◇日米原子力協定とは?
原子力に関連した言葉はとりわけ最近よく耳にしますが、「日米原子力協定」とは普段は耳にしない言葉です。
しかし今後の日本、そして冷戦に取って代わったテロリストの脅威が渦巻く現在において、非常に重要な、そして世界各国が注目する協定であることをご存知でしょうか。
アメリカ大統領選を含め、日本を取り巻く周辺国からも大変注目されており、今後の動向が注視されています。
しかし、現政権において、そして過去の政権でもそうでしたが、選挙で票にならないからなのか、生活に直結していない感じがするのか、一向に国民的議論にはなりません。
原発を再稼働するかしないか、放射能が影響するのかしないのかの議論ももちろん大変重要ですが、その上流(根底でもある)に位置するこの「日米原子力協定」についての議論は皆無に等しいでしょう。
2016年、東日本大震災そして原発問題から5年、いったいなぜ日本は再び原子力問題で世界から注目され初めているのか?日本だけが許された特権、そして世界がうらやむこの協定とはなんでしょうか。
2018年に満期を迎える日米原子力協定、それは1988年までさかのぼります。
その名の通り日米の原子力分野での協力を推進することを約束したものです。そして、核兵器不拡散条約(NPT)と密接に関わっています。日本はNPTに加盟する非核兵器保有国として唯一、再処理施設や濃縮施設を持つことを日米原子力協定により許されているのです。
◇非核三原則だから許される日米原子力協定
日本政府は「核兵器を開発しない、持ち込み許さない、そしてこれを保持しない」としていることは有名です。
また、Nuclear Umbrella(核の傘)といわれるように、アメリカの核抑止力に依存するとしています。
加えて、原子力エネルギーの平和的利用を最重要国策にもあげています。
これらの政策は当時のアメリカからの信頼を得て、「商業再処理施設」、「商業濃縮施設」を所有することが認められました。
日本国民の注目が集まる原子力発電所だけではなく、六ヶ所村にある再処理工場やウラン濃縮工場をはじめ、むつ市の使用済み燃料中間貯蔵施設など、原子力発電所以外に世界が注目する施設が日本国内には多数あるのです。ここでは細かい施設の詳細は省きますが、ではなぜ世界が注目し、そしてアメリカ内でも二分する(協定を延長する、しない)ような議論になっているのでしょうか。
理由は単純です。非核3原則を主張する日本ですが、エネルギー政策もはっきりしない、そして何より国内ではこれらの議論が少々タブーな雰囲気があるために、中々議題にあがらないのです。
しかし、世界からみればこの二つの施設が核兵器製造(プルトニウム保有も含め)につながる技術であるのは確かであり、世界から注目されている以上、疑いようの無い事実なのです。
◇核兵器不拡散の観点から見えるもの
話はさらに上流にさかのぼります。
1970年代に発効した核不拡散条約(Treaty on the Non-proliferation of Nuclear Weapons)とは『核不拡散』(米、露、英、仏、中の5か国を「核兵器国」と定め、「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止する)、そして『核軍縮』(各締約国による誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定)と『原子力の平和的利用』(平和利用は締約国の「奪い得ない権利」と規定するとともに、原子力の平和的利用の軍事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務を規定)の三つが柱になっています。
しかし、このNPTに加盟していない国はたくさんあります。代表的な国として、北朝鮮、インド、パキスタン、イランなどです。
この条約を不平等と考える国は当然あります。
もちろん日本は被爆国として、これらを不平等と考えることはなく、上記にあげたように平和利用を最優先としています。
しかし、このNPT加盟国(非核兵器国)のうち、核兵器を作れる可能性のある技術を持っているのは日本だという事実を、世界は見逃していません。
◇今こそタブーを捨てるべき
アメリカでもこの協定ついて、議会で議論されていますし、日米原子力協定は危険だという政治家も多数います。最近のニュースメディアではアメリカ大統領選の討論中にも出てきますし、日本が保有するプルトニウムについての記事も頻繁に目にします。
ではなぜ日本では議論に持ち上がらないのでしょう。
今後2018年までに、新エネルギー政策の一貫として選挙の論点になってもいいかもしれません。
