国交正常化に向かうアメリカとキューバ、電撃発表の舞台裏

アメリカのオバマ大統領は、2014年12月17日に開かれた会見で、アメリカとキューバの国交回復について言及した。会見が開かれたのは、キューバの刑務所に5年間勾留されていたアメリカ人の数時間後のことだった。
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アメリカのオバマ大統領は、2014年12月17日に開かれた会見で、アメリカとキューバの国交回復について言及した。会見が開かれたのは、キューバの刑務所に5年間勾留されていたアメリカ人のアラン・グロス氏が釈放された数時間後のことだった。

■ スパイ容疑のキューバ人を釈放 議員から相次ぐ批判「危険な前例」

グロス氏は、クリス・バンホーレン下院議員(メリーランド州・民主党)、パトリック・リーヒ上院議員(バーモント州・民主党)、ジェフ・フレイク上院議員(アリゾナ州・共和党)に付き添われて、キューバからアメリカへ帰国した。キューバ政府は、グロス氏がアメリカ合衆国国際開発庁の下請け業者として衛星インターネットアクセスを設備し、「領土の保全」を侵害したとして、起訴していた

「今日、アランはようやく我が家に帰り、家族と再会することができた」と、オバマ氏は会見で発言した。

また、17日には、アメリカ国内の刑務所にスパイ容疑で投獄されていたキューバ人3人と、キューバに20年以上投獄されていたアメリカ人諜報筋とされる人物も釈放された。オバマ氏は、釈放された諜報筋の人物については、グロス氏とは「別件で」釈放されたとしている。

オバマ氏の会見を受けて、早くもボブ・メネンデス上院議員(ニュージャージー州・民主党)を含む複数の議員たちが、キューバ人スパイの釈放について、批判の声をあげている。

「グロス氏を犯罪者3人と取引するのは、極めて危険な先例を作ることになるだろう」と、メネンデス議員は声明で述べている。「独裁的で横暴な国家により、国外で働くアメリカ人が政治的切り札に利用されかねない」

マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州・共和党、キューバ系米国人)もキューバ人スパイの釈放を批判。FOXニュースによるインタビューの中で、「非常に危険な先例を作る」と指摘し、キューバとの国交正常化については「ばかげている」と述べた。

さらにルビオ議員は17日、「キューバとの国交回復は、キューバの人権保護と民主化の発展に何ら役立たない」と、AP通信に対して語った。「しかし、カストロ体制が何世代にもわたり、政権の座に居座りつづけるために必要不可欠な経済制裁の解除を実現するためには、多いに役立つかもしれない」と述べた。

オバマ氏はこうした批判に対し、17日に開かれた会見で自身の見解を述べた。

「私はあなた方の自由と民主主義に対する情熱と、その想いを共有している」とオバマ氏は語った。

また、キューバ市民が未だに直面している「自由への障壁が(アメリカとの国交正常化によって)すぐさま解消されるなどという幻想を抱いてはいない」と発言。

「私が今日発表した変革が、キューバ社会を一夜にして一変させるとは思っていない」と述べた。

AP通信によると、当局関係者は17日、アメリカ・キューバ間の国交完全正常化に向けた話し合いが近く始まるであろうと語った。また、アメリカは、数ヶ月以内にキューバの首都・ハバナに大使館を開設する方針だ。

オバマ氏は「我々は、数十年にわたり我々の利益向上を阻んできた時代遅れな政策を終わりにする」と述べ、ジョン・ケリー国務長官に対して、キューバとの国交再構築に向けた交渉を開始するよう指示したことを明らかにした。

また、オバマ氏は、キューバの「テロ支援国家」指定を見直すようケリー氏に指示したと述べた。さらに、今アメリカは「キューバとの人的交流、流通、そして情報のやりとりを増やしていくために、歩み始めたところだ」と語った。今後は、一般のアメリカ人もキューバへ旅行しやすくなるだろうと述べた。

