写真家オマール・Z・ローブルズ氏がバレリーナの写真を撮り始めたのはわずか3年ほど前のことだ。しかし、繊細な照明を生かした屋内スタジオで演技を写した写真ではなく、ローブルズ氏は、ダンサーたちを屋外や街の路上で撮影した。雨が降れば、撮影はおあずけとなる。
被写体はたいていトウシューズを履き(薄めの布をまとったり、ジーンズを履いたりすることもある)、歩道の上、線路脇、道の中央などで、両手を広げたり足を高く上げたりしている。
ローブルズ氏は、ニューヨークのアメリカン・バレエ・シアターやダンス・シアター・オブ・ハーレム、バレエ・コンシエルト・デ・プエルトリコ、世界的に有名なモダン・ダンス・カンパニーのアルビン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアター、さらにはキューバ国立バレエに所属する男女のダンサーを撮影してきた。
ダンサーたちは、ニューヨークからシアトル、ハバナからプエルトリコのサンフアンまで、都会のジャングルで身体を曲げることを了承してくれた。
プエルトリコ出身のローブルズ氏は、パントマイムなどパフォーマンスの経験があるという。「撮影を始めたとき、写真はパントマイム劇のような素晴らしい非言語コミュニケーションの手段だと気づきました」とローブルズ氏はハフポストUS版のインタビューで語っていた。「ただし写真は一瞬で消えてしまう感情を捉えられるだけでなく、パントマイムよりずっと長く物語を伝えることができます」
ローブルズ氏には、Instagramで20万人を超えるフォロワーがいる。とりわけ現実のバレーを鑑賞できない人にとって、ほんの一瞬を捉えたこれらの画像がどれほど魅力的であるかを彼はよく知っている。「バレエダンサーの動きは、まるで苦もなく軽々とやっているように見えます。しかも人間ができる極限のところまで身体を引き延ばしながら。私たちを魅了するのはこうした優美さ、優雅さなのです」とローブルズ氏はブログで説明している。
バレエをイメージを写し出す彼の作品は、SNSやそれ以外の媒体にも人気が広がりつつあるため、ローブルズ氏と一緒に以前の作品を交えながら、路上写真の美しさや、ファンの人がバレリーナに魅せられる理由について聞いた。
——路上で初めてダンサーの写真を撮った時のことを覚えていますか?
はい、なぜなら私自身がダンサーだったからです。当初は、いろいろな街で型通りの跳躍をする自分を撮るセルフポートレートのシリーズとしてプロジェクトを始めました。ただ最終的には、Instagramで見つけたダンサーに声をかけ、モデルのパートはダンサーたちに依頼したのです。私は撮影を続けています。
——写真で表現するために、なぜ都市とバレリーナの組合せだったのでしょうか?
私の目標は、日常の規範を打ち壊すこと、生活の単調さを粉々に砕くこと、ルールに関する厳格な規則のない世界を写し出すことでした。無重力状態の考えかたを理解すること、もしくはその状態で街を漂うことでした。
——略歴のなかで、あなたの路上写真の独特のスタイルは「ニューヨーカー、ニューヨークのダンサーとともにいること」の代わりになると書いています。これについて説明していただけますか? 町もしくは都市空間のどのような側面に焦点が当てられているのでしょうか。
このシリーズに打ち込む前、私は路上やドキュメンタリーの写真を多く撮ってきました。そこで、通りに漂う独特の美しさを見出したのです。建築物はあるにせよ、都市の違いをもたらしているのはそこにいる人でありマンネリズムです。それによって私たちは違う人間になるのですが、面白いことに、ある意味ではそれが共通点でもあるのです。私が求めているのは、その光景にある日常の人々を「普通でない」人、つまりダンサーと入れ替えてしまうことです。そうして私たちの空間から新しい動きの可能性を備えた新たな現実を想像してみるのです。
——撮影の際、ダンサーとはどのようなやりとりを? 写真家として、どんな雰囲気や瞬間に興奮しますか?
私はプロとしてパントマイムとして学んでいたので演技の知識と経験があります。ですから、写真家としての観点からだけでなく、パフォーマンス的な視点からもダンサーに指示を出せます。他の写真家の方の場合、ダンスのテクニックに精通していないためと見逃してしまうような細部にまで気を配ります。ダンサーに求めることは、どちらかと言えば具体的です。例えば、ダンサーが足を指さすと、上手い具合に肩が下がる、といったように。
また、私はよく大げさな動きや跳躍を求めます。異常なものを求めます。他人ができるものには興味がありません。だからこそ、トウシューズを履いたダンサーを撮影することが多いのです。このような光景は普通ではないので、見る人の目にすぐとまる写真になります。
最近ある人から教わったフレーズがあり、無意識に実践していると感じました。私の中で消化されているのだと思います。それは、「写真家としての仕事は、馴染みのない方法で馴染みのあるものを写すか、馴染みのある方法で馴染みのないものを写すかのどちらかだ」というものです。今回のシリーズでは、この2つの面を同時に達成できると信じています。
——ダンサーの写真を撮ってみたい場所で、まだ実現していないところはありますか?
本当はどこにでも行きたいのですが、もし1年のうちに行ける国・都市を5つ選ぶのであれば、ブラジル、インド、パリ、南アフリカ、日本を挙げます。
——まだ撮影していない現代の人、昔の人のうち、写真に収めたいダンサーがいるとすれば、それはどなたですか?
ずっと前から(キューバ出身のダンサーで英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルなどを経験した)カルロス・アコスタの写真は撮りたかったですね。彼の魂、そして国際的な場におけるキューバ・バレエの栄光が具体的なかたちになっている人です。また、ダンサーではないですが私の指導者マルセル・マルソーもぜひ撮りたかったです。彼の公演での存在感や投影法は、私が知る限り他に例がありません。
現代人であれば、ナタリヤ・オシポワ、ミカエラ・デプリンス、ミスティ・コープランドが間違いなくリストの上位に入ります。とりわけミスティ・コープランドの写真をぜひ撮ってみたいです。彼女の経歴にはとても触発されますし、ラテン系アーティストとして同一視できる人であるのも確かです。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。