10月26日に開催される大阪マラソン。東京マラソンなどと同様に、人気があるフルマラソンのひとつだが、一般申し込みの市民ランナーは、高倍率の抽選によって選ばれるため、参加できない場合も多い。
そんな「大阪マラソンに出たい」ランナーの夢と、NPOなど非営利団体への支援をつなぐ、チャリティマラソンの取り組みが誕生している。
今回は、非営利団体が活動資金を寄付で募るファンドレイジングサイト「ジャストギビング」事務局長の梶川拓也さんに、日本の寄付市場や、大阪マラソンのチャリティの仕組みについて聞いた。
■日本でも広がり始めた個人の寄付
寄付型ファンドレイジングサイト「ジャストギビング」には、大阪マラソン完走を目指すチャレンジが並んでいる。「コブクロ」の小渕健太郎さんをはじめ多くの一般の人が、大阪マラソンに出場するために、支援したいNPOを選び、寄付を募っている。
イギリス初のジャストギビングは、NPOや自治体などの非営利団体が、個人から寄付を集められる世界最大のプラットフォームだ。アメリカや韓国など各国で普及し、累計1500億円の寄付額が流通しているという。
日本では、2010年3月に一般財団法人としてスタート。東日本大震災の際は、様々な支援団体と個人をつなぎ、多くの寄付金を集めた。2014年5月までの寄付額は、11億円に達したという。ここ数年、日本でも様々なクラウドファンディングが登場したが、ジャストギビングの特徴は「寄付型」だ。
日本では、世界と比べて法人寄付の比率が高かったが、個人が寄付しやすい仕組みが整えば、個人寄付はもっと一般的になる可能性があるという。梶川さんは、世界の寄付市場を説明する。
「個人寄付の市場は、アメリカは約18兆円。イギリスは約1.1兆円。韓国は、日本をほぼ同額の6900億円です。日本の人口とGDPは、イギリスの約2倍。個人の寄付市場は、GDPに比例するといわれていますから、まだまだ個人寄付は伸びると思います」
■法人寄付の多い日本、個人が団体に寄付する仕組みがなかった
「イギリスでは月に数回、寄付を頼まれる」と話す梶川さん。イギリスでは、友人や家族のほか、NPOから直接メールが届くほど寄付文化が根付いているという。
「寄付をしない主な理由は、『お金がない』『資金使途が不明』『頼まれない』3つです。お金がないのは、個人の状況によりますが、資金使途はウェブ上で財務報告することで改善されました。実は一番大切なのは、3つめの『ちゃんと頼む』ことです。これが日本では注目されていませんでした」
「日本でも、NPOなどの非営利団体が、自ら寄付を頼む“セルフファンディング”の仕組みが整えられて、団体への寄付を頼んでくれるファンや個人といった“ファンドレイザー”が増えていけば、個人の寄付は身近になると思います」
■「京都大学iPS細胞研究所」や自治体がセルフファンディングに挑戦
自ら寄付を集めるセルフファンディングで有名なのは、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授の「京都大学iPS細胞研究所」だ。
山中教授は2012年3月、京都マラソンに挑戦し 1000万円の寄付を獲得。ノーベル賞を受賞後、iPS細胞が広く知られてからは、追加で1700万円の寄付が集まったたという。国の助成金に頼るだけでなく、研究費や専門スタッフの雇用を確保するために、自らチャレンジを行っている。
また全国の地方自治体も、プロジェクトを実施のために、ギフトを用意してサポーターからの寄付を集めている。
「鎌倉市は、2013年11月に、年間2000万人が訪れる観光客のために、案内ルート板を整備する『かまくら想いプロジェクト』というチャレンジを行いました。ルート板に、寄付したサポーターの名前が刻むギフトを用意されて、整備費用の100万円が2週間で集まりました」
「大阪市は今『太閤なにわの夢募金』というチャレンジを実施しています。秀吉が築いた初代大坂城の石垣を掘り起こすプロジェクトで、寄付の額に応じて、芳名帳にサポーターの名前を記載したり、記念メダルを贈呈したりするなど、様々なギフトを用意してPRしています」
梶川さんは、「自治体も、共感のストーリーやギフトを用意して、しっかりPRすることで、全国のサポーターから寄付を集めることができる」と話す。
■個人がファンドレイザーとしてNPOを支援――大阪マラソン
