何故今「政府開発援助」の戦略的運用が必要なのか?

日本が「政府開発援助」をカードとして駆使し、海外諸国の支持を取り付け、ドイツと共に安全保障常任理事国入りを果たすべきと考える所以である。
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一昨日(7月28日)、予定通り自民党鈴木けいすけ衆議院議員を講師に迎え月例勉強会を開催した。鈴木議員には「TPP」に焦点を当てお話を戴いたが、流石に国際関係では世界最高峰と称されるジョージタウン大学外交大学院に留学されただけあり、世界を俯瞰した上でTPPを掘り下げて説明戴いた。

興味深かったのは日本に取ってのTPP加入は内と外それぞれに狙いがあるという点であった。今尚、農業や医療団体は自民党に取って強力な圧力団体である。従って、あるべき構造改革のためにはTPP加入によって必然的に発生する外圧を利用せねばならない。TPPに起因する対立とは与野党間といったものではなく、既得権を擁護する政治家と明日の日本のために改革を目指す政治家間のものという事になる。

一方、外にあってはベトナムに「通商」、「投資」、「知的財産管理」他に関し西側の標準を一旦飲まし、引き続き中国を引きこもうという壮大な試みである。確かに中国に対しては自衛隊の増強により防衛力を強化するといったワンパターンではなく、こういった経済面でのアプローチも含め硬軟取り混ぜて対応する必要があるだろう。

当日の参加者は、ベンチャー企業経営者、大手企業幹部社員、大学教授(東大他国立大学)、公認会計士といったところであったが満足戴けたと思っている。TPPに関してはアメリカ政治の動向が与える影響も大きく、11月の中間選挙終了後別途記事を書く予定にしている。

※(注)上記講演内容解釈は飽く迄筆者個人のものです。

鈴木議員講演に引き続き、当日参加者の中から6名の方に予め割当てたテーマ毎にプレゼンを戴いた。それぞれのテーマはそれなりに盛り上がったが、一番議論が白熱したのはIT企業経営者にお願いした「ODAの戦略的利用について」であった。このテーマで講師をお願いした方は、現在はIT企業経営者だが大学卒業後OECFと世銀に職務履歴があり、その後アメリカに留学し、MIT都市計画学科修士課程を修了されている。従って、鈴木議員同様世界を俯瞰してのプレゼンであり、興味深いものがあった。忘れてしまうには余りに惜しいので、当日の議論を下敷きに「何故今「政府開発援助」の戦略的運用が必要なのか?」をテーマに論考を進める事にした次第である。

政権交代により蘇った日本外交

民主党政権下の3年半は日本人に取っては余り思い出したくない事が連続した期間であった。取分け日本外交に取っては暗黒の3年半であった。野田政権で多少は改善したものの、鳩山・菅政権は酷過ぎた。民主党は、恐らく外交の何たるか?を全く理解せぬまま政権の座についてしまったのであろう。

一年半前に安倍政権に代わり、幸いにも日本外交は蘇った。3年半の停滞による穴をを埋めようと安倍首相が東奔西走しているのは衆目の一致するところであろう。日本外交に取っての課題は、安倍首相単騎の活動に終わらせる事無く、関係国との関係を強化し、二国間関係を継続的に発展させる事である。そして、良好な関係を足場に二国間の通商や投資を拡大し、経済発展の果実の分け前にありつき、結果として日本の国益拡大を図る事である。

政府開発援助の現状とは?

2013年度のODA事業予算総額には、一般会計5573億円と特別会計293億円が拠出されている。この範囲内から、無償協力1642億円、技術協力3259億円といった無償援助資金が支出される事になる。この一方、政府開発援助の中心となっているのは「円借款」(9236億円)であり、この財源は財政投融資資金などを原資にしている。その結果と、ODAの事業予算の全体額は1兆6902億円にも達する巨額なものであり、日本の国益重視の視点から最大限の有効活用が図られるべきは当然である。従来の「要請主義」を脱し、国益ありきの柔軟な運用に舵を切るという事である。

8、9月に予定される安倍外交

8、9月に予定される安倍外交を予測しながら、今少し具体的な話をしてみたい。ネットに公開されている情報を総合すると下記となる。

7月25日~8月2日:メキシコ合衆国、 トリニダード・トバゴ共和国、コロンビア共和国、チリ共和国、ブラジル連邦共和国を訪問予定。訪問内容詳細については外務省、安倍総理の中南米訪問を参照願いたい。

8月4日:安倍首相が中南米歴訪から帰国

8月15日:終戦記念日 最早季節の風物詩ともいえるが、中国・韓国がこの時期対日批判を強める事は必至である。しかしながら、今年の状況は例年とは異なる。靖国参拝断念を高村正彦副総裁経由中国に伝えた安倍首相の深慮遠謀、で紹介した通り、安倍首相は早々と靖国参拝断念を中国側に表明し、それに併せ日中首脳会談実現を呼び掛けているからである。これでも尚中国が対日批判を繰り返せば、言い掛かり、難癖と世界に受け止められてしまう。

