サイボウズ式:育休中の子連れ出勤という選択肢──保育園に落ちた母と提案した経営者に実際のところをきいてみた

赤ちゃんが本当にいい子で、会社を助けてくれます。この子がきただけでふわーっと全体が温かくなります。
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左よりレナ・ジャポン・インスティチュート株式会社マーケティング&PR マネージャー鳥羽智子さん、生後6カ月のまほちゃん、代表取締役の蟹瀬令子さん

子どもを連れて出勤したらいいんじゃないの?

保育園に落ちた日本死ね!!!」ブログが国会にも届き、話題となっていた2016年3月、スキンケア会社のレナ・ジャポン・インスティチュート株式会社では、保育園に落ちてしまった社員が子連れ出勤を始めました。

2014年10月から育児休業中に支給される給付金(雇用保険)の要件が緩和され、月80時間までの就労は育児休業中も可能となりました。職場が子連れ出勤や在宅勤務等を受け入れられれば、保育園に落ちてしまった人も仕事ができますが、実際にやってみるとどうなのでしょうか?

お子様が生後3カ月のときから月20時間ほど仕事をしている鳥羽智子さんと、代表取締役の蟹瀬令子さんに、子連れワークの実際についてお話を伺いました。

渡辺:鳥羽さんは、保育園に落ちてしまったそうですね。

鳥羽:はい。妊娠中から保育園を回ってエントリーしましたが6件すべて落ちてしまいました。復帰の準備をしていたので「まさか落ちるなんて」とショックでした。

子育てをしていると母親として楽しい部分もありますが、ふとした日常の瞬間にこのまま社会においていかれるんじゃないかと思うこともありました。かかわっていたプロジェクトも気になりましたし、働く意欲はあったので、保育園に落ちたことを子連れで職場に報告にいきました。

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社員証として贈られたピンク色のよだれかけをつけているまほちゃんと鳥羽さん。

蟹瀬:鳥羽さんに「保育園に落ちました」ときいたときは「あらそう」と。今は育児休業中に何時間か働いてもいい制度もあリますから「リハビリのつもりで、子どもを連れて出勤したらいいんじゃないの?」といったんです。

鳥羽さんには徐々にでいいので頭のなかだけでも動いてもらえるといいなと思っていたんです。やる気満々の人なので「来ます!」といってくれました。

鳥羽:「落ちました」と報告したら、即答で「連れてきなさいよ」といってくださって本当に嬉しかったんです。「えっ、いいんですか? 泣いたりするかもしれませんけれど」と聞いたら「いいわよ」と言っていただけて。

復帰に関して「何時に保育園に預けて」と計画を立てていましたが、「はじめからそううまくいくものじゃないのよ」と先輩のアドバイスをいただき、すごく安心しています。

赤ちゃんが来ると会社全体が温かくなる

渡辺:子連れ出勤を受け入れてみていかがですか?

蟹瀬:赤ちゃんが本当にいい子で、会社を助けてくれます。この子がきただけでふわーっと全体が温かくなります。誰もいやだとはいわないです。泣いていても「大丈夫、大丈夫」と受け入れています。

鳥羽さんも育児ブルー、産後うつにならなくてすんでいるというのがありますよね?

鳥羽:あります。実家が近いわけではないので、家では主人と赤ちゃんと3人ですが、会社では、いろんなお母さん、おばさん、お姉さんがいて、楽しく子育てをさせてもらっています。子育ての情報もネットだけでなく、直接先輩から話をきけるのもすごくいいです。

蟹瀬:最初はみんなおどおどしていたのですが、いまは「私がおばさんよ」とだいたい誰かのひざの上にいますよね。静かだなと思うと、ごろっと寝ています。

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蟹瀬令子さん 上智大学卒業後、株式会社博報堂に入社。コピーライターとなる。1986年家族で米国留学。ミシガン大学ビジネス学科にてマーケティングや企業戦略などを学ぶ。帰国後、博報堂生活総合研究所主任研究員、コピーディレクターなどを経て、1993年にクリエイティブ・マーケティング会社 ㈱ケイ・アソシエイツを設立。1999~2005年ザ・ボディショップ・ジャパン代表取締役社長、2006年特別顧問を務める。2007年スキンケア会社、レナ・ジャポン・インスティチュート㈱を設立。同年「さくら芸術文化応援団」を設立。1男1女の母。

渡辺:特定の誰かだけでなく、いろいろな方がみているのですか?

蟹瀬:そうです。7名スタッフがいますが、独身の子も含めて全員でみています。

鳥羽:赤ちゃんが身近でない人は、はじめは「抱っこできないよ」といっていましたが、今は普通に抱っこしてくれています。私1人だけでなく、ほかの人も同じくらい話しかけたり、あやしたりしてくれているので、この子も満足してくれているんじゃないかと思います。<

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取材時は、鳥羽さんの隣の席の方がミルクをあげていました

渡辺:先ほども隣の席の社員さんがミルクをあげていましたね。思っていた以上にお母さんから離れてすごしている様子に驚きました。

子連れ訪問では赤ちゃんが接着剤になることも

渡辺:鳥羽さんは、月に何時間お仕事をしているのですか?