このように、非営利団体が自ら寄付を集めるのがセルフファンディングだが、大阪マラソンでは、チャリティランナーが支援したい団体のために寄付を集めるファンドレイザーとなる。
大阪マラソンは、一般ランナーの場合は抽選となるが、チャリティランナーであれば、寄付先を選び7万円以上の寄付をすれば出場できる。寄付金が7万円に満たない場合も、不足分を自分で払えば出場は可能だ。
寄付先は、公募によって選ばれた13の非営利団体(下図)。東日本大震災支援や、病児保育や若者の就労支援など、テーマに合わせて選出されている。
チャリティランナーは、寄付先する団体を選び、寄付を集めるために、SNSなどで友人や同僚たちにアピールする。各団体は、ランナーを通じて社会問題を広めることができる。寄付金を集めるためにランナーとともにPRするという。
「個人だけでなく各団体にも、事前にチャリティランナーの枠を買ってもらいます。20人分以上ですが、ひとりのチャリティランナーによって確実に7万円の寄付になるんですね。だから団体も、ちゃんとチャリティランナーと一緒にPRする仕組みです」
■非営利団体が年間予算を獲得――世界最大のロンドンマラソン
大阪マラソンは、サイト上で「世界で最も多くの人がチャリティに参画するマラソンを目指す」とうたっている。梶川さんによれば「海外では、チャリティマラソンは、非営利団体が予算を確保する重要なイベントのひとつ」だという。
「イギリスのジャストギビングが提携していましたが、世界最大のチャリティマラソンは、ロンドンマラソンです。3.5万人のランナーのうち、1/3がチャリティランナーで、結果的に約9割が何らかのチャリティを行います。一回で、ひとり平均20〜30万円の寄付を集めます。2013年には91億円(5300万ポンド)を集め、ギネス記録を更新しました」
「ロンドンマラソンでは、各団体が様々なギフトを用意してアピールします。『当日、応援します』『ゴールのときに、写真撮ります』というのもありますね。スポーツ紙に広告を出すところもあります。年に一度開催されることで、各団体は毎年予算を獲得できます。チャリティが構造化されているんですね」
■大阪マラソン――チャリティランナーの挑戦
今大会のチャリティランナーに応募した田村優実さんは、新聞などで記事を読んでいた京都大学iPS細胞研究所を寄付先に選んだという。目標10万円に設定し、最初に自分が2万円寄付したという。
「もともとマラソンは趣味で、フルマラソンを走ったこともありましたが、1年ほど前にハードワークで体調を崩してからは休んでいたんです。今の会社に転職し、体調が落ち着いてトレーニングを再開した頃に、友人からすすめられたことがきっかけで、自分の趣味が誰かのためになるならと思って、挑戦してみることにしました」
「FacebookやTwitterなどのSNSで、チャレンジを報告しましたが、友人や同僚など、一人ひとりに思いを添えてメールやメッセージを送ったことが寄付につながったと思います。ちょうど先日、誕生日を迎えたので、プレゼントの代わりに寄付のお願いをしてみたことも、よかったと思います(笑)」
積極的にPRしたことで、7月28日の時点で10万円を超える寄付が集まったという。コメント欄には、京都大学iPS細胞研究所からも、お礼のメッセージが届いている。
「今回のチャレンジしたことで、前職でお世話になった方が、ご病気をされていたことを知りました。『iPS細胞の研究で、自分と同じ病気の人が治るように』と寄付をいただきました。みなさんの顔を思い浮かべると、疲れているときも練習できます。今は月間100キロを目標に走っています。まだまだ寄付も集めていきたいですね」
■大阪マラソンの可能性
日本は、寄付文化について「今までは、寄付したくなる仕組みがなかっただけなんです」と梶川さんは語る。
「面白そうでわくわくするもののほうが、寄付は集まりやすい。たとえ大阪マラソンに『走りたい!』だけの人であっても、寄付先のことを知ってアピールします。寄付する人も、お金とともに応援する気持ちも届けるので、コメント欄も盛り上がります」
大阪マラソンに申し込んだチャリティランナーの約6割は、寄付金7万円以上を集めることに成功しているという。申し込みは7月31日まで。大阪マラソンを走りたい人は、チャリティランナーとして参加するのもいいだろう。
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