年間、「レノア」や「さらさ」を通じて見つめてきた川畑さんは、日本における"香り系柔軟剤"に対するニーズの高まりを感じているという。

「4年ほど前、『ダウニー』をはじめとした"香り系柔軟剤"によって、消費者自身が、柔軟剤は『衣類を柔らかくするだけなく、香りをつけて楽しめるもの』と気づいたんですね」

当初は「香りがついていればOK」だった柔軟剤。香り系柔軟剤が普及するにつれて、洋服の色や形をこだわるように「今日の香りは控えめに、明日はしっかりめに......」と調整できるものへと、次第に消費者のニーズも高まっていった。

「P&Gでは、香りをカスタマイズできる『レノア アロマ ジュエル』などで、消費者のニーズに応えてきましたが、1年後、3年後を見据えて、ワンランク上のものにするために、今までにない柔軟剤は何かと考えるようになりました」

こうして誕生したのが、2014年に発売された「レノア オードリュクス」だった―—。

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■セオリーを変える挑戦1 「レノア」とわからない新商品

丸い曲線のフォルムが特徴の「レノア オードリュクス」。その上品なボトルは、まるでギフトショップや雑貨屋で見かけるルーム・フレグランスのようだ。一見すると「レノア」とわからない。

川畑さんは「日用品としての柔軟剤のイメージを変えたかった」と開発に込めた想いを語った。

「パッケージ正面の商品表記も外国語のみにして、カタカナの「レノア」のロゴも入れませんでした。これまでの柔軟剤のセオリーなら、店頭で「お買い得」POPを使って目を引くようにしますが、今回は、豪華な什器に並べてパッケージを見せる工夫をしています。ワンランク上のものにするために、今までにない柔軟剤を追求しました」

■セオリーを変える挑戦2 女性にとって、少し持ちにくいボトル

しかし、柔軟剤のイメージを変える新しい挑戦は、ブランドの世界観と商品の利便性との間で揺れることも多かったようだ。川畑さんも「どちらがいいのか」と考えつづけたという。

「普通、柔軟剤は"持ちやすさ"を重視しますが、いわゆるプレミアム商品で"持ちやすさ"を重視しているものは、あまりないんです。たとえば、『レノアプラス』や『レノアハピネス』には穴があり持ちやすい形をしていますが、この商品は、女性の手からすると、じつは少し大きくて持ちにくい。ちょっと重くて大きいんですね」

「パッケージも、いろんなデザインを試しました。実は、この製品、女性が使うには大きめで、ちょっと持ちにくいんですが、気に入ってもらえる商品になるのか......社内でもすごく議論を重ねましたね。最終的には、持ちにくさも含めて、丸いフォルムやパッケージを『可愛い』と思ってもらえる商品を目指すことにしたんです」

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■「パリ四つ星ホテル」の香りをブランドのコンセプトに

「レノア オードリュクス」は、パリの朝6時、朝露に濡れた花束をイメージした爽やかな香りの「INOSENT(イノセント)」と、雨に濡れた真夜中のパリをイメージしたスパイスの効いた官能的な香りの「SENSUAL(センシュアル)」という2つのラインナップ。その日の気分やアイテムに合わせて、香りを選ぶことができる。

この香りは、実際にパリの四つ星ホテル「ル・パヴィヨン・ドゥ・ラレーヌ」で使われていたという。「レノア」と一線を隠す、美しい繊細な世界観が特徴だが、川畑さんによれば、このコンセプトも、実は「消費者のニーズ」から生まれものだという。

「上質な香り、ラグジュアリーな香りと言葉にするのは簡単ですが、その香りを、実際に表現、実感してもらうのはとても難しいです。リサーチを重ねて試行錯誤し、"今までの柔軟剤にはなかったけど、本当は経験したい香り"として、最終的に辿り着いたのが『非日常的な、ちょっといいホテルに泊まるときの香り』でした」

「みなさん、ホテルに泊まるときは、夜寝る前に、照明を落とした部屋でリラックスされると思います。そして朝、窓から光が射し込んできて「ああ気持ちいい」と起きて「朝ごはん食べよう」と感じる......そんなモーメントを過ごされると思います。その朝と夜のイメージを『INOCENT』と『SENSUAL』という2つの香りとして表現しました」

