「食べさせられなくて、ごめんね」 大阪の母子死亡、なぜ防げなかったのか

「最後におなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」。母親が残したとみられるメモにはそう書かれていた。大阪市北区天満のマンションの一室で24日、母子と見られる2人の遺体が見つかった。朝日新聞デジタルなどの報道によると、室内には食べ物はなく、食塩があったのみ。預金口座の残金は十数円で、電気やガスも止められていたという...
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family(mama&baby)
Getty Images

「最後におなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」。母親が残したとみられるメモにはそう書かれていた。

大阪市北区天満のマンションの一室で24日、母子と見られる2人の遺体が見つかった。朝日新聞デジタルなどの報道によると、室内には食べ物はなく、食塩があったのみ。預金口座の残金は十数円で、電気やガスも止められていたという。大阪府警天満署は生活に困窮して餓死した可能性が高いとみている、との報道もある。事件は防ぐことはできなかったのだろうか。

朝日新聞デジタルによると、親子は職業不詳の井上充代さん(28)と瑠海(るい)君(3)。発見されたとき、2人は布団の上に仰向けに倒れており、目立った外傷はなく、幼児には頭から毛布とバスタオルがかけられていたという。

捜査関係者によると、(編集部注:部屋に残された)メモはガス料金の請求書の封筒に手書きされ、充代さんが書いたとみられる。2人は昨年10月ごろ、知人の紹介でマンションに入居した。室内に冷蔵庫はなかった。食べ物もなく、食塩があっただけだった。部屋の電気とガスは止められていたという。

2人は2月ごろ死亡したとみられ、府警は瑠海君が先に亡くなった後、充代さんも間もなく死亡したとみているという。


朝日新聞デジタル 2013/5/27 18:26)

なぜ、井上さんは周囲にSOSを出すことができなかったのか。産経ニュースは背景を次のように報じている。

母親の井上充代さん(28)が数年前、夫から配偶者間暴力(DV)を受けていたことが27日、大阪府警天満署などへの取材で分かった。井上さんは夫と別居してマンションに移ったが、自身の実家にも居場所を伝えていなかった。夫に居場所を知られないようにするためとみられる。行政に支援を求めた形跡はなく、頼る相手もいないまま孤立を深めた可能性が浮上している。


(中略)

捜査関係者らによると、井上さんは数年前に大阪府守口市に居住。このころに夫からDVを受けていたとみられ、その後別居。昨年10月に、息子の瑠海(るい)ちゃん(3)とマンションに入居した。クラブやラウンジの多い大阪・北新地で働いていたという。

少なくとも入居後は夫との接触はなかったが、住民登録はせず、広島県内の実家にも居所を知らせていなかった。室内から離婚届も見つかった。マンションは知人らの善意により、無償で借りていた。


産経ニュース2013/5/28 07:45 )

配偶者暴力(DV)被害者ネット支援室のサイトによると、DV被害者のための経済的支援には、次のような行政による資金の貸し付けや各種手当て、生活保護制度の利用などがあるという。

●資金の貸付

母子家庭に対し経済的に自立して安定した生活を送ることを目的に転宅等に係る資金を貸し付ける母子福祉資金やひとり親家庭などに対して医療保険の一部を助成するひとり親家庭等医療費助成、収入の少ない世帯などに就学等に係る式を貸付ける生活福祉資金などの制度があります。


●各種手当

児童手当や児童扶養手当など、子どもを持つ方に対する手当の制度があります。


●生活保護

困窮の程度に応じて保護を行い、最低限度の生活を保障し、あわせて自立を助長することを目的とした制度です。保護基準により計算された最低生活費よりも収入が下回る場合に、その不足分について保護を行います。

DV被害者を保護し支援する「DV防止法」は2001年に施行された。しかし、今回の事件のように「居場所を知られたくない」と住民登録をせず、生活保護などの行政サービスを受けられず困窮するケースもある。

2008年の改正DV防止法では、「扶養義務者への調査では被害者の安全確保に留意する」という国の方針が示された。だが、離婚せず暴力から逃れるため家を飛び出したDV被害者が生活保護を申請した際、本来留意されるべきDV加害者への扶養義務の調査が行われるケースもあるという。生活保護受給者数が増加し扶養義務強化の声の高まりも背景にある。

行政にも頼れず、家族にも頼れない。そんなDV被害者は少なくない。

NPO法人全国女性シェルターネットは次のようなDV相談窓口を紹介している。

・福祉事務所

女性センター

・警察署

配偶者暴力相談支援センター(緊急の場合)


(「あの人を守るには? ここに相談」)

NPO法人全国女性シェルターネットは「周りに、被害に遭っているかもしれない、と思う人がいたら、こうした施設があるんだよ、ということを、まずは伝えてあげてください。そして、DVかどうか迷う前に、まずはぜひ一度、訪問するよう、勧めてあげてください。腰の重い友だちを応援するために、多少お節介と思われても、訪問の際に付き添ってあげたり、事前に電話連絡して窓口の確認をしたりしてあげることも、大きな助けになります」と呼びかけている。

認定NPO法人フローレンスの代表理事・駒崎弘樹さんが自身のブログ「隣家で親子が餓死することが「普通」にならないように、僕たちがせめてできること」で呼びかけているように、事件を防ぐために私たち一人一人が向き合うべき問題ではないだろうか。

【関連情報】

DV相談ナビ (全国統一ダイヤル 0570-0-55210)※24時間受け付け 

・内閣府男女共同参画局 配偶者からの暴力相談者支援情報

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