PRESENTED BY NTT西日本

生成AIが自治体の業務を効率化。ニーズの多様化、人口減少…NTT西日本が山口県の課題解決をめざす

NTTが開発する大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi」の強みは、比較的安価なGPUサーバで動作可能であり、自社にサーバを構築するオンプレミス環境で扱えること。クラウドに上げることができない個人情報等の取り扱いに注意が必要なデータを扱う業務への活用が期待される。

生成AIビジネスが急速に成長している。生産年齢の人口減少が進む日本では、企業や自治体の業務効率化は必須であり、さまざまな領域で生成AIの活用が期待される。

生成AIの活用を試みている自治体の一つが山口県だ。2024年度にNTT西日本とともに、NTT版大規模言語モデル(LLM※1)「tsuzumi※2」の実証実験をスタートさせた。地方自治体はどのように生成AIを活用できるのか?tsuzumiの実証実験を担当する、山口県の内田哲志さん、NTT西日本の宇野鉄郎さんと岡野宏佑さんを取材した。

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左から、NTT西日本エンタープライズビジネス営業部デジタルビジネス推進部門デジタルデータビジネス担当の岡野宏佑さん、同担当課長の宇野鉄郎さん、山口県総合企画部デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課ネットワーク班 班長の内田哲志さん
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県民ニーズの多様化と人口減少。自治体にDXは不可欠

── 山口県では生成AIの活用をはじめ、積極的にDXを推進してきました。その背景は?

内田さん(以下、内田):昨今は県民のニーズが多様化し、これまでにない相談が寄せられています。人口減少に伴い人的資源が限られる中で、一人ひとりが業務を効率化し、幅広い業務に当たる必要があります。

そのために、やはりデジタル技術の活用は避けられません。その一環として、生成AIを用いて、さらなる業務効率化に取り組んでいます。 

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内田さん
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── これまで、どのようなDXに取り組んできましたか?

内田:2021年には、やまぐちDX推進拠点の「Y-BASE」をNTT西日本とともに開設しました。NTT西日本は、DXによって地域に新たな価値を創出する知見をお持ちです。その知見を山口県でもいかしたいと考えました。

宇野さん(以下、宇野):NTT西日本は、地域の活性化およびDX推進を大きな社会課題として捉えています。その解決方法の一つとして、地域のみなさまとDXを推進し、新たな価値を創造するための共創空間として「LINKSPARK(リンクスパーク)」を開設し、デジタルを活用した地域の課題解決を推進しています。

「山口県にも、そのような場をつくりたい」と山口県からお声がけいただき、弊社のDX推進拠点の立ち上げ・運営ノウハウを活かしてサポートさせていただき、開設したのがY-BASEです。Y-BASEでは、山口県内の自治体や企業のDXを推進するために、コンサルティングや情報発信、コミュニティ運営をしてきました。

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宇野さん
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オンプレミス環境での生成AIで業務効率化を加速

── 新たにtsuzumiの実証実験も始まりました。どのような経緯があったのでしょうか?

内田:山口県では、2024年度から、NTT西日本とともに運営等に取り組んでいる「Y-BASE」のクラウドシステム「Y-Cloud」を活用した県独自の生成AIを実証し、本格導入しております。ただ、これまで使用してきた生成AIサービスは、外部のクラウドサービスを活用していることから、ガイドライン上、利用範囲が限られていました。

NTT版LLMであるtsuzumiなら、その課題を解決できるかもしれないとNTT西日本から提案があり、2024年10月から新たに実証実験を開始することになりました。 

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NTTが開発する大規模言語モデル「tsuzumi」を活用した実証実験のイメージ。機微なデータを扱う業務の対応記録の要約・校正や、各種業務マニュアルの検索・要約等を想定している

── tsuzumiはどのような生成AIですか?

岡野さん(以下、岡野):tsuzumiは、NTTが開発する国産の大規模言語モデルです。一般的なクラウド提供型の生成AIと最も異なる点は、オンプレミス※3でクローズドなシステム環境に構築できるということ。

クラウドLLMと比べてパラメータサイズが小さいため比較的安価なGPUサーバ上で動作ができ、自治体庁内のオンプレミス環境で生成AIの機能を使うことが可能です。

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岡野さん
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tsuzumiは日本語のデータを多く学習していることも特徴です。そのため、日本語の要約等は非常にマッチしていますし、チューニングといって、追加学習によって業界やタスクに特化したモデルを作成できることも強みです。自治体だけではなく、医療や大学等、業界や業務に特化したモデルを作成することができます。

県民からの相談内容を要約。tsuzumiが活躍する業務

── 具体的にどのように活用されるのでしょうか?

