「事実」と「正論」を揃えよ―美味しんぼと"三国鼎立"(2)

政治の実現のために重要なことは、「事実」と「正論」を揃えることです。事実と正論は車の両輪です。この二つが揃って初めて、多くの人々に対して求心力を得ることができます。
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「美味しんぼと"三国鼎立"」第2回です。

できましたら、私の立場・背景・考え方に目を通していただけるとありがたいです。

政治の実現のために重要なことは、「事実」と「正論」を揃えることです。

事実と正論は車の両輪です。この二つが揃って初めて、多くの人々に対して求心力を得ることができます。

美味しんぼはこの両輪のうちの片方「事実」が怪しいため、求心力ではなく遠心力が働いてしまっているわけです。

「美味しんぼ 福島の真実編」が純粋な芸術作品・エンタテインメント作品ではなく、政治的意図を持って描かれた作品であることは明らかです。

であれば、それは自らの政治目的達成の方向に近づかなければならず、遠ざかってはならないはずです。

なぜ「美味しんぼ 福島の真実編」が害かと言えば、「事実性・妥当性の怪しさ」故に、自らの政治目的達成から遠ざかっているからだということです。

基本的な事実から確認していきます。

■福島は、でかいんです。

昨年のタウンカンファレンスで説明したことの繰り返しになりますが、今一度説明します。

福島は、でかいんです。

福島県は、北海道・岩手県に次いで、日本で3番目に大きな県です。 その面積は、東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県の4県を合わせたよりも広いのです。

その大きさがひと目でわかる地図を作ってみました。

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関東地方の上に福島県を乗っけると、こうなります。

北はつくば・土浦・川越・飯能。

南は勝浦・富津・君津・木更津・藤沢・平塚。

東はほぼ銚子。

西は大月・小田原・熱海。

これらの街が、すっぽりと福島県の中に入ってしまいます。

福島第一原発が銚子よりも少し南の洋上にあるとすれば、喜多方市は所沢あたりとなるでしょうか?

もう広さの次元が違うわけです。

この広大な福島県の土地感覚を理解することは、福島を語る上での最初の大前提です。

ところが、美味しんぼの登場人物たちは、一様に「福島」「福島」「福島」と連呼します。

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実在の人物である、井戸川克隆・前双葉町長。

「福島では同じ症状(鼻血)の人が大勢いますよ。言わないだけです」

...その「福島」ってどこなんですか?

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...福島の「どこに」住んではいけないんですか? 全部ですか?

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福島大学・行政政策学類の荒木田岳・準教授。

「福島がもう取り返しのつかないまでに汚染された、と私は判断しています」

...福島県全部ですか?

■福島県の空間線量は、Webで誰でもチェックできる

現在では、福島県全土にモニタリングポストや計測器が置かれていて、常時空間線量を自動計測しています。

その結果は毎日集約され、Web上で誰でもチェックできるようになっています。

2014/5/20 0:00計測時のマップのスクリーンショットを取りました。

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これをひと目見るだけで、荒木田氏の言っていることがおかしいことがわかるでしょう。

高線量の場所があるのは確かです。

私も実際に測りに行って、例えば南相馬市小高区の除染されてない山中で地面すれすれを測ると、持っていったガイガーカウンターの計測限界値9.99μSv/hを振り切ってしまったこともありました。

また、中通りについては0.23μSv/hを超えるところも少なくなく、楽観すべきでないことがわかります。

特に郡山市や福島市のような大都市では、引き続き十分な対策と情報公開が必要だと思われます。

しかし猪苗代湖以西の会津地方、会津若松市や喜多方市などでは、もうほとんど東京と線量が同じです。

この線量を「危険だ」というなら、東京からだって逃げなくてはいけません。

こういうことを考えて、井戸川氏や荒木田氏は発言しているのでしょうか。

ご自分の発言に責任が持てるのでしょうか?

■「数回しか福島に行っていない架空の人物」が「鼻血を出す」というデマゴーグっぽさ

事実検証はあとひとつだけにしておきましょう。

騒動の発端となった「鼻血表現」についてです。

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問題のコマです。

主人公・山岡士郎が突然鼻血を出します。

このコマの後、新銀座中央病院での診察では「福島の放射線とこの鼻血とは、関連付ける医学的知見がありません」と医者に言われますが、その後に登場する岐阜環境医学研究所の松井英介所長によって、放射線との関連性が暗喩されます。

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「やはり」だそうです。

次の第23回では鼻血の原因について、松井所長による論説が行われています。ここで福島の瓦礫を処理したわけではない大阪の健康被害疑惑を持ち出したりとひどいものなのですが、本記事はそこは割愛して先に進みます。

で、上述のとおり、山岡士郎は「何度か」しか福島に行っていません。

作品中ではありませんが、第22回の欄外を見ると「2011年11月から、6度にわたる取材で「福島の真実」を追い続けた山岡たち」と書いてありますので、6回と考えてよさそうです。

ずっと福島に滞在し続けたわけでも、原発付近ばかりを取材し続けたわけでもなく、6回福島県を訪れただけで、放射線被ばくで鼻血を出すようなことがあるのでしょうか?

参考になるWebがありました。

英会話教室に通っていたとき、福島や「美味しんぼ問題」について議論したことがあったのですが、そのときネイティブ講師が教えてくれたのがこのサイトです。

海外でも福島や放射線について、正確な状況把握のための努力がされていることが伺われます。

これは「商業航空フライト中の放射線被ばく」についての説明です。

  • Average annual cosmic ray dose for cabin crews was 2.27 mSv.
  • Average annual cosmic ray dose for long-distance flight captains was 2.19 mSv.

飛行機での仕事に従事する方々は、宇宙からの放射線によって陸上にいる人よりも多く被ばくします。

客室乗務員は年間平均2.27mSv、長距離パイロットは年間平均2.19mSv被ばくするとのことです。

で、そういう仕事に携わる方々の中で鼻血を出す人が続出しているなんて話、聞いたことあるでしょうか。

私はありません。

そもそも、なんで「鼻血」を描いたのでしょうか?

放射線被ばくによる健康被害といえば、最も注意すべきは甲状腺がんのはずです。

5/18の福島民報によると、甲状腺がん調査対象37万人のうち、調査結果が判明した29万人中、甲状腺がんであることが確定した方が50名、疑いがある方が39名いたとのことです。

それが放射線の影響かどうかについては意見が割れているようですが、大事なことは「甲状腺がんは生じうる」という考えのもと、油断なく継続的に検査と経過観察を行なっていくことです。

甲状腺がんは早期に発見すれば、高い生存率が期待できます。

因果論争に巻き込まれることなく、とにかく早期発見・早期治療を徹底する。これが大事なことです。

しかし、美味しんぼはなぜか甲状腺がんではなく、それよりもずっと可能性が低いであろう「鼻血」を論じています。

なぜ「鼻血」なのでしょうか?

まさかとは思いますが、「鼻血は甲状腺がんより絵になるから」ではないでしょうね?

「6回しか福島に行っていない」「架空の人物に」「鼻血を出させる」

いかにも「デマゴーグっぽい」のです。

その他の事実性・妥当性の怪しい描写と合わせて、いかにも、事実と正論によって健康被害・健康不安を現実的に取り除こうとするというよりは「煽情的な描写で訴える」ことに主眼を置いていると見えてしまうのですよ。

それが見透かされたとき、それは「利敵行為」となってしまうのです。

オウンゴールなんです。「向こうの得点」になってしまうのですよ。

次回に続きます。

(2014年5月21日「中妻じょうたブログ」より転載)