鳥羽:私は、月に20時間を目安に働いています。基本は水曜日に仕事をしますが、他の日に打ち合わせが入るときは移動します。

蟹瀬:短い時間でちょこっときてくれています。

渡辺:お子さんの生活リズムに変化はありますか?

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鳥羽:あまり生活は変わっていないです。夜も寝てくれますし、今もわりと一人で寝てくれるタイプなんです。オフィスについたら寝ています。

蟹瀬:このくらいの赤ちゃんは、寝ている時間が長いから状況が許せば会社に連れてきたほうがいいわよね。彼女には、「雨の日はこなくていいわ」といっています。家でやれることもいろいろありますし。どこでも仕事ができる時代よね。

渡辺:以前、お子様連れで弊社にもいらしていただきましたが、訪問もなさっているのですね。

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2016年3月、サイボウズの導入相談cafeを訪問した際の写真。まほちゃんは当時3カ月。眠ったりミルクを飲んだりと静かにしていました

蟹瀬:鳥羽さんがすごいんですよ。普通のお母さんは、赤ちゃんを連れていくのは面倒くさいですし、「ちょっとどうかな?」といろいろと考えてしまいますが、子連れでの訪問も躊躇なくやってしまいます。仕事でぎくしゃくしていても、意外に赤ちゃんが接着材になることもあるんです。

渡辺:お客様の反応はいかがですか?

鳥羽:先日、お客様の電話をとっているときに、娘の声が聞こえたみたいで、「ああ、赤ちゃんがそこにいるの?」と聞かれたことがありました。

ドキドキしながら、「育休で復帰した社員が子連れできているのです。実は、私なんです」と白状しました(笑) 「そういうオフィスなの。いい会社ね」とそのお客様に言っていただけて。そのときはうれしかったです。

蟹瀬:サロンにくるお客様も、まほちゃんと記念写真を撮っていくのよね。アイドルちゃんなのよ。

同じ職場にいるというのは、一つの運命

鳥羽:会社には、「今日もたくさん抱っこしてもらえるといいな」と思って来るんです。

私は、赤ちゃんのときに人見知りだったらしく家族以外の人に抱っこされている写真はぐずっとしているものが多かったんです。反面、兄は、全然人見知りをしない子だったそうで、いろんな人に抱っこされて笑顔の写真が多かったんですね。

この子には、小さいころからいろんな人に愛される子になってほしいという願いもあったので、積極的に抱っこしてもらっています。人は1人では生きていけないので。周りの人に少しずつ愛情を注いでもらえるのならば、こんなに嬉しいことはないです。

渡辺:周りの方にも愛情を注ぐ対象があるのはいいですね。

蟹瀬:嬉しいことに、スタッフも帰る前には、「またねー」と抱っこしてくれるのよ。

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渡辺:いい雰囲気ですね。いろいろと共有できる職場っていいですね。

蟹瀬:やっぱりね。同じ職場にいるというのは、一つの運命というか。一緒に時間をシェアしているわけですよね。できるだけ快適な環境をお互いにつくるのがよいですよね。赤ちゃんを連れてきたのにギスギスしていたら、お母さんは申し訳ないなという気持ちが先にたって表情も暗くなるでしょ。

「大丈夫よ」といって安心すればガンガン仕事をしてくれるから、こっちとしてもいいのよ。 どうせシェアしているんだから、プラスの雰囲気の中いろんなこと学んでくださいと。

ランチも普通は皆さんが買ってきたりしますが、私が作ってきたものがあるときは全員でシェアするんですよ。

鳥羽:すごい豪華なんですよ。

蟹瀬:こないだは、いわしの梅しょうが煮と、ひじきと、スイートポテト、味噌汁をつくってきて7人ぐらいでワイワイいいながら食べました。

渡辺:本当に温かいですね。

鳥羽:一人暮らしのスタッフも多いので、手作りの家庭料理は貴重なんです。

蟹瀬:私は、料理がレクリエーションなので土日にがんがん作ってしまうんです。

職場と家庭はオールオアナッシングではなく49%と51%

渡辺:パートナーでジャーナリストの蟹瀬誠一さんもお料理をなさるのですか? 以前、蟹瀬誠一さんには、サイボウズ未来想研で「共働き・共育て」について語っていただいたことがあります。ご夫婦で協力してこられたそうですね。

蟹瀬:料理は、私のほうが早いので彼はあまりしませんが、料理以外のことはやっていましたね。洗濯や、買い物、洗い物、ごみ捨てもしてくれますね。子どもが大きくなってくると、積極的に早く帰って勉強を教えたりもしてくれていました。

渡辺:蟹瀬さんはこれまでもザ・ボディショップの社長を務めるなどキャリアウーマンとしてご活躍されていらっしゃいますよね。

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蟹瀬:皆さん活躍といいますが、ただこつこつとやっているだけですね。

