VR用のHMD製品Oculus Riftを販売するOculus VR社をfacebookが約20億ドル(2000億円)で買収するというニュースがありました(参照記事)。
Oculus VR社がクラウドファンディングのKickstarterによって2012年9月に240万ドルの投資を受け、それからわずか約1年半で巨額の資金を得たことは、まさにアメリカン・ドリームですし、それと共に米国のウェアラブル関連市場の動きの速さに感慨を覚えずにはいれません。
さて、HMD自体は昔からある製品ですし、製品を入手すればリバース・エンジニアリングは比較的容易にできてしまいますので、模倣を防ぐためには特許による保護が重要です。Oculus VR社の特許と意匠登録について調べてみました。
まず、デザイン特許(意匠登録)ですが、つい先日(3月18日)に登録されています(D701206)。なぜかGoogle Patentでは図が読めないので、下図はUSPTOのデータベースから引用しました。
これにより、デザインまで模倣したパチモノは防げます。しかし、今のところ、Oculus VR社を権利者(あるいは権利承継人)とする特許出願は見つかりません(別に知財管理会社があったり、個人名義で出願している可能性もゼロではないですが)。特許は出願から1.5年経たないと公開されないので(出願した事実すらもわかりません)、比較的最近に出願している可能性はあります(とは言え、Kickstarterに出品したのが1.5年前ですからその前に出願しているとするとそろそろ公開されるはずです)。まあ、ノウハウとソフトウェアだけで勝負するつもりなのかもしれませんが。
それとは別に、昨年の12月にAppleがOculus Rift的な製品の特許を取得したというニュースもありました(単なる公開ではなく特許登録です)(参照記事(PatenlyApple))。(ところで、このPatentlyAppleというサイト、USPTOの公報をベースに記事書いてるんですが特許番号や公報へのリンクを一切載せないんですね(まあちょっと調べればわかる話ですが)。しかも、USPTOの公報からコピペした図に自サイトのウォーターマークまで入れて何かやらしいです。)
話を戻しますがこのAppleの特許の番号は8605008です。優先日(実質出願日)は2007年5月4日です。
クレーム1の内容は以下のとおりです。
1. A head-mounted display, comprising:
a spacer operative to receive at least one component of the head-mounted display;
an outer cover coupled to the spacer, the outer cover forming at least a portion of an outer surface of the head-mounted display;
at least one optical module movably coupled to the spacer, substantially enclosed by the outer cover, and operative to be displaced along at least two axes and in rotation around at least one axis with respect to the spacer without moving the outer cover with respect to the spacer.
文章で読むとわかりにくいですが、下の図27を見ると理解しやすいです。spacerが2710、outer coverが2702、optical moduleが2750に相当します。optical moduleが位置を調整可能なようにspacerに接続されている点がポイントです。HMDの一般的内部構造には詳しくないですが、比較的容易に回避可能な気がします。
明細書にはいろいろな実施例が書いてあって興味深いのですが権利範囲としてはさほど広くないと思われます(PatentlyAppleは世紀の大発明みたいな書き方をしていますが)。少なくともOculus Riftの分解記事を見る限り、光学モジュールが位置調整可能な構造にはなってないように見えるのでAppleのこの特許を侵害することはないように思えます。
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(2014年3月26日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)