【3.11】大川小学校の遺族はなぜ提訴に踏み切ったのか?

東日本大震災の大津波で、児童と教職員84人が亡くなった宮城県石巻市立大川小学校の災害で、死亡・行方不明の児童23人の19家族が3月10日、石巻市と宮城県に対して、1人当たり1億円、計23億円の損害賠償を求めて仙台地方裁判所に提訴した。8人の父親が、代理人の弁護士らと共に仙台地裁を訪れ、訴状を提出した。
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加藤順子

東日本大震災の大津波で、児童と教職員84人が亡くなった宮城県石巻市立大川小学校の災害で、死亡・行方不明の児童23人の19家族が3月10日、石巻市と宮城県に対して、1人当たり1億円、計23億円の損害賠償を求めて仙台地方裁判所に提訴した。8人の父親が、代理人の弁護士らと共に仙台地裁を訪れ、訴状を提出した。

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訴状では、「事前の予見」「当日の予見」「結果回避」の3つ可能性を主張し、被告には、学校設置者として安全確保の義務、危険調査の義務、児童に対する安全配慮義務に違反した債務不履行があったとした。

事前の予見可能性については、被災前の大川小の危機管理マニュアルや教職員らが震災半年前に受けていた防災研修などを挙げた。

そのうえで、当時の「柏葉(照幸)校長ら教職員の過失と児童らの死亡及びそれによる損害の発生との間には、明らかに相当因果関係が存在する」として、「教職員が児童の安全を確保するため、事前に避難方法や避難場所を設定し、地震発生直後から児童の安全確保のため情報収集や避難行動などの然るべき対応をとりさえすれば、児童全員の命は救われた」とした。ちなみに、震災当時の同小のマニュアルには、津波時の二次避難先は明確ではなく、「近隣の空き地・公園等」と記載されていた。

また、当日の予見可能性については、地震発生直後の大川小では、大津波警報が出ている情報を、防災行政無線や訪れた支所職員、子どもを迎えに来た保護者らが伝えた事実を挙げている。唯一生存した教諭が、「山へ逃げますか」と教頭に尋ねたという証言などからも、津波の危険を予見できたとした。

結果回避の可能性については、学校の裏山やスクールバスという選択肢について挙げた。裏山の避難ルートは、体育館裏の緩斜面を始めとする3カ所あったとし、待機していたスクールバスや徒歩などでも、近くの峠(釜谷トンネル方向)に移動させれば、児童全員の命は守られたと主張している。

さらに、教職員の指導に従わざるを得ない児童を、校庭待機から約45分間も「津波による危険性の極めて高い大川小学校の校庭に縛り付けた」「先生が命じてわざわざ危険な場所に拘束し続けた」と指摘した。遺族への事後対応の問題も併せ、児童と保護者が受けた精神的苦痛をふまえ、賠償請求額を増額した。

被告に宮城県を含めたことについては、公務員の給与を負担する者も損害を賠償する責任があると定めた国家賠償法に基づいた。

仙台地裁で、訴状提出に立ち会った8人の父親たちは、この3年を振り返るように、裁判所員が推した受領印をひとりひとり確かめた。

国と県の指導によって市が2012年12月に立ち上げた検証委員会が最終の検証報告書を遺族に示してから半月。5700万円をかけたものの新しい事実はほぼなく、検証のあり方をめぐっても、遺族と検証委員の間の深い溝は埋まらなかった。

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こうした経緯に、単独になっても訴訟するとすでに心に決めていた遺族も中にはいた。しかし、体調を崩す人が続出するなど、多くの遺族にとっては苦渋の決断だった。

当時6年生だった大樹くんを亡くした佐藤和隆さん(47)も、最後まで悩んだ1人だ。

「検証委員会は、真実はどうなのか、3月11日のことを明確にしてくれると思っていたが、目新しい事実は出てこなかった。悩んだうえで、真相究明を司法の場に託すことにした」

同じ6年生で、大樹君の親友だった大輔君を亡くした今野浩行さん(52)も、会見では、検証委員会に対する不信感をこう話した。

「検証委員会でわかったのは、市教委は聴取できないと言い続けてきた生き残った先生が、実際は話せる状況にあるという事実くらいだ。最終報告がきちんとしていれば、裁判にはならなかった」

大樹君と大輔君は、児童たちの証言から、校庭待機中に担任に向かって強い調子で何かを訴えていたことが明らかにされている。

初めのうちは「自然災害だから仕方がなかったのだろう」(今野さん)と思っていた遺族たちも、そうした子どもたちの当時の情報を知るにつれ、学校の当日の対応やその後の事後対応に、次々と疑問を抱いていくことになった。

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訴状や資料は、こうした遺族たちの思いを込めるために、3月10日の午前中まで手が加えられた。代理人の吉岡和弘弁護士は、「最初は、数ページにしようと思ったが、書いているうちに42ページにもなってしまった」と話す。

特に、「はじめに」の部分には、遺族たちと何度も議論を繰り返して、4行に思いを込めた。

児童は津波により死に至ったのではない。

学校にいたから死ななければならなかった。

もし、先生がいなかったら、児童は死ぬことはなかった。

本件は、明らかな人災である。

訴状が提出されたことを受けて、石巻市は、「一部のご遺族から提訴を受けたことは、ご遺族のお気持ちとしてはやむを得ないものと存じます。過去に経験したことのない大災害で発生した事故であることを斟酌(しんしゃく)しつつ、原告の主張もよく検討の上、真摯(しんし)に対応してまいります」とコメントを出した。

また、石巻市教育委員会の担当者は筆者の電話取材に対し、「訴状を見ていないからまだわからないが、答える立場にない」と回答した。

村井嘉浩・宮城県知事は「訴状が届いていないので、コメントできない」としたうえで、「裁判の結果はともかく、今後もできるだけのケアをさせていただきくつもりであります」と話した。

県教委も、「具体的なコメントは差し控えます。提訴の内容にかかわらず、ご遺族に対してはこれまで通り誠実に対応してまいります」とコメントした。

(文・写真 加藤順子/フォトジャーナリスト)


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