「震災後から働く原発作業員の方々が抱える問題」:福島第一原子力発電所の廃炉に取り組む作業員の方々についての理解(その3)

震災後に働く方々が安心して働ける環境は「福島原発構内」だけで収まりがつきません。震災により失われた「基盤」を新たに作りあげなければいけません。
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時事通信社

※記事には福島県の地域名、避難状況に関する記述が出てきます。

 過去の投稿にまとめてありますので参照ください。

震災前の福島第一原子力発電所では建設業はほとんどありませんでした。現在の廃炉への取り組みは主に建設業です。福島県外から出張されている建設系企業に属する方々が主体となっています。彼らが抱える共通の問題を列挙します。

■震災後から働く作業員の方々が抱える問題

(1)原発事故により双葉郡の多くが避難区域となっている為、発電所から遠方に生活の拠点を置かざるをえない。

(2)放射能物質を扱う作業について不慣れ、原子力設備について知識が浅い。

(3)原子力産業で働くことで偏見を受けている。

(4)不慣れな作業環境の中、スピード感と完璧性を要求される。

 現在福島第一原発から半径20km内は避難区域になっています。双葉郡広野町が直近の生活圏となります。最低でも20kmは離れた箇所に住まざるをえません。震災前人口が5000人弱であった広野町には数千人に及ぶ作業員の方をまかなえるほどの賃貸住宅がそもそもありません。広野町から通う方は民宿生活やひどい場合ですと町にある「ラブホテル」から通われている方もいます。居住する場所がない故にです。

住みやすさを求める方々はさらに遠方の「いわき市」から通われていています。

通勤に片道2時間から3時間ほどを要しています。

原発事故により廃炉に取り組む方の生活基盤が失われ、そして現在も回復していません。

彼らは建設作業においてはプロですが、放射能物質を扱う作業については未熟です。その未熟さは作業する本人には過剰被爆へと繋がり、時にはトラブルを通して社会不安へと繋がります。

原子力業界が他の業種と一線を画すのは放射能防護措置です。身体負担が多い防護服や防護マスクを着用するのはその為です。不慣れな方にとってはマスクを長時間着用しての作業は身体への負担が大きく困難です。作業そのものを効率的に行うことが出来ません。

放射能を扱う作業への知識が未熟、原子力設備への知識が未熟な彼らを支える場所がありません。震災前には福島第一原子力発電所内に「技能訓練センター」という建物がありました。現在使用されていません。学べる場所がなく、原子力産業に経験の浅い企業に社員教育が委ねられていることが本質的な問題です。

原子力産業で働くことだけで偏見を受けられています。一時期報じられた「反社会勢力が仕事を選べない境遇の方を送りこんでいる」といったことや放射能物質を扱うゆえ「被爆者」といった偏見にさらされています。中には原子力作業員であること自体を隠す方もいます。

現在の廃炉を支える重要な人材が、職業差別を受けています。

 不慣れな作業環境(放射能物質を扱うため防護措置をとりながらの作業)にも関わらず、完璧性を求められます。トラブルは大きく社会問題へと報じられるからです。そして完璧性と同時にスピード感が要求されています。作業効率と人身安全は逆比例するものですが、余裕を持って作業できるほど社会認知はありません。昼夜問わずの作業は集中力を欠き、身体負担へと繋がります。

 震災後に働く方々が安心して働ける環境は「福島原発構内」だけで収まりがつきません。震災により失われた「基盤」を新たに作りあげなければいけません。

 その基盤は「仕事場に通える場所に、住みやすさを伴った生活基盤作る」だけを指すのではなく「職業の偏見なく受け入れてくれる社会や支援する社会を作り上げる」を伴ったものでなければいけません。

 日本が抱える課題である「福島第一原発の廃炉」がトラブルが続き、遅々として進まぬ理由は「そこで働く方々」が抱える問題が解消されていかない事も大きな要因として言えるのではないでしょうか。