産油国の危機意識―脱炭素社会に向けた「未来図」

日本の原油輸入量の7割以上は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートなどの中東地域に依存している。
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日本の原油輸入量の7割以上は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートなどの中東地域に依存している。多くの原油を積んだ超大型タンカーが、毎日のようにアラビア湾を航行し、ホルムズ海峡の安全確保は日本にとっても生命線だ。その中で、ホルムズ海峡が封鎖されてもオマーン湾から輸出できるUAEは、日本の原油の安定確保に極めて重要な存在になっている。

日本とUAEは石油を通じて深い関係にあるが、最近では、観光でUAEを訪れる日本人も多い。UAEのひとつの首長国であるドバイは、何かにつけ「世界一」が好きで、世界一高い超高層ビルのブルジュ・ハリファ、世界一大きい人工島のパーム・ジュメイラ、世界一大規模なショッピングセンターのドバイモール、世界一豪華な7つ星ホテルのブルジュ・アル・アラブなどを誇る。

最近、そこに国際線旅客数世界一の空港としてドバイ国際空港が加わった。これまで、イギリス・ロンドンのヒースロー空港が首位だったが、2014年にドバイ空港が上回った。

ドバイ空港を拠点にする国営のエミレーツ航空が急速に路線を拡大し、140を超える航空会社がドバイに乗り入れている。中東の各空港はヨーロッパ、アジア、アフリカの主要都市へのアクセスの優位性により、ハブ空港としての地位を高めており、空の勢力図が中東を中心に大きく変化しているのだ。

それにしてもドバイの「世界一」志向はすさまじい。そこには産油国ドバイの将来戦略が見て取れる。

実はドバイの原油埋蔵量はあまり多くないのだ。2012年のUAEにおける原油埋蔵量はアブダビが94.27%を占め、ドバイはわずか4.09%に過ぎない。ドバイは産油国からの脱却が喫緊の課題であり、中東の金融センターおよび観光立国に変貌する「未来図」を描いているのである。

最近、アメリカを中心にしたシェールオイル開発が、原油の需給関係にも大きな変化をもたらし、従来の産油国は原油価格の急落に直面するという深刻な問題を抱えている。ドバイの「世界一」志向は、原油の枯渇に対する強い危機感の表れだが、同時に代替エネルギーによる原油市場縮小に対する懸念かもしれない。

ドバイは原油枯渇とエネルギーの構造転換の中で危機感を強め、脱産油国に向けた「未来図」を構想している。それは日本をはじめとする石油消費国にとっても、決して対岸の火事ではない。

何故なら、世界は地球温暖化防止に向けて、水素自動車の開発にしのぎを削るなど「水素社会」の実現を目指しており、すべての国に対して「脱炭素社会」に向けた「未来図」を強く求めているからである。

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(2015年3月17日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員