オニオンスライス考~玉ねぎを勝手に憐れむ歌~

玉ねぎは、実に多くの料理に呼ばれるが、「その他大勢」の立場に甘んじていることが多いのはご存知の通りだ。
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暖かくなってきたな、なんて思っていたのもつかの間、気付けばムシムシとした季節に突入。もう1年の半分が過ぎてしまったわけですね、いやはや。

ひと月ほど前のこと。小汗をかくような陽気のある日、近所の八百屋で3個100円という破格の値段で新玉ねぎが売られていた。

「これは買わねばなるまい」。うむ、とひとり頷き、店のおばさまに代金を手渡す。

新玉ねぎといえば、辛みが少なく、生食向きである。もっともシンプルに楽しむ食べ方のひとつに、薄切りにするという手がある。いわゆる「オニオンスライス」、居酒屋の大定番メニューのアレだ。

まずは薄切りにして水にさらす――わけだが、そこは新玉ねぎ、そうしっかりとやる必要はない。1、2分もしたらザルにあげ、水切りしたのち、キッチンペーパーで水気をとる。そして、鰹節をぱらり、ポン酢をたらり。口に入れると、スライスした断面が舌をざらっと刺激したのち、玉ねぎの層がほろほろと崩れていく。噛めばシャキシャキ、みずみずしさが口一杯に広がる。鰹節とポン酢って、完璧な組み合わせだよなー、柚子胡椒入れても旨いよなーと、簡単かつ鉄板の組み合わせに、あらためて唸る。

サラダ、ハンバーガー、カレー、野菜炒め......。玉ねぎは、実に多くの料理に呼ばれるが、「その他大勢」の立場に甘んじていることが多いのはご存知の通りだ。そんな玉ねぎにとって、自身の名前を冠し、メインを張れる機会はそう多くない(オニオンリング、オニオンスープ......あと何かあったっけ?)。カレーに至っては、細かく刻まれ、徹底的に炒めつけられ、原型なき状態までコテンパンにやられる。もちろん、「旨み」という業績は残る。しかし悲しいかな、それが評価される時には、すでに玉ねぎの姿は跡形もない。そんな状況に文句ひとつ言わず、ひたむきにチームに貢献する玉ねぎはエライ。

つまりオニオンスライスは、数少ない玉ねぎのハレの舞台なのだ。なのに、私はいつも考えなくポン酢をぶっかけて満足してしまっていたな。ちょっとくらい、話を聞いてやってもよかったな。コミュニケーションが足りなかったかもしれないな......。そんなすれ違い夫婦のような気分に浸りながら、オニオンスライスを肴に飲んでいたのだが、考えてみれば、ポン酢でばかり食べるのも能がない。それじゃあと、少々オニオンスライスの食べ方を模索してみることにした。以下はその記録である。

※季節的に、もう新玉ねぎの季節じゃありませんが、もちろん普通の玉ねぎで作ってもオッケーです(新玉ねぎよりは少し長めに水にさらしましょう)。

1.にんにくドレッシングで食べてみる

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私がよく作るにんにくドレッシングは、醤油+酢+ごま油+にんにく(すりおろし)+塩、という組み合わせである。某豆腐レシピ本に、春菊と豆腐のサラダにかけるドレッシングとして載っていたものを適当にアレンジした。冷蔵庫に壬生菜(水菜みたいな野菜)があったので、それも一緒に混ぜてみる。「玉ねぎが主役」云々書いてたそばから余計なものを混ぜてしまってアレだが、とりあえず旨かった。

驚きはないが、まあこれはこれで安定の一品と言えよう。

2.ザーサイと一緒に食べてみる

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ザーサイを適量刻む。ラー油、塩とともに和え、白ごまを振る。中華豆腐みたいなイメージで作ったが、簡単で旨い。というか、これ、ちょっと濃いめの味に仕上げれば、そのまま豆腐の薬味に流用可能。That's ツマミな味である。

3.豆板醤&にんにく&花椒で食べてみる

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2で「お、中華系いけるじゃないか!」と気をよくした私は、さらにそっち路線で攻めてみることにした。スライスした玉ねぎを、刻みにんにく、豆板醤、ごま油、花椒(から煎りして、すり鉢で潰した)とともに和える。肉も味噌も入ってないけど、イメージは麻婆豆腐である。肝心の味は......正直、微妙。不味くもないけど、美味しくもない。ぼやけた味だなぁ......これ、どうにかならんものかと、なんとなく酢を投入。本当に適当な気持ちからだったのだが、これが予想外の効果を発揮した。ぼやけていたピントが、急にカチっと合った感じ。「オニオンスライスには酸味だ!」という仮説が生まれる。

4.バルサミコ酢+醤油で食べてみる

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酢、すげえ! ということで、思い浮かんだのがバルサミコ酢。バルサミコ酢+オリーブオイル+醤油+塩+黒胡椒で作ったドレッシングで和えてみた(冷蔵庫にあったトマトも添えた)。バルサミコ酢と醤油の相性のよさはかなり市民権を得てきているが、予想通り、コクがあって抜群に旨い。でも、考えてみたら、これ限りなくポン酢に近いよな。

5.クミンと一緒に和えてみた

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カレーを構成する重要なスパイスとしておなじみ、クミンを使ってみた。シンプルに、スライスした玉ねぎに、クミンシード、塩、黒胡椒を振りかけ、オリーブオイルを回しかけ、和える。玉ねぎしゃりしゃり、クミンつぶつぶ。食感が楽しい。クミンって、油で炒めて香りを出すイメージが強いけど、そのまま生野菜と和えても旨いのだ。でも、これ、もっと美味しくなりそうな気が......。

ということで、またしても酢の力を借りることにしたのだが、結果、カレーの付け合わせにもよさそうな、爽やかかつスパイシーなオニオンスライスが完成したのだった。「オニオンスライスには酢」という結論でもうまとめてしまっていいような気がしてきた。

6.チーズ&ハムとともに焼いてみた

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これはちょっと邪道かもしれないが、酔った時の思いつきでやってみた。鉄皿にスライスした玉ねぎ、カットしたハム、とろけるチーズを載せ、塩胡椒。オリーブオイルを回しかけ、オーブントースターへ。うん、なんかボリューム感に欠ける。ピザトーストの具だけ取り出したような感じである。不味くはないが、当然のことながら、薄切りにした玉ねぎは水分が抜けてヘロヘロになっている。加熱するなら、もっと厚めにスライスするなどして、形を残した方がいいのではないか。オニオンスライスはやっぱり生に限る。

7.玉ねぎ+玉ねぎ=究極のオニオンスライス?

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本当は6で一区切りとするつもりだったが、納得できず、もう一品作ることにした。オニオンスライスを、同じ玉ねぎから作られるオニオンドレッシングで食べたら......濃い濃いの究極オニオンスライスになるんじゃ?と思って興奮した。玉ねぎをすり下ろして、醤油、オリーブ油、酢、塩、胡椒あたりを適当に混ぜてドレッシングを作り、スライスした玉ねぎにかける。スライスのしゃきしゃき、おろしのほわほわで、口の中が楽しい。

が......期待していたより、普通。オニオンドレッシングの味って、言ってしまうとひじょうにオーソドックスなドレッシングの味だから、たんに「ドレッシングをかけたオニオンスライス」でしかないのだった。や、美味しいのだが。

※※※

と、なんのオチもない話だが、ちょっとでも玉ねぎに花を持たせることができたなら嬉しい。なにはともあれ、「オニオンスライスには酢」ということだけは分かったのだった。