小保方さんと羽生結弦さんと佐村河内守氏の共通点に気がつかない人がヤバイ件について。

以前執筆した「フィギュアスケートの羽生結弦さんも理系女子の小保方さんも「現代のベートーベン」も、みんな同じだ。」という記事には、多数の賛同意見を頂いた。また「キュレーションの時代」の著者としても有名な佐々木俊尚氏のメールマガジンでも物語消費という観点から取り上げて頂いた。
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金メダリストがカナダに旅立った。先月の末日、羽生結弦さんは練習拠点のカナダに向けて出発した。ソチ五輪から25日に帰国してわずか3日間の日本滞在と慌ただしい移動だ。これは3月26日に埼玉で行われる世界フュギュア選手権に出場するため、仕方のないスケジュールのようだ。

以前執筆した「フィギュアスケートの羽生結弦さんも理系女子の小保方さんも「現代のベートーベン」も、みんな同じだ。」という記事には、多数の賛同意見を頂いた。また「キュレーションの時代」の著者としても有名な佐々木俊尚氏のメールマガジンでも物語消費という観点から取り上げて頂いた。その一方でいくつかの批判もあった。羽生さんに復興の星として過剰な期待をするのはプレッシャーになってしまっていると指摘した事に対し「羽生さんは自主的に震災復興に協力したいと言ってるのだから問題無い」というものだ。

■揺れ動く金メダリストの心。

これはあまりに表面的な見方ではないかと思う。前回の記事では「一人のスケーターでしかない自分に復興の期待がかけられるのは辛い」と心情を吐露しているインタビューを紹介したが、その後報道されたインタビューでも五輪前ならばとても言えなかったであろう話も出ている。

3年前のあの時、ぼくは仙台のリンクで練習中でした。氷が波打ち、立っていられないほどの揺れ。「このまま死んでしまうのか」と恐ろしく、泣きながら逃げ出しました。あの時の光景は今でも頭の中でフラッシュバックします。涙が止まらなくなって、夜もうなされます。

被災地のこと忘れないで...羽生選手、震災を語る 2014年3月10日 読売新聞

羽生さんがインタビューで復興に対して力強い受け答えをしている姿を見ると頼もしいと思う。しかし、それは葛藤を経たものであって当初からそのような状況でなかったことは明らかだ。

葛藤を乗り越えて必死で期待に応えることと、自ら積極的に関わることは全く違う。羽生さんのファンであろう人から寄せられた批判コメントを読みながら、スポーツライターの知人から聞いた「ファンは選手がケガをすると心配はするけど、復帰して活躍する事も必ず期待するんだよね。ファンて案外残酷だよ」という話を思い出した。

■マスコミが生む負のスパイラル。

前回の記事ではマスコミは羽生さんに震災のことをしつこく聞くのは止めてほしいと書いたが、それはマスコミと視聴者の間に生まれる「負のスパイラル」もしくは「相互フィードバック」とも言える関係があるからだ。

羽生さんはメダル獲得後のインタビューで前回の記事で書いた通り、震災体験について「あまり振り返りたくないので、コメントを控えさせていただきます」と答えている。 

これが帰国後のテレビで行われていたらどうだろうか。インタビュアーが震災について話を振ると、陰りのある表情を見せながらも、最後は震災復興について熱い想いを語る......こんな形に編集された映像は視聴者にとっては感動的な内容になるかもしれない(人は物語を求める、と以前の記事で書いた通りだ)。このような映像が高い視聴率を記録すれば、羽生さんがテレビに出演するたびにそんなやりとりが繰り返される事になるだろう。そう、マスコミ報道の一部は視聴者が作り出しているわけだ。

戦時中、マスコミは戦争報道に積極的に加担していたという指摘がある。大勝したと報じれば新聞は沢山売れたからだ。誤解を恐れずに言えば今でもサッカーや野球で日本代表が勝つと、翌日の新聞はたくさん売れる。普段Jリーグに見向きもしない人がサッカーの日本代表戦の時だけ渋谷で暴れる様子を見ると、良くも悪くもナショナリズムに時代は関係無いのだなと思う(戦時中の日本を異常な状態で今と全く違うと考えるのは危険な発想だ)。

■マスコミは究極の人気商売。

マスコミを自分と何も関係のないものとして考える人は「マスゴミ」と平気で口にする。しかしマスコミも所詮は客商売だ。視聴者・読者が求めるモノを提供する。今も昔もマスコミは客をしっかり見ている。ごくフツーのビジネスと同じだ。

疑惑の発見としてすでに話題は全く別の方向に進んでしまったが、小保方さんが話題になった当初に理系女子、割烹着、30代の女性、デート中も研究のことを考えていた、など研究とは全く関係のない要素で紹介されたのも、それが注目をあつめるための強力な手段だからだ。

