トランプ政権は、医療保険制度改革法「アフォーダブル・ケア・アクト」(オバマケア)により設置された医療保険取引市場の運営改革に踏み出した。来年度の医療保険加入申請期間を見据え、同市場のてこ入れに取り組む。
保健福祉省の「メディケア・メディケイド・サービス・センター」(CMS)が4月13日に発表した新たな規則は、消費者を規制し、治療が必要な時だけ保険契約を結んではすぐに解約する行為を防止してほしい、という医療保険業界からの要請に対する連邦政府からの回答だ。 医療保険制度を「弄ぶ」このような行為は、消費者の不満を鎮めなければならない保険事業者の負担に拍車をかけている。
新規則が施行された場合、2018年度の医療保険の加入がより困難になるだろう。2018年度中に生活状況が変化し、申請期間外のタイミングでの保険申請が可能になった人々の加入は特に難しくなる。また申請期間の長さも、およそ半分に短縮される。
新規則ではこのほか、契約内容が複雑になる可能性や、低所得層、中間層の負担を軽減する税額控除が減らされる恐れがあり、保険会社には提携医療機関の少ない契約プランの販売が認められる。
2017年、多くの保険会社がプロクラムから撤退したのを受け、来年度の保険取引を事業者にとってより魅力的なものとすることを目指して、これらの新たな方針が定められた。 消費者は、保険会社を取引市場に引き留めておくためにさらなる負担を強いられるかもしれない。事業者がいなくては、保険に加入することはできないからだ。
しかし、今回の新規則を巡ってより大きな議論を呼んでいる問題に、政府当局は触れていない。最貧困層の加入者を抱える保険事業者に支払われる助成金、いわゆる「費用分担割引」を埋め合わせる資金補助についてだ。トランプ氏はこれらの助成金の支払いを打ち切り、保険販売市場を崩壊に追い込むとして、民主党議員らに型破りな脅しを仕掛け、オバマケア撤廃を目指す自身の計画を支持するよう圧力をかけた。
トランプ政権に求めた要望の多くが新規則に反映されたにもかかわらず、保険業界が満足していないのはこのためだ。費用分担割引の助成がどうなるかは保険業界にとって最も差し迫った関心事であり、トランプ氏の12日の発言は、結果的に来年度の医療保険取引市場をめぐる保険会社の懸念を強めてしまったかもしれない。
健康保険の業界団体「アメリカ健康保険計画」の責任者マリリン・タベナー氏は、新規則で保険会社に対する規制が緩和され、消費者により厳しい条件が課されたことを前向きに評価した。
しかし、タベナー氏は声明で「保険取引市場があまりに不安定であり、先行きが不透明であることに変わりはありません。健康保険計画と消費者は、費用分担割引に充てられる補助金の支出が継続される確約を早急に求めます」とも述べた。
「助成が打ち切られると、保険を購入する何百万ものアメリカ国民に害が及ぶでしょう。多くの契約プランが市場から引き揚げられ、市場のあちこちで保険料が急上昇し、20%近い高騰が起きるでしょう。納税者の負担するコストも増大します。そして、医師や病院は患者の治療に際して、さらに深刻な障壁に見舞われるでしょう。我々は連邦議会と政権に対し、費用分担割引に充てる助成予算を今すぐ確保するよう要請します」。かつてCMS局長を務めたタベナー氏はそう語った。
アフォーダブル・ケア・アクトでは、保険会社は医療保険取引市場を利用する低所得の加入者の税金控除対象額、自己負担額などを引き下げるよう義務づけられており、これらの措置による損失は連邦政府が払い戻すこととなっていた。しかし2014年、連邦政府が国会の承認を受けずにこれらの支払いをしているとして、下院共和党議員らがバラク・オバマ政権を訴えた。2016年、連邦裁判所判事の1人が共和党議員らの訴えを認め、オバマ政権は控訴した。その後トランプ氏が大統領となり、この裁判の被告はトランプ政権となった。双方は今後の対応を検討するとして、控訴裁判所から審議の延期許可を得た。
今のところ、トランプ政権は保険会社への支払いを継続している。一部の下院共和党議員は支払継続支持を表明しており、中には保険会社への助成に正式な権限を与えるべきだとする議員もいる。そうなれば、法的な争いは解決するだろう。
しかし、トランプ氏は12日、ウォールストリート・ジャーナルに、 保険取引市場存続の危機が民主党議員らを交渉のテーブルにつかせるためのてこになりうるとの考えを口にした。しかし民主党指導部は強硬な姿勢でこの目論見をはねつけ、費用分担割引に充てる助成費用を未決の連邦予算案に盛り込むよう要求した。
