幼稚園の預かり保育をご存知ですか?
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幼稚園の教育課程に係る教育時間の前後や長期休暇に希望者を対象におこなう「教育活動」
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のことです。
最近では、幼稚園の「預かり保育」は、待機児童対策の受け皿として、国はさらなる活用を目指しています。
今回は「預かり保育」について、幼稚園側の考え方、また、預かり保育の保育内容について綴ります。
預かり保育は、待機児童対策としてだけでなく、幼稚園へ通う子どもが園終了後に、友だちと安心して遊ばせられる場所が少ない等々の理由から、地域の中で保護者のニーズが高まっています。
文京区でも公立幼稚園は、就労している等の保護者に対して、午前8時から9時まで及び教育課程終了後から午後6時まで(夏休み等の長期休業中については、午前8時から午後6時まで)の預かり保育を実施すると共に、一時利用も行っています。
預かり保育は、教育活動として、各園で「預かり保育の計画」が作成されています。もちろん文京区立幼稚園でも同様です。文教委員会(6月13日)での審議で「預かり保育」について取り上げました。
区内全10園の「預かり保育の計画」を情報公開で入手したところ、「預かり保育の基本的な考え方」として、「保護者が子育てを他者に依存することのないように・・・」との旨を書き込んでいる幼稚園が10園中4園あり、違和感を覚えました。
2つ例を上げると、具体的な記述は以下の通りです。
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保護者が子育てを他者に依存する傾向を助長することのないよう、預かり保育の趣旨を十分に伝え、保護者が我が子の成長に関心をもち、親子関係がより望ましい方向にむくようにする
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保護者に預かり保育の趣旨や家庭教育の重要性、幼児の気持ちや疲労などを伝え、保護者が子育てを他者に依存すること無く、子育てに責任をもちながら楽しみを見い出せるようにする
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さらっと読むと、保護者に対して家庭教育的なことが書かれており、「利用にあたっては、よく考えないと」、と捉える保護者もいらっしゃるかと思います。
ですが、まるで「本来、家庭で子育てを行うことが望ましく、安易に預かり保育を使ってはいけない」というようなニュアンスが伝わってきてしまうことは否めません。
そもそも、預かり保育は、
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幼稚園教育の基本及び目的を踏まえ、教育課程に基づく活動との関連の上、適切な指導体制を整え、幼児の生活全体が豊かなものとなるよう家庭や地域における幼児期の教育支援に努めること
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が趣旨です。
文教委員会では、国府田久美子議員もまた、「保護者が子育てを他者に依存することなく子育てに責任を持ちながら楽しみを見出せるようにする」と書かれていることの真意を質しています。
教育委員会は、「幼稚園と家庭が緊密に連携をして、子育てをしていくことが大事なんだというところを述べているものだ」との答弁です。
しかし、国府田議員は、区立幼稚園の中には、保護者が夕方まで預かり保育に預けることについて、「依存と思っているところがある」「他者に依存することがよくないかのような考え方がどうしても幼稚園の中にある」と指摘しています。私も同感です。
文部科学省は、重要対象分野に関する評価で、幼稚園の「預かり保育」の必要性を次のようにまとめています。
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子どもにどのようにかかわっていけばよいのか悩んだり、子育てに必要な支援が得られなかったりして、孤立感を募らせる保護者の存在などといった様々な状況が指摘されている。このような中、保護者の子育てに対する不安やストレスを解消し、その喜びや生きがいを取り戻して、子どものより良い育ちを実現するような子育て支援活動が求められている。