岡野:県民からの相談内容の要約や、山口県庁にしかないデータを使用したチャットボット作成等が候補に上がっています。クラウドに上げることが適切ではない機微なデータを扱えるという特徴があるので、個人情報等を扱う業務に活用したいですね。

内田:特に相談業務は、多くの部署で行われており、1件につき2時間ほど対応することもあります。まだ検証段階ですが、相談後、職員が内容をまとめる時間を短縮できればと思います。

生成AI導入から、職員の勉強会までサポート

── 生成AIの導入にあたり、苦労されたことはありますか?

内田:実は、私は2024年4月に異動した当時、生成AIを使ったことがありませんでした。異動後、生成AIに関する疑問が出てきた際には、NTT西日本のみなさまに非常に親切に教えていただきました。山口県では、デジタル領域の知識を持つ職員を採用してDX政策を進めてきましたが、より専門的な知識をもつ組織外の人々のサポートはどうしても必要です。

── どのようなサポートをしてきたのでしょうか?

宇野:山口県さまの生成AIのご提供にあたっては、デジタル・ガバメント推進課さまと連携し、職員のみなさまへの勉強会やプロンプトエンジニアリング研修、利活用ワークショップ等を実施してきました。今回の実証実験においても、デジタル・ガバメント推進課さまおよび各実証テーマの原課のみなさまとの綿密なコミュニケーションを図りながら、実証を進めております。

Y-BASEでも、自治体・企業の課題解決に寄り添う支援をしております。デザイン思考の実践、官民連携デジタルコミュニティ(デジテックfor YAMAGUCHI)の運営や、DXコンサルティング、デジタルガバメント構築支援等、包括的な支援を行っております。必要であれば、自社以外のサービスを含めてご紹介することもあります。

NTT西日本は電話や光回線の会社というイメージを持っている方も多いと思いますが、DXを任せられるコンサルティング担当として、支援させていただきたいと思っています。

生成AIでやさしいデジタル社会を実現

── 生成AIを今後どのように活用したいですか? 

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内田:今からDXを進めないと、10年後、20年後、多様な業務に対応できなくなる時が来ると思っています。将来を見据え、山口県庁でのDXおよび生成AI活用等を進めながら、山口県内の自治体や民間企業にも広げていきたいです。

ただし、生成AIが全て業務を担えるわけではありません。話を聞いて共感する相談業務等は、現場で対応する職員でないとできません。生成AIで業務効率化し、職員が県民に寄り添う時間をつくることで、みんなにやさしいウェルビーイングなデジタル社会を実現できると考えています。引き続きNTT西日本や関係機関と連携していきたいです。

岡野:軽量な国産の生成AIモデルは数少なく、強みのひとつだと思っています。ぜひ信頼していただき、機微なデータを扱う業務等で使っていただきたいです。

宇野:生成AIは今後ますます世の中に大きなインパクトを与えていくと考えています。山口県の実証実験で得たノウハウをいかし、tsuzumiをはじめとする生成AIを、山口県さまの多くの業務に適用できるよう、伴走支援していくとともに、山口県さま以外の自治体、民間企業における業務への活用支援を進めていきたいです。

***

現在、NTT西日本ではtsuzumiを使って、医療や警察の業務、人事データを取り扱う業務等でも実証を進めているという。今後さまざまな領域で、tsuzumiの活躍が見られるかもしれない。

※1 LLM(大規模言語モデル、Large Language Models)とは、大量のテキストデータを使って学習された言語モデルで、言語の理解や文章の生成に優れた能力を持ちます。

※2 tsuzumiはNTT版大規模言語モデルです。日本語の処理性能を重視し、独自の大量のテキストデータを使って学習された言語モデルになります。
URL:https://www.rd.ntt/research/LLM_tsuzumi.html
「tsuzumi」は日本電信電話株式会社の商標です

※3 オンプレミスとは、クラウドではなく、サーバーやネットワーク機器等を自らで保有し運用するシステムの利用形態です。インターネットに接続しないクローズドな環境を実現可能になります。

(撮影=N.Y. 取材・文:Kayuko Murai 編集=磯村かおり)