マスコミが批判を承知であえてこういった表現を使うのも、そのほうが注目を集められるからだ。メディアは客のレベルに合わせているだけだ。

■「釣りタイトル」の集客力について。

例えばウェブのニュースならば以下のようなタイトルでクリックをしたいと思うだろうか。

「理化学研究所が歴史的な偉業、新型万能細胞を発見」

それよりも以下のようなタイトルの方が多数のアクセスを集めるだろう。自分の過去の経験でいえばクリック数は10倍以上違う。

「偉業を達成した理系女子、割烹着で研究」

「デート中にも研究? 美人研究者は割烹着」

「美人過ぎる研究者、歴史的偉業を割烹着で達成」

メディアの硬軟にもよるが、自分が小保方さんに関する記事を書け、と言われていたら下の三つのようなタイトルを使っていただろう。その方が沢山の人に記事を読んでもらえるからだ。「釣りタイトル」といった呼び方もあるが、記事を読んでもらう間口を可能な限り広げるのはメディアとして当然の事だ。その上でキッチリと研究内容を伝える。これはもう記事を書く際のセオリーみたいなものだ。

当初言われた「偉業を成し遂げた研究者を理系女子呼ばわりするなんてバカにしている」という批判は、良いモノを作ればいつかは必ず売れるといった話と同じでビジネス上何の意味もない。良い物を作ったうえでどう売ればいいか?と考えるのがビジネスだ。特に記事のタイトルは商品のネーミングやコピーと同じだ。

理系女子や割烹着の報道を批判していた人も、安藤美姫さんが極秘出産とか、AKBのメンバーが丸刈りで謝罪といった記事があれば無意識にクリックするだろう。多くの人は暇つぶしや娯楽で記事を読んでいる以上、B級ネタや柔らかいタイトルの方がアクセスを集めるのは当たり前の事だ。ヤフーニュースのアクセスランキングを見ても分かるように、ランクインしているのは芸能・スポーツ・ゴシップネタが殆どで、政治経済ネタは数本もあれば多い方だ。

■「かわいすぎる人妻」の記事がヤフーニュースではアクセスランキング1位になる。

つい先日もヤフーニュースのアクセスランキングで1位になっていたのは、広島カープのホームランガール(ホームランを打った選手にマスコットの人形を渡す女性)に子持ちの女性が選ばれた事を伝える「【広島】ホームランガールに27歳かわいすぎる人妻」という記事だ。ただの女性ではなく既婚で子持ちの女性、というのもまた一つの属性、つまりは「物語」だ。マスコミはこういった記事のアクセスが多い事を熟知している。結局、「現代のベートーベン」とか「理系女子」という言葉を引き寄せているのは読者であり、視聴者だ。

自撮りで話題のグラビアアイドル・倉持由香さんから、ウェブマーケティングの神髄を学んでみた。」という記事では、昨年博多で「菅原道真公以来の逸材」と話題になったアイドルや、スカイマークエアラインズのミニスカートの制服がウェブ上で話題になった事について「企業・売り手がどのような意図を持っているかに関係なく、ウェブを見ている多くの人は自分に興味のある形で勝手に情報を切り取って、勝手に消費する」と説明した。これは物語を求める感覚と逆に見えて全く同じ行動だ。

つまり読者・視聴者は「自分が見たい情報を、見たい部分だけ、自分の理解したいように好き勝手に切り取る」という消費行動を行い、マスコミはそれに最適化したビジネスをおこなっている、という事だ。これは先ほど例にあげた戦勝報道で新聞がたくさん売れたという話と同じで、人の行動は数十年やそこらでは変わらない。

小保方さん、羽生さん、佐村河内氏と3つの全く異なる報道で、このように昔から変わらない日本人(人間?)の行動様式が改めて露見したのは明らかだ。これが良いか悪いかは別にして、消費者は物語に反応し、マスコミもそれを前提にコンテンツを提供する。

それでも「理系女子なんて言葉を使うマスコミはおかしい!くだらない報道をするのは許せない!!」と批判をしたい人には、自分自身がマスコミをバカに出来るほどの人間なのか振り返ってみることをおすすめする。政治家は国民の鏡と言われるように、マスコミもまた国民の鏡だ。馬鹿な報道が増えたと思ったら自分自身が馬鹿になっていないか心配した方が良い。

マスコミ・メディアに関する記事は以下も参考にされたい。

■ウクライナで米露衝突?と言われる中、佐村河内守氏の記者会見で大騒ぎしてる日本が平和過ぎて頭痛が痛い。

■「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ 

■就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。

■女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。

■フィギュアスケートの羽生結弦さんも理系女子の小保方さんも「現代のベートーベン」も、みんな同じだ。

マスコミが変わるのは、理系女子とか美人すぎる政治家とか、そういう記事に反応する人が減った時だろう。きっとそれは100年以上先の話だ。