大阪都構想の住民投票「大阪市解体」が説得力をもって語られる理由とは

大阪市の外からみているとわかりにくいが、都道府県に匹敵する自治の権限を持つ政令市を解体する構想がある種の説得力を持って語られる背景には、大阪市民が長らく抱いている「事業破綻」と「役人天国」というイメージがある。

大阪市を解体し、5特別区を設置する「大阪都構想」の住民投票が、5月17日、実施された。有権者約214万人という日本の政治史上最大の住民投票は、地域政党「大阪維新の会」代表を務める橋下徹・大阪市長の政治生命を左右する意味でも注目される。事前の報道各社の情勢調査ではいずれも、反対が賛成を数%上回っているが、大勢判明は17日深夜以降になるとみられる。

維新など賛成派は「大阪府と大阪市の二重行政を解消して2700億円の財源が生まれる」と主張、自民、共産など反対派は、府市連携がすでに進んでいるとして、経済効果は「1億円にすぎない」と反論している

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大阪ドーム(現・京セラドーム)

大阪市の外からみているとわかりにくいが、都道府県に匹敵する自治の権限を持つ政令市を解体する構想がある種の説得力を持って語られる背景には、大阪市民が長らく抱いている「事業破綻」と「役人天国」というイメージがある。

2005年10月、大阪ドーム(現・京セラドーム)を運営していた大阪市の第三セクター「大阪シティドーム」が、約588億円の負債を抱えて会社更生法の適用を申請した。大阪市交通局が市電の車庫跡地を信託銀行に委託して開発した遊園地「フェスティバルゲート」も、大阪市に借金200億円が残る結果となった。市債残高は約5兆円に達する。

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大阪市浪速区の倒産した複合娯楽施設「フェスティバルゲート」。(飛行船遊覧体験搭乗で撮影) 撮影日:2008年01月19日

その裏で、職員の「公費天国」ぶりも、数多く報道され、市民の記憶に焼き付いてきた。

1989年、大阪市財政局の課長代理が、架空のナイトラウンジ名義で銀行口座を開設し、架空の支出命令書を作るなどして公金514万円を横領し、馬券やクラブのホステスへのチップなどに流用した罪で逮捕・起訴された(1990年に有罪判決)。しかしこの事件が報じられる過程で、市役所のほぼ全局で巨額の裏金がプールされ、市議を高級クラブで接待したり、幹部同士でゴルフしたりした際に使われていたことが明るみに出た。

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大阪市役所の不祥事を伝える朝日新聞(大阪本社版)の紙面

市関係者らの証言によると、異常な公金支出の原因となったのは、接待攻勢による議員の抱き込み工作だった。市議会常任委員会の前には必ず市長公館で「小宴」を開催、委員会が始まれば、「実地調査」の名目で現地見学をしたあと、委員会ごとに行きつけのホテルでフルコースの夕食をとり、2次会、3次会と高級クラブで飲食、マージャンを設定するのが慣例になっている、という。

こうした接待のために使われる公金の多くは「食糧費」名目で支出される。しかし、過度の接待や議員のパーティー券購入、幹部職員同士のゴルフなど、支出理由を明らかにできない金をねん出するために裏金をプール、ほとんどの局で庶務課長や庶務係長が裏帳簿を操作していた。金のねん出法は、職員のカラ出張のほか、人件費、各局でつくる書類などの印刷製本費や弁当代などの水増し、消耗品名目などでやりくりしてきた、という。

=朝日新聞(大阪本社版)1989年12月3日付朝刊より

2004年にはカラ残業手当の支払いや、条例に基づかない退職金や年金の上乗せをしていたことが発覚。互助団体や職員の親睦団体に公金から支出し、観劇券やスーツなどが支給されていたことも「職員厚遇」と批判された。大阪市は弁護士の大平光代氏を助役に迎えて「改革委員会」を設置して福利厚生の見直しに着手し、2005年10月には「市政改革の信を問う」として、当時の関淳一市長が突然辞任し、出直し選挙で再選された。

出直し選挙で関氏は労組の支援を拒否。再任後は労使交渉での意見交換を拒み、職員4500人、歳出1200億円を削減した。もともと手当削減に反対していた労組は、2007年の市長選で民主党推薦の平松邦夫氏を支援し、関氏の再選を阻んだ。

その4年後に、「府市連携」を掲げ、大阪府知事を辞職して立候補した橋下徹氏が、平松氏を下している。

橋下氏は2014年3月、大阪都構想の推進を掲げ、自ら辞任して出直し市長選に臨んだ。選挙戦でこう繰り返した。「僕と同じ改革ができる市長はしばらく誕生しない。改革が二度と後戻りしないよう市役所を作り直す。これが大阪都構想だ」(朝日新聞=大阪本社版=2014年3月19日付朝刊)。

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