新型コロナウイルスの影響で、東京など都市部の公立学校では、臨時休校が長引いている。注目が集まるのが、ネットを使って自宅から学習する「オンライン授業」だ。私立の静岡聖光学院中学校・高等学校(静岡市)は3月初旬から自主的に休校を決め、オンライン授業をいち早く取り入れている。
星野明宏校長は、「オンライン授業を始める準備が間に合わなくても、やり方は色々ある」と話す。学習の遅れを取り戻すためには、どのような対策が必要なのか。Zoomインタビューで聞いた。
オンライン授業、どうやってる?
教師がパソコンの前で授業を開き、生徒たちは、iPadでその内容を確認する。質問があれば、ビデオ会議サービスの「Zoom」を使ってリアルタイムで聞くこともできる。
これは、オンライン学習を取り入れた静岡聖光学院で見られる光景だ。
同校でオンライン授業が始まったのは3月2日から。
「本校は私立ですが、3月第1週から臨時休校することを独自に決めていました。2月27日に全教職員に対して休校すること、オンライン学習に切り替えることを通達したのですが、ちょうどその1時間後くらいに安倍首相が一斉休校の要請を表明しました。
タイミングは偶然にも重なりましたが、海外の状況を注意深く見ていたので、新型コロナの影響が長引く場合のシミュレーションは早い段階から出来ていたと思います」
スムーズに始めるため、2月28日〜29日の放課後、教員に対して講習を実施。生徒にもレクチャーを行ったという。
iTunesUやZoomを活用
同校がオンライン学習を行うために使っているのは、学習・教育サービスの「iTunesU」と、オンライン会議サービス「Zoom」だ。
生徒たちはiPadなどのタブレット端末を使って授業に参加している。同校では2016年からiPadの導入を進めており、保護者に購入を依頼していたという。
また、家庭によっては「Wi-Fi環境が整っていない」場合もある。静岡聖光学院ではオンライン学習を導入する直前に保護者にアンケート調査を行っており、Wi-Fi環境が整っていない家庭には、紙のプリント提出などの課題を出してフォローしているという。
ICTチームがサポート、1週間ごとに授業内容を改善
オンライン授業を始めるにあたり、活躍したのが「ICTチーム」だという。
ICT(情報通信技術)に長けた6人の教師、事務職員からなるチームで、授業内容の組み立てや、教員や生徒のサポートを行ったという。教員の中には動画の作成方法がわからないという声もあったが、初心者から上級者まで幅広くサポートしたという。
さらに、週末には改善点を話し合い、1週間ごとに授業内容もアップデートしていった。
静岡聖光学院が3月に行ったオンライン学習は、以下のような内容だ。
▼1週目(3月2日〜7日)
・教師が5〜10分の動画を作成し、iTunesUで配信。生徒たちは、その動画を視聴しないとできないような課題(20〜30分)を行う。
・5教科(国語、社会、数学、理科、英語)のうち、1日あたり4教科の課題を提出するよう指示。それ以外の教科についても、iTunesUで動画を配信した。
・朝(8時半)と夕方(14時半)、Zoomを使って5〜10分間のホームルームを実施。ホームルームに参加しなかった生徒は電話で出欠確認をしたという。
▼2週目(3月9日〜14日)
※本来は3月9日から定期試験だった。
・Zoomを使い、教師・生徒が参加するオンライン授業を実施。
・生徒たちに課題を出し、1コマが終わるまでに提出させることで、試験に変わる課題などを行わせた。また、Zoomを使うことで、教師が作成した動画やパワーポイントを説明したり、生徒からの質問をリアルタイムで受け付けたりできるようになった。
・Zoomで生徒一人ひとりと面談(1on1)を実施
・「出欠確認」に時間がかかってしまうことが難題だったが、教師の提案で、iTunesUを使った出欠カードを導入したという。
▼3週目(3月16日〜21日)
・生徒たちが提出した課題を返却。課題の添削、指導を行った。
