2016年以降、地方主要都市のオフィス賃貸市場の回復が顕著になってきている。
特に大阪、札幌、福岡、仙台ではオフィス床が不足している状況で、駅前で大型ビルの供給が相次いだ名古屋は、そこまでではないようだが、最近の地方主要都市のオフィス市場は時期を同じくして好調となっている。
そして、その主要因は共通して新規供給が少ないことである。東京で18年以降のAクラス(*1)オフィス大量供給が取り沙汰されることの多いのとは対称的だ。
東京でもオフィスの賃貸主アンケートなどでは賃料増額改定が増えており、都心5区の募集賃料もじわじわと上がってきてはいるが、その水準は前回のピークには及ばず、今後も続くAクラスオフィスの大量供給が賃料上昇を妨げていることが話題になりやすい。
地方主要都市では、オフィス床需給の逼迫を受けて様子見だったオフィス開発計画が動きだしたりもしているが、それでも従来オフィス立地といわれた敷地での分譲マンションやホテルへの開発が目立つ。
建築費の高騰と投資資金流入による用地価格の上昇で開発コストが嵩み、賃料が上昇に転じても、コストをカバーしきれない実情がある。東京でも同様の事情で築古ビルがマンションやホテルになるケースは多い。
しかしその一方で、新築Aクラスビルは、特定街区や特例容積適用地区制度などによる容積緩和もあって高層化することで床面積を増やしての竣工が続いている。
オフィス仲介会社の三鬼商事が調査対象としている東京都心5区のオフィス貸室面積は、2011年12月には約69万坪だったが、2016年12月には約73万坪で5.8%増加した。一方で棟数は2.6%減少している。
同じ期間で貸室面積が増加した地方主要都市は、名古屋(貸室面積+4.3%/棟数0.0%)、大阪(+2.9%/-1.1%)、札幌(+2.1%/-2.7%)、福岡(+1.3%/+0.2%)で、仙台(-0.2%/-3.3%)、広島(-1.5%/-2.7%)が床を減らした。
オフィスが棟数を減らしそれ以外の用途に変わっていることが分かる。
新たなオフィス開発で面積を増やす都市もあるものの、オフィス市場がコンパクト化している都市も見られる。
そして東京のオフィス面積増加率は他の都市より高く、今後も大規模開発による新規供給が続くことから、オフィス市場はさらに拡大していく。
果たしてこの大量供給は良くないことなのだろうか。投資収益性の観点からは、供給がもたらす賃料低下圧力が大きな懸念となっている(当社でも2017年から2019年末まで東京のAクラスオフィス賃料は下がるという予測を公表している(*2))。
しかし、より長期的な都市づくりの視点に立てば、東京に対しては、他の地方主要都市とは異なる変化と成長への期待もあるのではないだろうか。
また、築古ビルから新築Aクラスになることで、全体でみれば収益は増している。
Aクラスオフィス開発プロジェクトの多くは、高度経済成長期の就労を支えた建物の建替えであり、建替え後は、建物単体の耐震性に限らず、災害対応機能、環境性能などが改善している。
そうした都市の持続性を高める計画により容積緩和が可能となり高層化している面もある。
大規模プロジェクトでも開発コストの上昇をカバーするためには、容積をより多く確保することが採算面でも求められる。投資収益性と持続可能な都市づくりが相互に関連して、東京オフィス市場は拡大を続けていると思われる。
東京はまた、世界で競合する都市と肩をならべ続けることも期待されており、経済活動をはじめとした様々な活動の担い手が多く集まることがその基盤となる。
外国企業の誘致や国内企業も含めた新たな拠点づくりなど、行政と民間会社による様々な取り組みも始まっている。
東京のオフィス需給を少し長めの多角的な視点で捉えると、そうした取り組みが実効力を持ち東京が変貌していくことへの期待も見えてくる(*3)。
関連レポート
(*1) Aクラスオフィスビルは、大型でグレードの高い好立地の築浅オフィスビルをいうが、各仲介会社等により定義が異なる。三幸エステートの定義では、東京の場合、都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域に所在し、延床面積1万坪以上、基準階床面積300坪以上、築年数15年以内で、設備などのガイドラインを満たすビルから選定したもの。
(*3) 本稿は、不動産経済研究所『不動産経済ファンドレビュー』2017年5月15日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。
(2017年3月6日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 不動産運用調査室長