8月31日:インド、モディ首相が来日(~9月3日まで滞在)。国際社会におけるインドの存在感の高まりは著しい。日本は膨張する中国の軍事力に対抗するため、或いは、中東、日本を往復するタンカーのシーレーンを確保するため、オーストラリアとの間の日豪準軍事同盟と同様の関係をインドとも構築すべきではないだろうか?一方、発展を目指すインド経済に取って都市間高速鉄道を筆頭に、立ち遅れたインフラ近代化の達成が愁眉となっている。この分野は、勿論日本が最も得意とするところである。

8月28日前後:歳川隆雄氏指摘では、安倍首相が電撃訪朝の予定と。この件に関しては今後国内報道を注視する必要があるだろう。

9月6日:安倍首相がスリランカ、バングラデシュを訪問。スリランカへの有償、無償共にコンスタントに政府開発援助を実施している。一方、バングラデシュは人口が1.5億人を超す大国であり、中国の人件費の高騰により縫製業の様な労働集約産業が活況を呈している。インド同様インフラの近代化が急務であり、日本は有償、無償共にコンスタントに政府開発援助を実施している

華やかな首脳外交が包装紙とすれば、箱の中身は「政府開発援助」という事になる。そうであれば、相手国と日本の国益に叶う中身にすべきは当然であろう。必要機材の調達先は「タイド」が基本的には望ましいが、機材によっては「二国間タイド」、日本からしか調達出来ない機材や日本の技術や実績が圧倒的な競争力を持つ機材についてのみ「一般アンタイド」にするなど工夫が必要だ。

こういう指摘をすると、直ぐに「相手国利益のためには100%「一般アンタイド」にすべき」などと後先を考えずに批判する人が出現する。しかしながら、良く考えて欲しい。「政府開発援助」の財源は飽く迄も「税」である。従って、企業(法人)であれ、個人(社員)であれ、「政府開発援助」によって潤わねばやがて財源が枯渇し事業の継続が不可能になってしまう。そうなれば、インフラの近代化が目下の急務である新興産業国に取っては大きな打撃となる。

拡大する貿易赤字をどうやって減らすか?

財務省が公表する6月貿易統計を参照する。眼に飛び込んでくる数字は例によって冴えない輸出額と、コンスタントに膨らみ続ける輸入額である。6月の輸出は前年比2.0%減の5兆9,396億円で、2カ月連続で減少。気になるのは半導体等電子部品が8.7%も減少している事である。従来、スマホやPCといった完成品は輸入してもその中核部品は日本から供給していたはずだが、多分韓国や中国に取って替られているのであろう。

輸入は8.4%増の6兆7,619億円で、2カ月ぶりに増加している。原粗油(8.3%増)、石油製品(35.9%増)、液化天然ガス(7.6%増)などが増加している。今後も原油価格は右肩上がりで上昇し、一方、安倍政権が円安施策を継続すれば化石燃料輸入代金の膨張は不可避となる。

日本の産業競争力が衰え、交易条件が劣化した現在となっては、政府が指を咥え傍観していては貿易赤字は拡大する一方で、やがては経常収支の赤字に至ってしまう。日本企業が海外展開で成功し日本への配当金を増額したり、国内観光業にアクセルを踏み観光収入を増やす事は重要だが成果が出るまでに一定のタイムラグがある事は覚悟せねばならない。

かかる観点より、「政府開発援助」の戦略的運用により拠点国との外交関係の強化を図ると共に、日本が未だ競争力を保持するインフラ関連の輸出を支援すべきと考える。国家産業政策による輸出振興の是非については当然議論があるところであろう。しかしながら、これは飽く迄上述した海外展開を加速する企業の配当金の増額や、国内観光産業拡大までの「時間稼ぎ」と理解戴きたい。発生するであろう諸般のリスクを考慮すれば「経常収支段階での赤字」は避けるべきとというのが、私の基本的な考えである。

国連正常化のためには日本、ドイツの常任理事国入りが必要

上記文脈とは些か異なるが、私は「国連正常化のためには日本、ドイツの常任理事国入りが必要」と考えている。21世紀は間違いなくアジア、太平洋の時代であり日本は地域繁栄の基軸となる。一方、ドイツはEUの政治、経済の要であり、成長を牽引する機関車でもある。

分り易い事例として主要各国の国連分担金を参照する。日本がアメリカに続き第二位、ドイツが第三位である。それにフランス、イギリス、中国が続きロシアは10位以内にすら入ってない。これでは国連は形骸化してしまい機能しない。その結果、大事な事はG'7で議論し決定してしまう。日本が「政府開発援助」をカードとして駆使し、海外諸国の支持を取り付け、ドイツと共に安全保障常任理事国入りを果たすべきと考える所以である。