アメリカのバラク・オバマ大統領は9月25日に、中国の習近平国家主席をホワイトハウスに迎える。迎える、というのは少し言い過ぎかもしれない。いつも通り21発の礼砲(軍隊・軍艦などが,儀礼として撃つ空砲)や友好的な場面のシャッターチャンスは見られるだろうが、専門家によると、米中間の緊張はここ数年間で最も高まっている。
オバマ大統領と習主席が今回の会談で取り上げなければいけない6つの課題を紹介しよう。
2014年5月、中国の5人の将校が経済スパイと企業秘密情報の窃盗の容疑で起訴されたことを伝える報道。全て国際サイバー・スパイの事件として扱われた。
1. サイバー戦争
アメリカと中国の位置関係は、この新しいサイバー領域の戦争では対照的になっている。これまで、中国はアメリカ政府にとって最大の脅威だった。元政府のコンピューター専門家ですらも、アメリカはこの中国の脅威に対抗する準備が整っていないと話している。この数週間、情報機関の職員はサイバーセキュリティに警鐘を鳴らし、アメリカのサイバー攻撃に対する脆弱性を警告している。特に、ますます拡大している中国のサイバー攻撃は深刻だ。
サイバーセキュリティの問題は習主席の訪問中に取り上げられるだろう。しかし、アメリカが中国とサイバーセキュリティに対してどれだけ共通認識を見いだせるかは不透明だ。
サイバー攻撃の話題は摩擦を引き起こす可能性もある。特に最近起こった、多くの政府職員の個人情報が漏洩してしまったアメリカ政府への激しいサイバー攻撃で、中国が発信元として明らかになっているからその懸念はさらに強まる。このサイバー攻撃により、全てのアメリカの政府職員の情報が保存されているアメリカ合衆国人事管理局から大量の個人情報が漏洩してしまった。報告によると、今回の攻撃で2100万人の連邦政府職員の情報が漏洩してしまった。さらに、サイバー攻撃があったのは2014年の初頭なのに、事件が明らかになったのは2015の5月だった。そして漏洩した情報の中には、セキュリティの権限を持つ政府職員や情報機関の専門家の極秘情報も含まれていた。
オバマ政権も中国の知的財産の侵害や企業秘密の漏洩への対抗策について議論してきた。ここ数週間、オバマ大統領は、アメリカが中国に対してサイバー攻撃の報復を行うと警告してきた。そして、このサイバー攻撃による情報漏洩から利益を得た企業や個人を処罰するという考えも示している。しかしこうしたオバマ大統領の計画はあくまで当面の措置で、おそらく今後は、中国とアメリカがサイバー・スパイに対する相互協定を共有できることを考えている。
北京の軍事パレードでの中国軍を視察する習近平国家主席
2. 気候変動
地球温暖化を防ぐための世界規模での取り組みに関する課題も、世界で最も二酸化炭素を排出する2つの国のリーダー間で間違いなく議論が交わされることになる。習主席とオバマ大統領は2014年11月の会談で、アメリカが2025年までに二酸化炭素の排出を28%削減し、中国は2030年かそれより前にピークに達するようにする合意が交わされた。この協定は、地球規模での気候変動対策として最も重要な前進と評価された。世界資源研究所の気候プログラムディレクターのジェニファー・モーガン氏は、「気候変動の解決策を探す議論を国家的に、また国際的に進めるものだった」と話している。
この米中間のパートナーシップは継続している。先週、気候変動の米中交渉がロサンゼルスで行われ、そこでは気候変動問題の目標を達成するための両国のプランについて話し合われた。中国は6月に、二酸化炭素濃度(GDP単位での二酸化炭素排出量)を削減し、2030年までに再生可能エネルギーの利用を20%まで引き上げる具体的な計画を発表した。またアメリカは8月に、オバマ政権が掲げる気候変動対策なかでも重要な目標となる、発電所からの二酸化炭素の排出を削減する「クリーン電力計画」の最終版を発表した。
気候変動の問題は、2014年の発表段階ではあまり重要視されていなかったが、習近平近主席との会談では優先度の高い議題となる。今回の会談で、米中両国が今後二酸化炭素の排出の削減にいっそう意欲的に取り組む意志を表明することが期待される。2014年に発表した二酸化炭素の削減目標を改善するか、もしくは12月パリで行われる気候変動の交渉(COP21)に先がけて、両国の連携をアピールするものになるだろう。
中国の通貨である人民元。この夏に2%切り下げられた。
3. 中国の経済危機
中国とアメリカが今ほど経済的に密接な関係となり、一方で摩擦がうまれたことはこれまでなかっただろう。2015年夏に上海証券取引所で起きた株価の乱高下は、アメリカの市場をも揺るがした。オバマ政権は同盟国に中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への不参加を呼びかけたが、イギリス、ドイツ、フランスなどの西欧諸国やイスラエル、韓国などが参加を表明し、目論見は失敗して面目が潰される格好となった。一方、中国通貨の人民元が突然2%切り下げられたことでアメリカ経済は動揺し、2016年のアメリカ大統領選に共和党から立候補している不動産王ドナルド・トランプ氏は中国への批判を強め、「習主席には晩餐会の料理でもてなす必要はない、マクドナルドのビッグマックでもあげればいい」と攻撃している。
こうした両国の緊張はあるが、経済分野では米中が長期的な目標をかかげて合意が得られている。中国は環境汚染を引き起こす工業と輸出中心の経済から、サービスと消費主体の経済へ移行しようと苦しんでいる。理論的には、この移行はアメリカの企業にも利益をもたらすものだ。中国の安い輸出品によってアメリカの製品の価格が下がってしまうことなく、増加する中国の中流階級層にもアメリカのブランドを販売できる。