原子力発電所の再稼働に反対するなら、日米原子力協定を延長しない方向を選ぶ議論に発展してもいいとおもいます(原子力発電所にける発電の過程で、プルトニウムが生まれます。)。
これらが議論にあがらない一つは、日本の国民性と、そして被爆国として、核兵器について話してはならない雰囲気かもしれません。
しかし2020年の東京オリンピック前である2018年が近づく中、プルトニウムやこれらの施設の保有以外に、もう一つ世界が注目すべき点が
あります。それはこれらの施設およびウランやプルトニウムが国際的なテロリストに狙われないかと言う事です。
軍を持たず、先制攻撃ができない日本にこれが守れるでしょうか。
原子力発電所の問題以上に議論すべき事象ではないでしょうか。
NPTに加盟していながら、万が一テロリストに原発や六ヶ所村が占領されて、ウラン、プルトニウムがテロリストや第3国にわたったら世界はどうなるでしょうか?(2016年3月、ブリュッセルで起きたテロ攻撃では、原子力発電所への攻撃が計画されていました。)
◇これから日本が議論するべきこと
まずは議論をしなければ始まりません。日米原子力協定を終了し、原子力発電所をすべて廃炉へ、そしてクリーンエネルギーに移行することだってできますし、2018年以降もこの協定を延長して、NPT加盟国、唯一の被爆国として、原子力エネルギーの平和利用を世界に推進していく事も当然の選択肢です。
この協定が世界から注目を浴びている事は疑いようのない事実であり、それは核兵器を作る事が可能な技術が含まれている事、加えて日本はロケットの技術があり、それは核弾頭を搭載したミサイルを作る事が可能だという事、テロリストからの脅威、プルトニウムを他国に保管することについても含め、世界が懸念していることは多数あるということです。
筆者は偶然、ハーバードケネディースクールのシンクタンクであるベルファーセンターのゲイリーセイモア所長(日米原子力協定の交渉に関わった人物)に日米原子力協定についての意見を聞く機会を得ました。
彼曰く、日米原子力協定は延長すべき、そして世界が抱える不安について、日本政府がきっちりと説明するべきだと(平和利用に特化する)、現在のところテロリストの脅威からこれらを守れているが、そのことについては再確認しなければいけないと言っていました。
現在の日本政府は原子力エネルギーを平和利用に貢献していく方針(原発輸出)ですが、原発輸出は核拡散につながるとの懸念もあります。
使用済核燃料の再処理及びウラン濃縮の技術を持つ特別な地位が与えられている日本ですが、2018年以降、引き続き日米原子力協定を維持していくべきかどうか、そして日本という国が歩んできた歴史にもう一度日の目を立てる機会になり、多くの人々が原発賛成、反対の二元論に収まらず、「核エネルギーの世界情勢の枠組みの中に存在する日本」という、広い視点で物事を議論できるようになれればと思います。
■編者:北原 秀治(きたはら しゅうじ)
日本政策学校 第2期生、オーガナイザー
博士(医学)。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院博士研究員。専門は解剖組織学、癌研究。日本政策学校、ハーバード松下村塾(通称ボーゲル塾)で政治を学びながら、「政治と科学こそ融合すべき」を信念に活動中。
謝辞:本記事の執筆に関わってくださった皆様、この誌面をもちまして多大なるご貢献に感謝の意を申し上げます。
【参考文献】
1:核兵器不拡散条約(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/gaiyo.html
2:日米原子力協定
https://ja.wikipedia.org/wiki/日米原子力協定
3:海外からの反応
a:http://edition.cnn.com/2016/03/25/politics/nikki-haley-japan-plutonium-shipment-south-carolina/
b: https://www.rt.com/uk/331776-british-ships-nuclear-plutonium/
c:http://edition.cnn.com/2014/03/25/world/asia/us-japan-nuclear-fuel-deal/index.html
d: http://www.cnn.com/2015/09/20/opinions/japan-military-opinion-berger/
e: http://www.bbc.com/news/world-asia-26716697