経産省の原発停止による火力燃料焚き増し額についての試算を更に調べてみた件

経産省のkWh当たりの火力燃料費の推計は高過ぎる?
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 私の前回の投稿「原発停止による火力燃料焚き増しが2013年度で3.6兆円だったのは、脱原発には良いニュース?」で、経産省の原発停止による火力燃料の焚き増しの試算が2013年度、14年度でそれぞれ兆、兆円であることが正しければ、それから算出される原発停止によらない非代替分のkWh当たりの平均燃料費が、エネルギー価格が特に高かった2013年度、14年度でそれぞれ6.7、6.68円であり、この原発非代替分に相当する効率の良い火力発電技術のリプレースを進めていけば燃料費はそれほど大きな心配ではない、と書きました。しかし、その経産省の試算は不自然なものであり、これを信用することはできないとも書きました。今回はこの試算をもう少し詳しく見ていきます。

 前回取り上げた経産省の試算を更に見ていくと9枚目の「原発停止に伴う燃料費増加分の要因分析」(冒頭の画像)にその内訳として、2010年度と14年度を比べて、数量要因2.1兆円、為替要因0.7兆円、燃料価格要因0.6兆円であり計3.4兆円が原発停止による火力燃料費増加としています。原発停止による火力代替分は、2008年度から10年度の3年間の平均の原発の発電量2748億kWhが用いられており、2014年は原発稼働ゼロなので、この2748億kWhがそのまま使われています。これら3要因のに算出ついて詳しい説明はありませんが、数量要因を2010年の燃料価格で測ったこの原発停止による焚き増し分の発電量2748億kWhの燃料費、つまり2010年の燃料価格のままであったとして、この原発停止の火力代替分2748億kWhにいくら払ったことになったか、と考えてみましょう。

 前回もグラフを参照した電事連の資料によると、2010年度の大手電力会社の発電量の合計は10064億kWhで、火力発電シェアは61.7%ですから、火力発電総量は約6209kWhとなります。前回掲載した電力需給検証小委員会の平成27年10月の第13回会合の資料4の5枚目の表に2010年度の大手電力会社の燃料費合計が3.6兆円であったことが示されていますので、2010年度のkWh当たりの平均燃料費は、3.6兆円/6209kWh=約5.8円となります。従って、この平均燃料費による原発代替分2748億kWhの金額は約1.6兆円(5.8円×2748億kWh)にしかなりませんので、経産省の試算の数量要因2.1兆円はこれより0.5兆円多くなっています。また、為替レートの円安や燃料価格(外貨建て)の上昇によって2014年度の原発代替分の火力発電のkWh当たりの平均燃料費は前回の表から約13.46円でした。従って、(13.46-5.8)×2748億=約2.1兆円ですから、経産省の試算の為替要因0.7兆円、燃料価格要因0.8兆円の合計より0.6兆円多くなっています。つまり、二つを合わせて約1兆円多くなります。

経産省のkWh当たりの火力燃料費の推計は高過ぎる?

 前回も書いたように、火力発電は石油、ガス(LNG)、石炭の3つの燃料があり、電力会社は平時にはなるべく費用の安いものを優先的に使っているはずです。従って、原発停止によって、その代替分にはよりコストがかかる石油火力を多く使わざるをえなくなることなどが考えられます。以上の経産省の数量要因にこの代替による効果が含まれるのかどうかは分かりませんが、少なくとも以上のように石油、ガス、石炭に分けて見てみる必要があり、またそれぞれの燃料価格の推計についても確かめるべきでしょう。経産省の総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会、原子力小委員会平成26年12月の11回会合の参考資料2には2013、14年度の石油、ガス、石炭それぞれのkWh当たり燃料費と原発代替発電量があり、kWh当たり燃料費は13年度でそれぞれ18、13、4円、原発代替発電量でそれぞれ1022、1450、153億kWhとなっています。この資料では2014年度は推計段階なので、前回掲載した電力需給検証小委員会の平成27年10月の第13回会合の資料4の表にある14年度の確定ベースでの石油、ガス、石炭それぞれのkWh当たり燃料費と原発代替発電量を使います。これによると2014年度のkWh当たり燃料費で16、13、4円、原発代替発電量でそれぞれ676、1919、153億kWhとなっています。

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原子力小委員会の平成26年12月の11回会合の参考資料2より。2014年度分は推計段階であり、前回掲載した電力需給検証小委員会の平成27年10月の第13回会合の資料4の表の確定値とは異なる。

 これらを使って計算して見ると

2013年度、原発代替分焚き増し

  • 石油:18円/kWh×1022億kWh=約1.8兆円
  • ガス:13円/kWh×1450億kWh=約1.9兆円
  • 石炭:4円/kWh×153億kWh=約0.1兆円

で合計3.8兆円、

2014年度、原発代替分焚き増し

  • 石油:16円/kWh×676億kWh=約1.1兆円
  • ガス:13円/kWh×1919億kWh=約2.5兆円
  • 石炭:4円/kWh×153億kWh=約0.1兆円

で合計3.7兆円となり、使わずに済んだ原発燃料費0.3兆円を引けば経産省の推計、2013年度、14年度でそれぞれ兆、兆円が得られます。

 このkWh当たり燃料費が妥当かどうか調べるため、この経産省の石油、ガス、石炭の、2013年度、14年度kWh当たり燃料費でそれぞれの火力発電全体の発電量の燃料費を推計してみます。前回電事連の資料には三つの燃料毎の火力発電シェアが分かりますので、これを使うと2013年度は総発電量9397億kWhに対して石油、ガス、石炭火力のシェアはそれぞれ14.9、43.2、30.3%で、発電量はそれぞれ約1400、4060、2847億kWhとなります。2014年度は総発電量9101億kWhに対して石油、ガス、石炭火力のシェアはそれぞれ10.6、46.2、31.0%で、発電量はそれぞれ約965、4205、2730億kWhとなります。

