共同保育や非法律婚など、バリエーション豊かな「かぞく」像を取り上げる展示会、「かぞくって、なんだろう?」展が、6月27日に始まった。
イベントも連日開催され、7月2日には、最近注目を集めつつある「お父さんバンク」の創設者、ヨシヒロ チアキさんと来世(らいせ)ヒデアキさんが「お父さんバンクと、これからの家族」をテーマにトークした。
お父さんバンクとは、シングルマザーなど子育てのサポートを必要としている人が、"お父さん"を無料で借りられる場所だ。
江ノ島でカフェを経営しているヨシヒロさんとコピーライターなどの仕事をする来世さんが、2017年9月にスタート。現在約20人の"お父さん"が登録している。
猫の手も借りたいくらい大変な子育て。
だけど、見知らぬ"お父さん"を借りてくるのはアリなの?
賛否両論を呼びそうな「お父さんバンク」について、ヨシヒロさんと来世さんが語った。
お父さんバンクって?
お父さんバンクで、"お父さん"を借りる仕組みはシンプルだ。ウェブサイトにある「お父さん図鑑」に登録されている人に直接連絡を取って、依頼を受けてくれるかどうかを打診する。
お父さん図鑑には、それぞれのお父さんの得意技や経歴などが書かれているので、依頼したい人はその中から、"子供と遊ぶのが得意"とか"DIYが得意"など、自分の求めるスキルや特性を持った人を選ぶ。
お父さんバンクが始まって1年弱。これまでに、様々なケースでお父さんたちが出動してきたという。その一部を紹介しよう。
・一緒に登山
1歳くらいの子どもと一緒に登山して欲しいというお母さんの依頼で、朝5時起きで長野県の山に登った。
・運動会に参加
シングルマザーからの依頼で、数人のお父さんが運動会に参加。お母さんはシングルで、これまではビデオ撮影から準備まで全部自分でやらなければならず運動会を楽しめなかった。お父さんたちが手伝ってくれたことで、全員で運動会を楽しめた。
・子どもを預かる
10日間くらい海外に行くことになったシングルマザーのために、二人の娘を預かった。
実際に子どもと会うだけが出勤ではない。ネット上で出勤する例もある。
・クラウドファンディングでカンパ
学校にしばらく行っていなかった、シングル家庭の中学生がいた。学校に復帰しようと思ったが、お金がなくて体育祭で着るためのジャージが買えなかった。そこでお父さんバンク上でクラウドファンディングを立ち上げて「絶対優勝するから、ジャージ買ってください」と呼びかけたところ、複数のお父さんたちが数百円くらいずつ入れてくれて、ジャージが買えた。
"お父さん"の性別は、問いません
ヨシヒロさんは、お父さんバンクは「サービスではなくて、人と人が出会うプラットフォーム」と話す。
「得意技を必要としている人と得意技を持て余している人、その両者が出会える仕組みがあったら、世界はもうちょっと優しい場所になるのではないかな、という仮説の元にお父さんバンクは誕生しました」
元々はシングルマザーを対象に始まったが「私はシングルマザーではないけれど助けて欲しい」という声もあり、利用者はシングルマザーに限定していない。カップルで子育てをしている人でもいい。
来世さんは、こんな例を挙げる。
「子供にディズニーランドに行きたいと言われても、ディズニーランドが嫌いなお父さんもいます。でも世の中には、どうやったら一番うまく回れるかとか、隠れミッキーの場所を知っている、ディズニーマニアみたいな人もいる。そういう人と行った方が、子供もディズニーランドを楽しめるのでは」
さらに、登録するお父さんの性別も問わない。女性でも"お父さん"として登録できる。
「始めてみたら『自分はシングルファザーです、お父さんバンクがあるならお母さんバンクも欲しい』という人も現れました。それに、お父さんバンクに共感して、『私も女性だけどお父さんとして登録したい』という女性も出てきて、じゃあそれもいいかなということになりました」
お父さんバンクは、人間関係をやる場所
とはいえ、誰でも登録できるわけではない。ヨシヒロさんや来世さんが直接会って大丈夫だと思った人だけが、登録できるシステムを取っているという。
そのために「お父さんバンクカフェ」などイベントを定期的に開催し、リアルにつながってから、登録や依頼ができる仕組みを取り入れているとヨシヒロさんは語る。
