ソーシャルセクターに出戻り? NPOにある独特の"ワクワク感"とは

企業に勤めながら、週末などにプロボノ(スキルやノウハウを活かしたボランティア)の活動をする「パラレルキャリア」を続けるのではなく、なぜ振り切ってNPOに専従となったのか。
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■ソーシャルセクターに"ワクワク感"があったから

「新しいソーシャルな働き方」をしている人をインタビューしていく本企画。今回お話をお聞きしたのは、NPO法人グリーンズの植原正太郎さんです。

大学時代から積極的にNPOと関わり始めるも、ソーシャルメディア・マーケティングのスキルを学ぶため、デジタルマーケティングのコンサルティング会社にインターンを経て、新卒入社。約2年半ほど経験を積み、この11月からNPOに正社員として転職した方です。

企業に勤めながら、週末などにプロボノ(スキルやノウハウを活かしたボランティア)の活動をする「パラレルキャリア」を続けるのではなく、なぜ振り切ってNPOに専従となったのか。

そのきっかけとなったのは、タイミングと"ワクワク感"、2000年代後半にあった「社会起業ブーム」だったようです。NPOやボランティアなどに興味があるビジネスパーソンは必見です。

■いつかは戻りたいと思っていたのかもしれない

安藤:まずは経歴からお聞かせ下さい。

植原正太郎さん(以下、植原):大学からいいますと、2007年に慶応義塾大学に入学しました。履修(授業選択)のミスにより3年の進級テストがパスできず2度目の2年生をすることになって途方に暮れていたのですが、実質3年生だったので就職について考えていました。

ちょうどその頃、社会性の高い事業を立ち上げる「社会起業家」が書籍を出版したり、メディア露出が増えたりしソーシャルビジネスが話題となり自然と興味を持つようになりました。

今までまったく考えたことがなかったけど、こんな働き方があるんだなと。それで「ETIC」というNPO支援の団体を通じて「日本ブラインドサッカー協会」という団体に出会い、インターンを始めました。

デジタルまわりの広報担当として1年半ほどインターンをさせていただきました。その頃から、ソーシャルメディアって面白いなぁと実感していました。

ソーシャルセクター(非営利領域)における、ソーシャルメディアのインパクトの大きさも学んでいたというのもあり、就職先はソーシャルメディアに関わることがしたいと、漠然と考えて始めたんです。

NPOでのインターン後には、デジタルマーケティングのコンサルティング会社でインターンを開始。当時は、新卒採用をしていなかった会社なのですが、知り合いの紹介で、まずはインターンをさせて下さい、と直談判しにいきました。

「使える人間だったら来年から働かせて下さい」と。そして2ヶ月インターンをして、内定もらって僕の就活は終了となりました。会社でのインターンの後は、知人の紹介で今回の転職先となるNPO法人グリーンズ運営のウェブ・マガジン「greenz」のライター・インターンを始めました。

そこが、グリーンズと出会ったきっかけですね。卒業までの半年間くらい、学生ライターとして活動をしました。

2012年4月に、デジタルマーケティングの会社に予定通り入社し、アナリスト(リサーチャー)として様々な業務をしながら、YouTubeやLINEといったSNSのサービス開発を新規プロジェクトとして担当させていただいていました。そのきっかけで書籍も出版させていただきました。

で、今回転職して、事業会社からまたNPOに戻ってきたという感じです。11月から正式にジョインします。心のどこかでは、事業会社に勤めつつも、NPO(ソーシャルセクター)に、いつかは戻りたいと思っていたのかもしれません。

たまたま今年に入って、グリーンズの方からお誘いをいただき、今の会社もすごく好きなのでかなり迷いましたが、転職することにしました。20代半ばで小規模NPO法人に転職ってなかなかいないかもしれませんね。

■事業会社にはない独特の"ワクワク感"

安藤:NPOの正社員って事業会社の転職と感覚が違うと思うのですが、転職を決めたきっかけは何ですか?

植原:元々、いつかはソーシャルセクターに戻りたい、という気持ちもあったので、NPOに転職すること自体は障壁になりませんでした。転職を決めたきっかけは、「タイミングよく、やりたいことが見つかった」ということでしょうか。

ソーシャルセクターの寄付・決済のシステムが日本ではあまり発達しておらず、このあたりの課題解決に動けないかなと、去年くらいから考えていたんです。そうした時に、まさにドンピシャの寄付プログラム担当という仕事のお誘いがあったので決めた、という感じです。偶然ってあるんだなと。

大学時代のインターンをした時に感じた、「社会を動かしている」、「インパクトを出している」というあの感覚は、事業会社にはない独特のワクワク感を経験していたので、スキルをつけたいつかはソーシャルセクターに、という気持ちにつながっていたんだと思います。

ただ、前職でデジタルマーケティングを勉強できたからこそ、それが自信になったみたいな部分ももちろんあります。NPOから何年も離れていたからこそ、そのワクワク感を改めて感じたというか。チャレンジするなら20代しかないと。

安藤:社会人になってからもプロボノをしていたのに、それだけでは満足できなかったということですか?

植原:満足と言うか、「プレイヤーになりたい」という気持ちが強かったのかもしれません。NPOをプロボノで支援するのを社会人になってから少しずつしていたのですが、支援する側ではなく、プレイヤーとして現場で活動したい、と。コンサルタントではなく、事業会社側に行ってみたかったというか。

■ビジネスセクターとソーシャルセクターの"入口の違い"

安藤:ビジネスセクターからソーシャルセクターへと業界をガラッと変えたわけですが、まわりの反応はいかがでしたか?

