愛は法律を超えるか?映画『Of Love & Law』で考える

そう、この映画の大きなテーマは「マイノリティ」だ。
|

先日開催された第30回東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ部門作品賞に選ばれたのがドキュメンタリー映画『Of Love & Law』。

Open Image Modal
(c) Nanmori Films

以前ホウドウキョクにもご出演いただいた弁護士の南和行さんとパートナーで、やはり弁護士の吉田昌史さんの愛に溢れた暮らしと、2人が取り組む様々な裁判や法律相談が描かれる。

それは、国歌斉唱不起立で減給となった元教諭の裁判であり、その作品が「わいせつ」とされたアーティストの表現の自由を求める裁判であり、無戸籍の人々が戸籍を得られるよう申し立てを行うことであり。いずれも、大きな体制や組織、古い「常識」から外れている人々に寄り添う案件だ。

Open Image Modal
(c) Nanmori Films

この映画が制作されたことについて南さんは、「僕たちにとっては何気ない毎日ですが、誰かの目に留まって、楽しそうな人たちだと思ってもらえて、ちょっと幸せになってもらえたら」。

吉田さんは「僕は子供の頃、ゲイであることから自分の将来は悲観的だと思い込んでいました。セクシュアルマイノリティであるだけで不幸せなわけじゃないと、いろんな人、特に若い人たちに伝えることができたら」と語る。

そう、この映画の大きなテーマは「マイノリティ」だ。

監督の戸田ひかるさんは、自身も「10歳から、この映画を作るため日本に引っ越した数年前までは、オランダとイギリスで暮らす『外国人』だった」と語っている。

Open Image Modal
(c) Nanmori Films

「日本に引っ越して一番奇妙だと思うのが、みんな同じで当たり前という不自然な価値観。マイノリティに対する視線はもちろん厳しい。でもマジョリティと言われている人たちも、どこかで息苦しさ感じながら生きているはずで、みんなが自分の中のマイノリティな部分を認められたら、お互いの違いを受け入れることにつながると思います。

議論をすることになじみのない日本には、違う意見を出し合える環境や教育がない。そういう環境を作るためにも映画は役に立つと思うし、普段は関わりのない人々の間で会話が生まれるきっかけになれば嬉しいです」(戸田監督)

「日本では、<個人>と<社会>が対照的で、当たり前から外れた途端、生きにくくなってしまう。本当はみんな違って当たり前なのに。法律が社会の保守的な部分を象徴していて、個人の生き方をつらぬく事が法律問題になりかねない。

そういうリスクを抱えながらも<個人>の自由と権利を守ろうとしている2人と依頼者の思いを、ラブストーリーという軸を使って描いたら、いろんな人に響く作品にできるのでは、と思いました」(戸田監督)

この映画のもう1つのテーマは「家族」だ。 南さんと吉田さんは法律上は他人だし、無戸籍の人たちは親ともつながっていない。そんな中で2人は家族からも施設からも切り離された少年を預る。それを見つめる南さんの母親。ろくでなし子さんと父親の関係。法律を超えた愛のある結びつき=家族が描かれる。

Open Image Modal
(c) Nanmori Films

「日本では個人ではなく家族が社会の最小単位で、それは法律にも反映されています。民法にも古い家制度の名残が強くある。家族の絆とか本来は美しいはずものが、国民を管理する制度として一人一人の権利を奪っている現状は、君が代不起立問題、無戸籍問題だけでなく、夫婦別姓の選択肢がないことや同性婚もないことにつながっています。

女性や子供の権利など、家父長的な社会が生き苦しいと感じながらも、主張できない人たちによって維持されている負のサイクルがあります。そういった矛盾を暴こうとしているのが、重いテーマをユーモアを通して主張している、ろくでなし子さんと弁護団の活動なのです」(戸田監督)

Open Image Modal
(c) Nanmori Films

「私はずっとヨーロッパで生きてきて、それがオランダとイギリスのロンドンという多文化な環境だったため、いろんな価値観や文化、生い立ちを持った人たちと普通にやりとりし、外国人だから困ったという認識はありませんでした。しかしアジア人女性として白人社会で暮らす中では差別ももちろん体験しました。私と同じ外国人なのに、持っているパスポートによって待遇が全く違ったり、私以上に苦労するたくさんの友だちもいました。

だからマイノリティ問題は他人事ではないです。マイノリティは政治的にもスケイプゴートにされやすく、環境が変われば誰でもマイノリティになりかねない。<マイノリティ問題>とは、マイノリティだけの問題にとどまらず人権問題そのものであり、個人が尊重されるかされないかは、マジョリティかマイノリティかとは関係ないと思います」(戸田監督)

居場所が変われば、見方を変えれば、みんな何かしらのマイノリティに属している。「それが当たり前」と決めつける前にちょっと考えてみるだけで世界は違う顔を見せる。

法律で救えないものも、愛によって救えるかもしれない。でも法律を信じて戦い続ける人たちもいる。

観終わって心の底からあたたかくなる映画『Of Love & Law』は来年の劇場公開を予定している。

★『Of Love &Law』FBページ https://www.facebook.com/ofloveandlaw/

★南さんご出演のホウドウキョクはこちら

「『会社にゲイだとばらす』脅されたらどうする?」

(2017年11月16日「ホウドウキョク」より転載)

............

家族のかたち」という言葉を聞いて、あなたの頭にを浮かぶのはどんな景色ですか?

お父さんとお母さん? きょうだい? シングルぺアレント? 同性のパートナー? それとも、ペット?

人生の数だけ家族のかたちがあります。ハフポスト日本版ライフスタイルの「家族のかたち」は、そんな現代のさまざまな家族について語る場所です。

あなたの「家族のかたち」を、ストーリーや写真で伝えてください。 #家族のかたち #家族のこと教えて も用意しました。family@huffingtonpost.jp もお待ちしています。こちらから投稿を募集しています。

Open Image Modal