「私を含む多くの人びとが生まれるよりも前に作られた、この融通の利かない厳しい政策の恩恵を受けている人は、アメリカにもキューバにもいない」と語り、国交回復に向けた動きを「新たな章」の始まりであるとした。

■ラウル・カストロ氏と45分の電話会談

オバマ大統領の会見が始まるおよそ1時間半前に行われた、報道陣への概要説明では、政府高官が、どのような経緯で両政府が合意に至ったかを説明した。

その中で最大のニュースは、オバマ氏が15日に、キューバの最高指導者であるラウル・カストロ氏と両国の国交正常化について、少なくとも45分間にわたる電話会談をしていたということだった。ある政府高官はこれを「キューバ革命以来初めて、アメリカ・キューバ両国の国家首脳レベルが接触した」と称した。しかし、長期にわたりキューバの絶対的指導者でありながら、自身の健康状態の悪化により、弟のラウル・カストロに実権を譲ったフィデル・カストロは、この電話会談には参加しなかった。

■合意を支えたカナダとバチカン

また高官は、重要な役割を果たした2カ国なしには、合意できなかったかもしれないと語った。1カ国目は、カナダである。カナダ政府は、アメリカとキューバが交渉を進めるための場所を提供し、会談を進めるためにあらゆるサポートを行ったという。カナダで行われた会談では、ベン・ローズ大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)と、リカルド・ズニガ西半球安全保障評議会専務理事がキューバ側担当者とともに、交渉を行った。

2カ国目は、バチカンだ。教皇フランシスコは、カストロ氏とオバマ氏へそれぞれ個別に書簡を送り、グロス氏の件を解決するよう促した。書簡は、オバマ大統領が教皇と会談を行った後に送られたという。アメリカ政府高官は、このように教皇自身から直接的な働きかけを受けることは「非常に稀」であり、もはや前例があるかどうかすら定かではないと語った。

オバマ氏は会見で、ローマ教皇、カナダ政府、そしてグロス氏の解放に尽力したアメリカ国会議員たちに対して、感謝の意を述べた。

当局関係者は、グロス氏が帰国する際にフレイク、リーヒ、バンホーレン議員が同行したことからも明らかであったように、一部の議員たちに会見内容を事前に知らせていたことを明かした。しかしその一方で、今回の発表が、国内から反発を呼ぶことも予想していたようだ。当局関係者は、今回の発表は直ちに渡航禁止令を解除するものではないと述べた上で、徐々に規制を緩和していきたいとした。

また、当局関係者は繰り返し、アメリカ国内で勾留されていたキューバ人囚人たちは、決してグロス氏釈放のための交換条件として解放されたわけではないと強調した。関係者によると、囚人たちはキューバが保有している機密情報と引き換えに取り引きされたのであり、グロス氏の解放とは無関係であるという。

■渡航禁止を緩和 キューバからの輸入も認可

アメリカ・キューバ間の関係には、今後もさまざまな制約が残るだろうと考えられている。政府職員たちは、彼らはあくまで「法の範囲内で活動」しており、渡航禁止令を完全に撤廃することはできなかったと述べた。その代わりに、キューバへの渡航が許可される「渡航理由」の範囲をこれまでより拡大してきた。

「我々は、現行の法制度が許す範囲内で、可能な限りの渡航を許可している」と政府高官は述べた。

さらにオバマ政権は、認可を受けたアメリカ人渡航者が、キューバから400ドル相当の物品を輸入することを許可する方針を示した。その中で、400ドルの内100ドル分は、たばこやアルコール製品を含んでもよいとした。

この発表を受けて、「新しいアメリカ・キューバ関係の時代には、キューバ製の葉巻を規制を恐れることなく吸うことができるようになるのか」と繰り返し質問され、政府高官は「輸入可能製品には、葉巻も含まれる」と答えた。

報道陣向けの説明が終わった後、政府高官は、ハフポストUS版の取材に対して、今回の発表は、グアンタナモ湾の米海軍基地への影響はないだろうと語った。

カストロ氏も17日に声明を発表し、アメリカとの国交正常化に向けた話し合いを歓迎する意を示した。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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