NPT再検討会議、最終文書を採択できず決裂
ニューヨークの国連本部で開かれていた核不拡散条約(NPT)再検討会議の最終全体会合が22日あり、フェルキ議長は「努力を尽くしたが、会議は最終文書を採択できなかった」と述べた。世界の核軍縮と核不拡散、原子力の平和利用について協議するため先月27日に始まった会議は、主に中東非核地帯構想をめぐって加盟国間の対立が解消しないまま決裂。成果を残せず閉幕した。
5年に1度開かれるNPT会議が、最終文書の採択に失敗するのは前々回の2005年以来。決裂により、世界の核軍縮が停滞するおそれがある。
この日、米国や英国などが、中東非核地帯構想を記した部分を理由に最終文書案に不同意を表明した。
フェルキ議長がまとめた最終文書案には、中東非核地帯構想についての国際会議を来年3月1日までに開くことを国連事務総長に委ねることが盛り込まれ、「全中東諸国が招待される」と明記された。事実上の核保有国とみられているイスラエルが、中東で唯一NPTに加盟していないことを問題視するアラブ諸国が長年訴えてきた構想だ。
米オバマ政権で核軍縮・不拡散政策を担うゴットメラー国務次官は、最終文書案に「同意できない」と明言。中東非核地帯構想で「柔軟性を見せなかった国々が批判されるべきだ」と述べ、エジプトを名指しで批判。理由として、会議開催の条件として「コンセンサス(全会一致)」の文言が盛り込まれなかった点を挙げた。会議が開かれればアラブ諸国がイスラエルを激しく非難するのは必至。米国は、同盟国イスラエルに配慮したとみられる。
英国代表は中東非核地帯構想の交渉だけが「私たちの障害だ」と発言。カナダ代表も、期限を設けるやり方は「実行不可能だ」と述べて米国に同調した。
一方、エジプトは「数カ国が、特に米国が最終文書の採択を止めている」と批判。中東の非核化に向けた取り組みが妨害されたとして、全会一致の仕組みの「乱用だ」と痛烈に米国を批判した。中東非核地帯構想は、1995年にエジプトなどがNPTの無期限延長を受け入れたときに「交換条件」のようにして採択された中東決議に盛り込まれた。しかし20年が過ぎても非核地帯は実現せず、エジプトなどは大きな不満を募らせてきた。
日本の杉山晋輔・外務審議官は演説で、「私たちは最終文書の全会一致での採択に向けあらゆる努力をしてきた。採択できなかったことは大変残念だ」と述べた。(ニューヨーク=金成隆一、松尾一郎)
米ニューヨークの国連本部で開かれた核不拡散条約再検討会議の最終全体会合=22日、松尾一郎撮影
(朝日新聞デジタル 2015年5月23日11時37分)
被爆者に失望・憤り広がる NPT再検討会議の決裂
私たちが生きている間に核兵器廃絶はできないのか――。核不拡散条約(NPT)再検討会議が決裂した。核保有国の反対で「核兵器禁止条約」の文言などが削除された最終文書案さえも採択できず、被爆者に失望や憤りが広がった。
参加国に核兵器廃絶の願いを届けようと渡米した広島県原爆被害者団体協議会(坪井直理事長)の箕牧智之(みまきとしゆき)副理事長(73)=同県北広島町=は「がっかりだ。この怒りをどこにぶつければいいのか」と憤った。
現地で被爆体験を証言し、市民には思いが伝わったという感触はあった。だが、最終文書案から核兵器禁止条約の文言が削られるなどし、「核保有国との溝は予想以上だ」と感じていた。その文書案も米国などの反対で採択されず、「5年に1度の人類の生き残りをかけた会議のはずなのに。オバマ大統領がノーベル平和賞をもらった米国がどういうことなのか。私たち被爆者の命も残りわずか。生きている間に核兵器廃絶はできないのだろうか」と失望した。
(朝日新聞デジタル 2015年5月23日13時49分)