「基本的に、一回もあったことのない人にいきなり登録してもらうことはしません。お父さんバンクの世界観に共感して登録したいと思った人には、イベントや私たちに直接会いに来てもらっています。会って話をして、この人なら大丈夫と思った人に、登録フォームをお送りしています」
また、今の所トラブルはないが、「もし何かあった時には人間関係を尊重した密なコミュニケーションを取ることで解決する方針」だとヨシヒロさんは語った。
「お父さんに登録してくれた人には、『何か問題があったら絶対共有してください』と伝えています。自分で抱えこまないで必ず共有し、双方が納得するまでコミュニケーションを取る。そこがお父さんバンクとサービスの違うところだと思っています」
「サービスだとお金を払ってその手間を省けます。それがいい人は既存のサービスを使った方がいいと思います。お父さんバンクは、サービスじゃなくて人間関係をやる場所。だから、何か問題があった時にはちゃんと向き合って下さいと、必ず伝えています」
普通の子育てサービスとの違い
日経新聞などのメディアでも取り上げられ、最近注目を集めるようになったお父さんバンク。SNSでは様々な意見が投稿されている。
「信頼できる身近な大人の男性の存在は大事だと思う」という肯定的な意見もある一方で、「血の繋がってないお父さん。本当のお父さんの価値ってどうなっちゃうの?」「代用できないのが家族」という、深い問いかけも。
しかし、来世さんは「お父さんバンクは既存の家族を否定するものではない」と述べる。
「新しいことをする時、それまでの前例を否定してしまうこともあると思うんですけれど、お父さんバンクはそうじゃありません。従来の家族のかたちがダメで、こっちがいいと言っているわけではなく、従来の家族のかたちにすっぽりはまれない人のために、こんな形もいいよねというものとして、存在しています」
また、無料のプラットフォームなので「消耗しない」ことも大切にしている。ヨシヒロさんはこう説明する。
「依頼がきたお父さんが、ちょうど今お金がないという場合もあります。そういう時に、お金を借りて交通費を工面してまで依頼を受けてしまうのは消耗です。お父さんバンクは、自分の余剰分で誰かを助ける場所です。無理はしないで欲しい」
「金銭的には苦しいけど助けに行きたい時には、『交通費だけ出してもらえますか?』とか正直に聞いて欲しいし、お母さん側も『来て欲しいけれど交通費払えないんです、それでもいいですか?』と正直に要望を伝えて欲しいです。逆に余裕がある時には、ご飯までおごるのももちろんありです。その時の余裕次第で、消耗せずに助け合って欲しい」
お父さんバンクが目指すもの
会場には、実際にお父さんをしている人も来ていて、やってみて気づいたエピソードなどを語った。
子どもがいない未婚の女性は、「ハンバーグを作って」と言われて張り切って作ったら「お菓子食べたからいらない」と言われた経験を明かしつつ、「自分は人にイヤっていえないタイプなんですけれど、うまくイヤって言わないと(自分が)死ぬと思いました(笑)」と語った。
また会場からは、「子どもを産んでいない人も、子どもと触れ合ことで揺れ動く気持ちを知れるのは良い」など、助けてもらう方だけではなく助ける方にもメリットがあるという意見もあった。
お父さんバンクの目標は"とうさん"(倒産)だという。その理由をヨシヒロさんはこう説明した。
「お父さんバンクの世界観が当たり前になったら、お父さんバンクはいらない。そこまでいきたいですね」
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「かぞくって、なんだろう?」展は7月9日(月)まで開催。家族にまつわるイベントや展示が開かれています。
日時 :6/30(土)〜7/7(土) 10:00〜18:30 ※7/1(日)は休館
場所 :ターナーギャラリー(1階、3階、4階)
〒171-0052 東京都豊島区南長崎6-1-3
都営大江戸線 落合南長崎駅 徒歩10分/西武池袋線 東長崎駅 徒歩8分
入場料 :無料
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