女人禁制など数々のタブーが残る九州の秘島「沖ノ島」が、世界文化遺産候補として日本から推薦されることになった。
産経ニュースによると、文科省の文化審議会は7月28日、2017年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する世界遺産の候補に「『神宿る島』宗像(むなかた)・沖ノ島と関連遺産群」を選出した。今後、閣議了解を経た上で、2016年2月1日までに正式な推薦書をユネスコへ提出する方針だ。2017年夏ごろに開催される世界遺産委員会で、登録の可否が決まる。
この遺産群は、福岡県宗像市の沖ノ島を中心に、宗像大社や福津市の新原・奴山古墳群など5つの資産で構成される。古墳時代から平安時代にかけて、航海の安全などを願い、多くの装飾品などを用いた祭りが行われていた。その祭りが、日本固有の信仰として今も残っていることに価値があるとして推薦されることになったという。
■ 女性は立入禁止、男性は1年に1回のみ入可
宗像観光協会の公式サイトなどによれば、沖ノ島は、玄界灘に浮かぶ周囲4kmほどの島。九州本土から約60km沖合に位置する絶海の孤島だ。日本列島と朝鮮半島の間に位置するため、500年間に渡って航海の安全を祈って、膨大な量の奉献品を用いた大規模な祭祀が行われていた。
鏡、勾玉、金製の指輪など、約10万点にのぼる貴重な宝物が見つかり、そのうち8万点が国宝に指定された。このため、沖ノ島は「海の正倉院」とも呼ばれている。
島全体が宗像大社の三宮の一つ、沖津宮(おきつぐう)の神領だ。「神が住む島」として信仰の対象となっており、古来から自由な立入りが禁止されている。島に滞在が許されるのは、宗像大社の神官ただ一人で、交代で宿直を務めている。女人禁制となっている理由は、はっきりしていない。島では田心姫神(たごりひめのかみ)という女性の神を祭っており、神が嫉妬するためという説もある。
男性にしても、一般人の立入りが許されるのは、1年に1回。日露戦争で日本海海戦が開かれた5月27日のみ。島の近海で、激しい戦闘があったことから、戦没者を慰霊する「現地大祭」が開かれる。参加を希望する一般男子の中から抽選で選ばれた約200人の男子が参加するが、上陸の際には全裸で海に入って禊(みそぎ)をする必要がある。
このほか、「不言様(おいわずさま)」といって、沖ノ島で見たり聞いたりしたものは、一切口外してはならないという掟や、「一木一草一石(いちもくいっそういっせき)たりとも持ち出してはならない」という掟など数々のタブーが言い伝えられている。
■「差別ではなく伝統だ」地元の声
世界遺産に登録されても宗像大社は「古来、守り続けてきたものは変えられない」と、沖ノ島の立ち入り制限を続けていく方針だ。女人禁制が女性差別として、世界遺産の登録に向けて障害になる可能性もあるが、地元では「差別ではない」と反論する声も出ている。
市民の会の海出耐祐さん(69)は「慣習も遺産価値の一部だ。差別ではなく伝統だと、海外の人に理解してもらう努力が必要だ」と強調。市担当課の職員は「広く知られることで、伝統が破られることがないようにしなければならない」と話した。
(「差別でなく伝統だ」女人禁制の慣習 神宿る島…宗像・沖ノ島、世界遺産推薦決定に地元喜びにわく - 産経WEST 2015/07/28 21:24)
■ギリシャには女人禁制の世界遺産も
アトス山のシモノペトラ修道院
とはいえ、これまでにも女人禁制の宗教施設群が世界遺産に指定されており、前例がないわけではない。ギリシャ北部にある標高2033mのアトス山は、ギリシャ正教最大の聖地だ。20の修道院が建ち、約2500人の修道士が修行の日々を送っている。1406年から600年以上にわたって、女性の立入りが禁止されているが、1988年に世界遺産に指定された。
なおアトス山は、人間以外のあらゆる動物のメスが入山禁止。唯一の例外として、猫だけはネズミ類を捕らえるために必要という理由で、メスも許可されているという。
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