ただし、アメリカの企業がこうした巨大な中国の消費者層にアクセスできるかどうかは疑問符がつく。中国の成長に数十年莫大な投資をしてきたアメリカの企業経営者たちの間では、中国の主要な産業分野への参加に厳しい規制がかけられていることへの不満が高まっている。習主席はシアトルでアメリカの企業経営者たちと面会することで、この不安を和らげようと考えている。米中の指導者は、今回2国間投資協定の交渉を進め、妥結すれば新しい市場が開拓されると考えている。しかしこの2人の指導者が今回の会談で何か具体的な形を示せるかは不明だ。
2015年9月3日、北京の天安門広場で行われた抗日戦争勝利70周年の軍事パレードで旗を持って行進する中国軍兵士
4. 人権
習主席は政権のトップに登りつめてからというもの、中国が国内の社会と統治をオープンにするのではという、中国政府に批判的な人たちの希望を全て裏切ってきた。習主席の指導の下で、中国の共産党は芽吹いたばかりの市民運動を根絶するために全力を尽くしてきた。政権に反抗的な新聞は服従させられ、女性運動家は拘留され、有名ブロガーは国営テレビで辱められ、人権活動をする弁護士は一斉に検挙されてしまった。
それに反応して、人権団体はオバマ大統領に習主席の政策を非難するように呼びかけ、いっそのこと習主席の訪問そのものをキャンセルしてはどうかとまで提言した。専門家と政府官僚たちによると、アメリカ政府も中国の人権問題に高い関心を寄せてはいるが、中国国内の問題なのであまり介入することはできないという。アメリカは人権問題に関して何らかのアクションを起こそうとするだろうが、今回の習主席の訪問では主要議題にすることはないだろう。
2015年9月17日の合衆国上院軍事委員会にて発表された、南シナ海のファイアリー・クロス礁で建造される人工島の写真
5. 南シナ海の緊張
中国の南シナ海への野望にどう対処するかという問題で、アメリカはここ数年苦慮している。中国はアメリカの同盟関係にあるフィリピンの領海で、前哨基地の人工島を急速に建設している。またこの領海は、数十億ドルの価値がある貿易ルートであり、未開発の石油やガスが大量に眠っているとみられる。アメリカは中国に、フィリピンのようなアメリカと友好的な関係にある小国に対して、軍事的な戦略を用いて支配することは許されないという意志を伝えようとしている。
オバマ政権はこうした中国の脅威に対抗する手段として、東南アジアのパートナーとの環太平洋経済連携協定(TPP)を掲げている。この協定は東南アジアの国とアメリカとの連携を強めるものになる。
TPP交渉を加速させるため、大統領に交渉権限を与えるTPA法案が6月にアメリカ議会で成立した。中国は8月に係争水域での埋め立て工事は完了したと発表して、南シナ海の緊張は2015年の夏に沈静化したように見えた。しかしここ数週間前のニュースで、そうした幻想は粉々に打ち砕かれた。アメリカ国防総省は、中国が埋め立てを中止したと発表した数週間後に、これまでに想定されてものよりも多くの領海を埋め立てており、埋め立て作業もまだ中止されていないと発表した。そして、習主席の訪問の数日前、ワシントンに拠点を置く戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国が海底・河床などの土砂を水深を深くするために掘削する浚渫(しゅんせつ)作業を続けていることを示す衛星写真を公開した。
こうした中国の騙し打ちのような行動に対し、オバマ大統領がどのくらい強く出るのかは分からない。しかし国家安全保障担当のスーザン・ライス大統領補佐官は21日、ジョージ・ワシントン大学での講演で、この領海でこれ以上中国による島の埋め立てや活動規範破りは認められず、この領海に関わる全ての国で交渉するべき問題で、中国だけが独占するべきものではないと述べている。
北京の人民大会堂での全国人民代表大会の開会式で指揮を執る軍楽隊の指揮者
6. 逃亡した汚職官僚の取り締まり
習主席は中国内で非常に厳しい汚職の取り締まりを行っており、現在は海外に逃亡した官僚を追跡している。この「キツネ狩り作戦」は、汚職官僚や汚職経営者を捜索し、不正に獲得した貯蓄と共に中国に強制送還する目的で行われている。
中国は汚職官僚の逃亡先としてアメリカに目を付けているが、中国への送還のプロセスはもつれている。アメリカ政府は、中国には犯罪行為に対する具体的な証拠が不足しており、適正な手続きの保証が全くないと不満を表明している。アメリカで内密に捜査している中国の情報機関の活動が、アメリカ政府を苛立ちを募らせている。一方中国は、汚職官僚が中国に関する価値のある情報を持っているとなると、アメリカは意図的に送還を先延ばしにしていると批判している。
しかし、両国は取り締まりで協力することになった。先週、アメリカは中国で手配されていた人物を含む汚職官僚たちを中国に送還した。今回の両国の協力は、習主席が市民社会に加えている弾圧に対してオバマ大統領が圧力をかけようとしているのなら、強い交渉カードになるだろう。
本記事は北京よりマット・シーハン、ワシントンD.C.よりケイト・シェパード、アリ・ワトキンス、アクバル・アフマドが執筆。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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