■「朝6時のパリ」「真夜中のパリ」ホテルがつなぐ2つのラインナップ

パリの四つ星ホテル「ル・パヴィヨン・ドゥ・ラレーヌ」が実践している香りによるホスピタリティは、柔軟剤「レノア」が大切にしているコンセプトと大きな共通点があるという。

「ル・パヴィヨン・ドゥ・ラレーヌは、エントランスや部屋など、場所によって違う香りを用意して、ゲストにたいして『香りのおもてなし』をしようと心掛けていました。P&Gの柔軟剤は、その人の生活や衣類をトリートメントするような『香りのおもてなし』をコンセプトにしているので、本当に似ていると感じました」

「レノア オードリュクス」のボトルには、鍵をあしらったリーフレットがついており、鍵を開けてページをめくれば、ホテルに泊まったときのように、エッフェル塔を望むパリの景色が広がる。

こうして誕生した「レノア オードリュクス」は、発売後口コミサイトで1位を記録。洋服やリネンに「香りのおもてなし」をする"ファブリック・トリートメント"という新発想も反響を呼び、ランキングサイトでも上位に入るなど、柔軟剤ユーザーの心をつかんでいる。

川畑さんは「多くの方が『今までにない香り、すごくいいよ』『パッケージが可愛い』『お洗濯が楽しみ』と書いてくださっています」と手応えを感じている。

■マーケッターとして女性として「ワーク」と「ライフ」を楽しむ

消費者の心に響く商品を届けるために、川畑さんが仕事やプライベートで大切にしていることは何か。川畑さんは「マーケッターとして客観的に分析する視点と、自分の直感を大切にしている」と語った。

「今どんなニーズがあって今度どうすればいいかを知るために、週末は、売り場を回って観察しています。目の前で、お客さんが商品を手に取ってくださるのは本当に嬉しいですね。お子さんが『わたし、これじゃないとイヤなの』といっているのを見た瞬間は、泣きそうになりました」

「一方で、柔軟剤のことばかり考えるのではなく、ひとりの消費者・ひとりの女性としての感覚も大切にしたいと思っています。私はショッピングも大好きなんですが......柔軟剤以外の商品を見て『これ、すごくほしい!』と思ったときには、次に『レノア』担当者の目線で『今、何でほしいって思ったんだろう』と公平に分析するようにしています」

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■20代でマネージャーとして活躍、P&Gが大切にするオーナーシップ

20代で柔軟剤チームを統括する川畑さんをはじめ、P&Gでは、多くの20〜30代がリーダーとして働いている。川畑さんは「やりたいことと強い気持ちがあれば、能力は身についていく」と、これまでの歩みを振り返る。

「社外の方に、『若くしてリーダーになったんですね』といわれることもありますが、私は、できないことはないと思っています。1年目から、いろんな人と一緒に働きながら、失敗しながら、たくさんの経験を積んだことが、成長につながったのだと思います」

「実際に、人を巻き込みながらやっていく能力は、『やりたい』という強い気持ちがあって、実践をくり返していくことで身についていくものだと思っています。幸いなことにP&Gでは、入社当初から『自分でオーナーシップを持ってやってください』といって、いろんな経験を与えてくれました」

■「生活をちょっと楽しく、豊かにする」P&Gの仕事

川畑さんは、P&Gでの今後のキャリアについて「全国で多くの人が使ってくださる商品に携わりながら、生活にちょっとした喜びのようなものを提供していけたらいいですね」と微笑む。

「柔軟剤も、最初は衣類をただ柔らかくするだけだったものが、香りを楽しめて、香りをカスタマイズできるようになって......パリの四つ星ホテルの香りが感じられるアイテムになりました。そうすると、毎日の洗濯がすごく楽しくなってくると思うんです」

「今後も、柔軟剤を担当するかはわかりませんが、P&Gの商品を経験しながら、生活の中のちょっと億劫だった家事や、不便なひと手間を改善して『前より楽しくなったな』『いい生活ができたな』と思ってもらいたいですね」

「これから先も、消費者のニーズをベースに、新しい商品や展開を考えていきたいです」。シンガポールで「もっともっと、日本を理解したい」と感じた川畑さんは、マーケティングの仕事を通じて日本の消費者と向き合っている。

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