私が、働く女性にいっているのは、オールオアナッシングではなくて49%と51%ということ。私の働き方はそうだったんです。2%を職場においたり家庭においたり動かしていく。子育てをしているのだからフレキシビリティが必要なのよね。

小さい子どもがいるときは家庭が51%で、会社は49%の配分です。だけど小学生にあがるとお母さんがいなくてもいい状況も増え、子どもも落ち着いてくるので家庭が49%になります。会社が2%だけ比率があがり、仕事も充実してくるんです。

気持ちを切り替えながらコツコツやっていく。くもの糸のように細いときもあれば、 束ねて太くなるときもある。切らないのが大事なの。切ってしまうと戻るのが大変なのよ。

一番いいのは、みんなで子育てできること

蟹瀬:復帰した女性は、戻ってニコニコしたいのだけれど、皆さんに迷惑かけているんじゃないかなと不安の顔になる。自信のなさが表情を曇らせてしまいます。すると周りが心配して仕事を出さなくなってしまう。そういうふうにならないようにすることが大事です。

「今はこういうことなのよ」と周囲も自分もわかっていればいいんです。みんなが元気に明るくなるためにも、子どもをみんなで育てていく、そういうふうな社会になるといいなと。

渡辺:蟹瀬さんのご経験とご理解があるからこそ、子連れ出勤が受け入れられたわけですね。

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蟹瀬:来られるような環境ならば、一番いいのはオフィスに赤ちゃんがきて、いっしょにみんなで子育てできることね。

これからハイハイをしたりと行動範囲が広くなりますが、それでも保育園に入れなかったら「保育ママさんを雇おう」という話もしています。1、2、3歳と年齢があがれば保育園にいれて、社会性をみにつけたほうがいいとは思うんです。

会社のなかに保育園があるという形もありますが、預けていると、受け取りにいくまでは、こうやって抱っこをできるわけでないですよね。ここの状況だといろんな人が抱っこできます。

渡辺:すごく柔軟な対応ができますよね。

夏休みは職場に小学生もやってくる

蟹瀬:そういう育て方があるのだなと発見しましたね。自分のときには不可能だと思っていましたが、いま思えば、アグネス・チャンさんみたいに仕事場に連れてくることもできたのよね。

渡辺:アグネス論争がありましたよね。

蟹瀬:アグネスさんとは、おむつの「ムーニーちゃん」のCMを一緒にやったんです。彼女とは同じくらいに、子どもが生まれました。彼女は職場に赤ちゃん連れできて、私は保育ママさんに預けていたのですけどね。

よくよく考えると田植えをしているお母さんの横や、八百屋さんの店先に赤ちゃんが寝ている光景は昔からありましたよね。働く女性にとって、赤ちゃんがそばにいるのは不自然ではないですよね。

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渡辺:サイボウズでも子連れ出勤の制度があります。夏休みに学童保育にいきたがらない小学生のお子さんを連れて出社する人がます。

蟹瀬:うちも週2回きている人が、小学生のお子さんを夏休みになると連れてきています。宿題をやっていたりしています。

子どもにとっては社会見学になりますよね。お母さんたちが働いているのをみるのはすごく大事ですし、いいんじゃない。小学生が来ようが、なんの迷惑にならないものね。

小学生たちは「こんにちは」とご挨拶して「ここでなにするの?」というと「勉強します」といってくれます。

家に帰ってからは、ちゃんと大人が対応してくれたと感激するらしいです。そういう経験って、こどもにとっても大事だなと思います。

こどもは社会の子、みんなで育てればいい

蟹瀬:私が勤めていた博報堂は当時から柔軟だったから、土日出勤のときは連れてきていました。娘が2歳のときに、アメリカに出張に連れていったこともあります。

室長が「君が責任をとるのならいいよ」といってくれて、ホテルにベビーシッターさんにきてもらって撮影現場に出かけました。撮影が終わったらスタッフとの食事に子連れでいきました。そういうふうにして育てていたので、私にとっては、子連れでの仕事も普通なんですね。

長男は、博報堂にしょっちゅう出入りして、博報堂の仲間に育ててもらったので社会性が早くから身についた気がします。

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蟹瀬:こどもは社会の子なので、みんなで育てればいいよねという感覚を自分の子育てをとおして醸成されているのです。だから、鳥羽さんが困っているときも「いいんじゃないの」と。

一番大事なのは、鳥羽さんが皆さんに感謝していることですよ。いかに嬉しい、ありがたいポジションにあるかということに気づいて感謝しています。

これが「当たり前です」という態度になったら、みんなが変わってくるかもしれませんね。「なにいっているんだ」というのが、まだまだ世の中ではあるでしょ。

渡辺:蟹瀬さんと鳥羽さんといい組み合わせで時代を切り開いていらっしゃるのですね。

蟹瀬:切り開いていきたいですね。これからも協力して頑張っていくわよね。

文・編集:渡辺清美/撮影:谷川真紀子(導入相談cafeの写真を除く)

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本記事は、2016年8月4日のサイボウズ式掲載記事育休中でも働ける!?──保育園に落ちた母と子連れ出勤OKな経営者に実際のところをきいてみたより転載しました。