 この2013年度の発電量それぞれに経産省の試算におけるkWh当たり燃料費を使うと

2013年度、火力総発電量

  • 石油:18円/kWh×1400億kWh=約2.5兆円
  • LNG:13円/kWh×4060億kWh=約5.3兆円
  • 石炭:4円/kWh×2847億kWh=約1.1兆円

合計は約8.9兆円となり、実績値の7.7兆円より1兆円以上大きくなります。

2014年度、火力総発電量

  • 石油:16円/kWh×963億kWh=約1.5兆円
  • ガス:13円/kWh×4200億kWh=約5.5兆円
  • 石炭:4円/kWh×2824億kWh=約1.1兆円

合計は約8.1兆円となり、実績値7.2兆円よりやはり1兆円近く大きくなります。これから言えることは、経産省の推計に使われるkWh当たり燃料費は、実際より高い可能性があるということです。しかし、例えば同じガス火力でも最新のものと古いものでは燃料効率も違うでしょうから、電力会社は同じ燃料でもより効率的な発電所を優先的に使う可能性はあります。従って、例えばガス火力の中でも原発代替分の燃料単価はより高いことはありえます。しかし、そうであっても燃料費合計で1兆円の差は大きいように思います。

表 2010年の燃料毎の火力発電量の構成比率を基に推計された原発非代替発電量

電事連の資料を基に算出。[ ]内は経産省の試算に用いられた原発代替火力発電量(焚き増し)。

 ちなみに経済産業省審議会、総合資源エネルギー調査会、長期エネルギー需給見通し小委員会発電コスト検証ワーキンググループの推計における石油、ガス、石炭の3つの火力発電のkWh当たり燃料費は2014年度についてそれぞれ21.7、10.8、5.5円と推計されています。原発停止による焚き増し分と比べて、石油と石炭は原発代替分の推計はより高いですが、ガス火力は安くなっています。これを使って同様に2014年の総燃料費を計算すると

2014年、火力総発電量(発電コスト検証ワーキンググループの推計を使用)

  • 石油:21.7円/kWh×963億kWh=約2兆円
  • ガス:10.8円/kWh×4200億kWh=約4.5兆円
  • 石炭:5.5円/kWh×2824億kWh=約1.5兆円

合計は約8兆円となり、やはり同じくらい実績値7.2兆円より多くなります。どうも経産省は火力発電の燃料費を実績値より高く見積もりがちのようです。

燃料費の高い石油火力を過大に原発代替分に含めている?

 また、それぞれの燃料毎でどのように原発代替発電量を決めたのかについても説明がありません。2010年度の発電量と比較する場合、2010年度の火力発電の合計は約6209kWhでしたが、2013年度、14年度はそれぞれ9397億、9101億kWhであった一方、原発代替は2008年度から10年度の3年間の平均である2748億kWhが基準とされましたので、それと2010年度との発電量の差と一致する保証は全くありません。実際、2013年度と14年度の原発非代替分は前回の表から5672億、5242億kWhとなりましたので、2010年度の火力発電量6209kWhより小さくなっています。これは省エネ等が進んだからでしょう。(自然エネルギー財団はこの点から原発代替分2748億kWhは過大であり、代替火力燃料費も過大と主張していますが、私は原発代替分2748億kWhをそのまま基準にします。)従って、単純に2010年度から増加した分を原発代替分として使うことはできません。

 そこで2010年度と比較する場合、2013年度、14年度について原発非代替分は2010年度の3つの燃料毎の火力発電量の構成比率を保ったまま量を調整することにしてみます。具体的には2013年度、14年度のそれぞれの原発非代替分の火力発電量5672億、5242億kWhを2010年度の総火力発電量6209kWhで割った数値(0.91=5672/6209、0.84=5242/6209)を使ってデフレートして各燃料毎の原発非代替分を計算します。前回電事連の資料から2010年度の3つ燃料別火力発電量は石油、ガス、石炭で755、2949、2516億kWhとなります。これから計算される原発非代替分を2013年度、14年度の各燃料毎の発電量から引いて原発代替分(焚き増し)を計算します。丸目による誤差が若干出ましたが計算結果(角括弧内は経産省の試算)

  2013年度の発電量ー2010年度の発電量×デフレーター(0.91) 

  • 石油:1400—755×0.91=711億kWh   [1022億kWh]
  • ガス:4060—2949×0.91=1366億kWh  [1450億kWh]
  • 石炭:2847—2516×0.91=549億kWh   [153億kWh]

  2014年の発電量ー2010年度の発電量×デフレーター(0.84)

  • 石油:965—755×0.84=328億kWh     [676億kWh]
  • ガス:4205—2949×0.84=1715億kWh  [1919億kWh]
  • 石炭:2730—2516×0.84=698億kWh   [153億kWh]

となりました。角括弧内の経産省が試算した原発代替分と比べ、2013年度も14年度も燃料費の大きい石油は多く、少ない石炭は少なくなっています。これはつまり、経産省の試算では原発非代替分を2010年度の構成比率より、石油火力を過少に石炭は過大にしており、結果的に原発代替分にはより燃料費が高い石油火力が多く、少ない石炭火力が少なくなっているということになります。何故そのようにしたのかは明らかではありません。