国からの助成が今後どうなるのか先行きが不透明なため、保険業者は2018年の保険取引市場参入に及び腰になるかもしれない。少なくとも、助成が打ち切りとなった場合に備えて、損失を埋め合わせるために、掛け金の大幅値上げを要求する可能性はある。スタンダード・アンド・プアーズなどの格付け会社は、取引市場が自己修復しつつある可能性を指摘している一方、このような動向により、問題を抱えた取引市場が不安定化してしまうかもしれない。
2月に発表された草案とほぼ変わらない内容の新規則は、保険会社に十分な利益をもらたさないかもしれない。
医療専門のコンサルティング会社「アヴァレール・ヘルス」のキャラ・ケリー副社長は声明で、「CMSは保険取引市場の抱える問題の是正に向けて対策を講じましたが、これらの制度変更に、次年度に向けて選択可能な契約プランを増やす十分な効果があるとは言えないでしょう」と語った。 「保険取引市場からの契約プラン引き揚げが2018年の懸念事項であることに変わりはありません」
さらに、政府が進める制度変更により、全体としての保険加入者数は減少し、より健康でコストのかからない消費者の加入意欲が損なわれる恐れもある。
新たに設けられる規制には、鍵となる要素がある。以下がそのポイントだ。
- 加入申請の受付期間が、従来の半分の長さに短縮される。2018年度の保険に加入するための申請期間は、2017年11月1日から12月15日までとなるが、従来の規則であれば2018年1月31日まで申請が可能だった。受付期間の短縮により、申請について告知したり、申請を支援する取り組みを十分に行うのが難しくなる恐れがある。政権は、受付期間を長く設けた場合、病気になるまで申請を保留する人が多く、期間短縮によってそのような事態を防ぐことができると主張している。
- 保険会社に、今年度保険料の不払いがあった消費者の加入を拒否する権限が認められる。オバマ政権のもとでは、加入者が保険料の不払いで契約解除となる前に、90日の支払い猶予期間が与えられ、次年度の保険契約の前に事業者が不払い金の返済を要求することは認められていなかった。トランプ大統領による新規則では、保険業者は不払い金の回収を義務付けられてはいないが、その権限は認められている。
- 加入申請受付期間を過ぎてから保険が必要になった人々は、その事実を証明しなければならない。結婚や出産、引っ越しなど、消費者の生活状況に特定の変化があった場合、期間外の申請が認められる可能性がある。オバマ政権下では、こういった人々は自らの生活状況の変化を証明する必要はなかったが、トランプ大統領は書類の提出を義務付ける。保険業者らが、人々は治療が必要になった時にだけ「特別申請期間」を利用している、と不満を訴えたからだ。
- 保険会社は、補償内容の乏しい契約プランを販売できるようになる。アフォーダブル・ケア・アクトは、保険を4つの等級(ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ)に分け、高い等級のものほど補償が手厚く、掛け金も高くなっていくよう規定している。等級ごとに、加入者の医療費に占める補償額の割合が決められており、 たとえば、シルバーの契約プランなら、最低でも医療費の70%を補償するものでなければならない。オバマ前大統領は、各等級に定められた補償率に対し、上下2%までの誤差を認めていたが、トランプ大統領はこの補償率により大幅なゆとりを持たせる方針だ。シルバーの契約プランは、医療費の66%〜72%を補償すればよいという規定になるかもしれない。またこのことが、保険料に適用される税金控除を引き下げる副次効果を生む可能性もある。なぜなら、保険料に適用される税金控除額は、各地域区分で2番目に安価なシルバー契約プランの価格を決定要素の一部として算出されるからだ。もし、控除額の決定基準となるシルバー契約プランが医療費の66%しか補償しないものだとしたら、その価格は補償率の高いプランに比べて安価であり、結果として、その地域の保険契約すべてに適用される控除額も少なくなる。
- 保険会社に「エッセンシャル・コミュニティ・プロバイダー」との提携削減が認められる。保険会社にとって、提携医療機関の少ない契約プランは、最も費用効率の悪い医療機関を切り捨て、コストを抑制するための需要な手段だ。 オバマ前大統領は、地域ごとの提携医療機関のうち、最低でも30%を「十分な医療サービスを受けていない」患者や低所得の患者を治療する医療機関とするよう義務づけていた。トランプ大統領はその割合を20%に引き下げ、保険契約の提携医療機関が十分といえるかどうかの判断は、各州や民間の認定機関に委ねられる。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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