・オンライン修了式を実施。学院長講話と校長メッセージを事前に録画し、朝のホームルーム終了後、全生徒が動画を視聴したという。4月7日は、同様の方法でオンライン始業式を開いた。
オンライン授業には「国や自治体、企業の補助が必要」
オンライン授業をめぐっては、家庭によってはWi-Fi環境が整っていない、iPadやパソコンなどの端末がないなど、さまざまな課題がある。
星野校長は、地域や学校によって学習の遅れが生じないよう、「国や自治体、企業の補助が必要」だと指摘する。
「携帯電話大手3社が学生を対象に通信量を一部無料にするという発表もありましたが、家庭によって差が生じないように、政府や教育委員会には学校はもちろん、通信会社などの民間企業とも積極的に連携してほしいと思います」
静岡聖光学院では、電話やネット上のアンケート、Zoomを使った面談などを通じて、生徒や保護者へのヒアリングを積極的に行っている。
「学校側は、オンライン学習が導入できるのか、生徒や保護者にアンケートなどを行って即座に把握し、それを自治体や教育委員会にすぐに共有する。その上で、タブレットやPCがない、Wi-Fi環境がないなどさまざま課題を細分化して、それを解決するためには国の助成が必要なのか、民間の協力が必要なのか、整理していくことが大事だと思います」
「準備が間に合わないから、オンライン授業は無理」とは思わないで
静岡聖光学院がスムーズにオンライン授業を導入できたのは、3年前からiPadを導入し、ICTチームを事前に立ち上げていたなどの要因もあるだろう。
「私立ではできても、公立では無理に決まっている」。そんな意見もあるかもしれない。
しかし、「今から準備しても間に合わないと思っても、やり方は色々ある」と星野校長は話す。
「セキュリティの脆弱性という課題はありますが、今の時点で一番現実的なかたちは、Zoomなどのツールを使ってオンライン授業を行うことだと思います。ただ、Zoomは難しくても、やり方は色々あります」
「動画をあらかじめ作成して、それを見てもらってプリントを提出させる。ネット上で配信するのではなく、DVDで配布してもいいんです。もっとアナログな方法で言えば、プリントを配布するという方法もある。『オンライン授業』と聞くと難易度が高く聞こえますが、要は『遠隔教育』なんです。やりようはいくらでもある、と思ってほしいです」
「リアルな指導の方がレベルが高いのは事実。それでも...」
静岡県では一部の市区町村で学校が再開しているが、新型コロナウイルスの全国的な感染拡大を受け、不安を示す声も広がっている。
安倍首相は4月7日、東京都や千葉県など7都県を対象に、緊急事態宣言を発令した。
事態を受け、静岡聖光学院では4月も休校し、引き続きオンライン学習を行う。同校では生徒の35%が校内にある学生寮で生活しているが、4月からは夜の自習やミーティングなど、日々の指導もオンライン化するという。
星野校長は、「オンラインでもリアルな授業と同じレベルにすることが求められている」と話す。
「教室で先生が直接指導する方が生徒に伝わりやすく、ティーチングのレベルが高くなるというのは、今日現在の状況としては、やはり事実としてあります。集中していない生徒もいますし、オンラインだと1コマ50分も持たないという声も教員から上がりました。学習の遅れをとらないよう、4月も引き続き教職員、ICTチーム一丸となりたいと思います」
星野校長は、今回のような危機的な状況に対応することで、ICT教育の可能性が広がっていくのではないか、とも展望を語る。
「このような状況で、自治体や教育者はマネジメントとして遠隔教育に取り組むための準備をすることはマストで、『できない』と言い訳をして準備をしないということはあり得ません。生きてさえいればいくらでもやり直しはできるので、肩肘張らずに、何事にも挑戦していくべきです。ICT教育が進んでいない日本で、いま新しい取り組みを始めることがこの先の教育改革に繋がるのではないかと思います」