植原:大学時代にNPOでインターンしていたというのもありますし、社会人になってからもプロボノを継続していたので、まわりからは「おかえり」的な感じもありました。特に学生時代お世話になった人とかは、そういう反応が多かったように思います。

安藤:ビジネスセクターからソーシャルセクターにきて、一番感じた違いって何ですか?

植原:職業に対する価値観みたいなものが違うのかもしれません。ソーシャルセクターの仕事は使命感というか、好きでないと続けられないようなイメージがあります。逆に、その仕事が好きな人には天職なのかもしれませんが。まぁ、これはセクターの差でもない気もしますが、現状、そんな空気感を感じています。

特にgreenzのまわりには、そういう人が多いというのも影響として大きいです。個人でやりたいプロジェクトを作って、副業や本業として活動する人たちが多いコミュニティですから。

そう考えると、そもそも、NPOの活動が好きでないとソーシャルセクターには来ませんよね。多くの人は学校を卒業したらビジネスセクターに就職ですし、転職すると言ってもビジネスセクターですよね。そういう"入口の違い"はあるかもしれません。

■勤務時間ナシ、勤務場所ナシ、公私混同アリ

安藤:では働き方についてお聞きします。勤務形態は前職と変わりますか?

植原:180度変わります。法人とはいえ数人しかいないNPOですし色々自由です。決まった勤務時間・勤務場所もないし、公私混同をよしとする空気があるし、事務所に誰もいない場合も多いです。自由過ぎて逆にルールが欲しいくらいです。この自由さに慣れるには時間がかかりそうです(笑)

僕が4人目の社員なのですが、他のスタッフはそれぞれが鹿児島、千葉、東京に住んでいます。ミーティングや社内コミュニケ--ションのメインはウェブのコミュニケーション・ツールとなっています。典型的なノマドワーキングです。

こういうワークスタイルの小規模NPOはどこもそうだと思うのですが、ミッション(団体理念)とか使命感を持っていないと、物理的な距離の差から気持ちも離れてしまいそうになります。

ミッションに共感し、自分のポジションを理解しているからこそ、成り立つワークスタイルだと思います。やりたくなくない、給料のためだけの仕事でこんな勤務形態だったら、絶対仕事しないですよ。やりたい仕事でなければ、公私混同とかもハード過ぎですから。

本業をしつつも定期的なプロボノ活動や、平日夜や週末にボランティアをする「パラレルキャリア」という考え方もありますが、僕の場合はそっちは難しいかなと。

リスクとって、片方のセクターに振り切ったからこそ、見えてくることもあると思うんです。もちろん、どちらが正しいとかの話ではなく、自分だったらどう捉えるか、という話です。

「振り切った」のは20代のうちにチャレンジしたかったから。パラレルキャリアやプロボノという本業と社会貢献活動というスタンスではなく、本業そのもので社会貢献という形です。こっち側にきたからには、それなりの結果を残さなきゃ、という思いは強くあります。選択と集中というか。

■善意を仕組みでサポートするという枠を作ること

安藤:ロールモデルっていますか?

植原:まだ具体的なイメージがないのですが、NPOマネジメントラボ・代表の山元圭太さんがモデルの1人ですかね。山元さんは、ビジネスの現場経験もNPO法人の経験も何年もあり、自分の中に溜めたノウハウと実績をもってNPOの支援側にまわった人です。

ビジネスセクターのノウハウをもって直接NPO支援にまわる方々もいますが、山元さんの場合は現場もしっかり経験してからNPO支援にまわっており、僕の目指すキャリアにかなり近いのかなと思っています。

ロールモデルではないですが、今後のキャリアとしては3つあると思っています。一つ目は山元さんのように「NPO支援」をする人になること。二つ目は、NPOでの経験を踏まえ「プロのファンドレイザー」(資金獲得担当)になること、三つ目は自分で新しい「NPOを立ち上げる」こと、という3つが考えられます。

安藤:ちなみに今一番イメージに近いキャリアはどこでしょうか?

植原:まだ転職したばかりですし詳しく言えないのですが、自団体の寄付領域を担当することになっているので、そのあたりをまずはしっかりと作っていくという段階です。

目標とするキャリアはなくはないですけど、ソーシャルセクターに来たばかりだし、まずは現場で結果を出すこと。きちんと自団体の寄付関連の仕組みを強化し、皆さんの"善意"を、仕組みやコミュニティでサポートする枠組みを作っていきたいです。

そもそも、僕たちがなぜ寄付を積極的に集めるかというと「寄付で成り立つメディア」を作るためです。会員の皆様が寄付をいただき、広告にとらわれない自由なメディアを作りたいという考えが根底にあり、今回、僕がその寄付会員獲得の担当者になったと。

寄付会員が増えて、寄付金で運営できるようになると、今よりも自由度の高い面白いことができるようになります。運営を考え過ぎて、"広告を取るため"のメディアにしてしまうのはもったいないですよね。本来、広告のためではなく、何かを伝えたいと思ってメディアを立ち上げたはずなのですから。

まだ現場経験が少ないのもあり、5年後以降のキャリアとかイメージできないですが、まずは任されている自団体の「寄付会員獲得」で結果を出すことを目指しがんばりたいと思います。

【協力:CSRビズ