そのため、幼稚園では、幼児をとりまく家庭や生活環境を整えつつ、幼児の健やかな成長を確保していくことを目指し、保護者の要請や地域の実態などを踏まえ、地域における幼児期の教育のセンターとしてその施設や機能を解放し、子育ての支援に努めていくとともに、預かり保育の充実を図っていく必要があり、これらの取組を国としても促進する必要がある。
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保護者による虐待で子どもたちが追い詰められ、時には死に追いやられてしまうような悲しい事件が後を絶たない状況の中には、うまく他者に頼ることができず、問題を家庭だけで抱え込んでしまったがゆえの結果であることが少なくありません。そのような事件の後には、公的機関がもっと、子育て家庭が「頼る」ことへのハードルを下げる環境設定を行う必要性がいつも指摘されます。
「子育てを他者に依存してはいけない」と、ある意味で真面目に思い込んだ保護者が、SOSを出せなくなって一人で問題を抱え込み、どんどん疲弊して行き、不幸な結果を招いてしまう、というケースは「家庭問題」ではなく「社会問題」です。
これらを家庭の課題ではなく、社会課題として捉え、支援していくことが、公的機関の役割ではないでしょうか。
そこまで重大な事件につながらないまでも、子育てを頑張っているがゆえに疲弊してしまっている家庭もけっして少なくないと思います。
「保護者が他者に依存する傾向を助長することのないよう」という文章を書いてしまうことそのものが、幼稚園の認識が社会課題とズレてしまっていることのあらわれと思えてなりません。
子育て家庭の一番近くにいる幼稚園が、こうした考え方を打ち出す現実があることに、「子育て支援」についての共通認識をもつ必要性を改めて感じます。
次に預かり保育の質についてです。
保育園同様に「就労支援」としての位置づけがなされていながらも、異なる点が見受けられます。
認可保育園等が、幼稚園の預かり保育と同じ時間帯に関して、それぞれの年齢に応じた目標、「発達保障」を視野にお昼寝以後等の保育も考えていることに比較して、預かり保育は「家庭的な雰囲気の中で安心して過ごしていく」という安心・安全に主眼が置かれた「預かり」と位置づけている側面があります。
ある幼稚園での預かり保育では、保育園に比較してビデオを見せることが多いことから、保護者が教育委員会に相談したところ、ビデオを見せることがなくなったものの、園長が変わると再び、ビデオを見せることが日常となり、保護者が求める「保育」、文部科学省が掲げる「教育活動」とはほど遠い内容に戻ってしまったという嘆きを聴きます。
また、土曜日に行事があると月曜日は振替で休みになってしまうということも、就労支援としての位置づけからは疑問を持たざるを得ない現状も改善が必要です。
おやつも、保育園であれば栄養士が給食を踏まえカロリー等々も考え提供されていますが、幼稚園でのおやつは、幼稚園教員が話し合って決めていくという状況の中、お弁当との栄養バランスをどのようにとっていくのか等を課題として考える重要性が国府田議員から提示されています。
このように、本来ならば同様の「質」を提供しなければならない「保育園」と「幼稚園の預かり保育」ですが、差異がある現状の改善には、提供する側の意識改革が必要だと思います。
そもそも、幼稚園は文科省の管轄で「幼児教育」、保育園は厚労省の管轄で「家庭での保育に欠ける児童のための措置」から始まった違いがあります。区の所管は今も異なります。
しかし、超少子高齢社会の到来や女性の社会進出推進、働き方改革を掲げる今となっては、その目的は自ずと多様なものに変わってきています。
幼稚園に、そもそも私たちは幼児教育を提供するのが仕事で、「預かり保育」は就労支援や待機児童対策のために付加された「別モノ」であるかのような意識があるとしたら、それは、上で引用した文科省の方針を十分に理解していないと言わざるを得ません。
文京区の待機児童は283人(H29年4月1日現在)で、保育園を増やしてもなかなか減らない状況です。
子育て家庭の立場からは、子育てと仕事の両立、もっと言えば、親が何かをあきらめたりすることなく自分の人生も大切にしつつ子どもの健やかな成長を願うことは、しごく当然で健全なものです。
「子育てを他者に依存する」のではなく、主体的に、様々な社会のリソースを上手に活用して、子育ても自分の人生も充実した生活を送れるようにすることこそ、今の時代のニーズではないでしょうか。
公的機関は、それに応えられるような十分な選択肢を提供し、それぞれの質を高めていく努力が欠かせません。また、そういったことを丁寧にチェックしていくのが議会の役割だと思っています。
追記)
6月13日の文教委員会の後日、文京区立幼稚園の「預かり保育の計画」から「子育てを他者に依存・・・」の文言は削除されているとのことです。