サイボウズ式:斬新なサービスで「働くこと・遊ぶこと」の選択肢を増やしたい──重度障がいの起業家たち

株式会社仙拓代表取締役社長の佐藤仙務(ひさむ)さん、副社長の松元拓也さん。Webサイトやデザイン名刺の制作、アプリ開発、カウンセリングなどの事業をしている。
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左より株式会社仙拓代表取締役社長の佐藤仙務(ひさむ)さん、副社長の松元拓也さん。Webサイトやデザイン名刺の制作、アプリ開発、カウンセリングなどの事業をしている。愛知県在住のお二人のほか、筋ジストロフィーの重度障がいメンバー2人が大阪と埼玉で在宅勤務をしている。

10万人に1人の難病「脊髄性筋萎縮症」で重度の障がいを持つ19歳と22歳の若者がつくった株式会社仙拓。代表の佐藤仙務さんと副社長の松元拓也さんに、設立の経緯や事業の拡大について伺った前編に続き、後編では現状と理想、未来に向けての活動について伺った。重度障がい者の起業、雇用を実現し、役員報酬を4年で25倍にした彼らが描く次なるステージとはどのようなものなのだろうか?

役員報酬は4年で25倍に増加

渡辺:役員報酬は、月額1万円から25万円ぐらいになっているそうですね。事業が発展しているというところですか?

佐藤:そうですね。1年目、2年目、3年目よりは良くなってはいます。とは言っても、給料を毎月安定してもらうというよりは、お金が入ってきたときに、もらっている感じです。まだまだ安定はしていないですね。

渡辺:積極的に営業活動をされていますよね? 青野(サイボウズ社長)にもFacebookで呼びかけていただき、ありがとうございました。

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佐藤さんとskypeで会話するサイボウズの青野社長。仙拓の顧問として経営のアドバイスにのっている。

渡辺:ちなみに、お二人はいつごろサイボウズを知ったのですか?

佐藤:2014年からです。共同事業をしているエクセリーベという会社がサイボウズの大ファンでサイボウズLiveを一緒に使い始めたのがきっかけで知りました。無料でここまでのサービスっていうのはすごいなぁと感動しました。

松元:ほんとにすごく利用させてもらっています。

発想も行動も互いに自由にする

渡辺:お二人の違う部分が組み合わさっていい形になっているようですが、チームとしてはいかがですか?

松元:仙拓としては、うまく回っていると思います。性格はもう一切合わないんですけどね(笑)。その面においては、問題なく、かな。

渡辺:そういうパートナーに巡り会うというのも、素晴らしいですね。佐藤さんはいかがですか?

佐藤:人がだんだん増えていって、最近思うのは、やっぱり松元さんとはやりやすいですね。自由にやらせてくれるんで。

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佐藤さんは彩図社より『寝たきりだけど社長やってます』を出版している。

渡辺:自由というキーワードがでましたね。本でも、固定観念やレッテルを自ら取り除いたことや「病気や障がいを理由に働くことを諦めている人たちに、自分たちのことで証明したいんだ」というお二人の想いが書かれていましたね。

松元:縛られることが好きじゃないので、とにかくお互いに自由にしています。発想であったり、行動であったり。それを二人で共有できているのが、大きいんじゃないかなと思いますね。

佐藤:当初、アプリ「歯みがき日和」も松元が「作りたい」と言ったときに、僕はためらいがあって「どうしようかな」と思ったんですよ。「仙拓で出していいものか?」と悩みましたが、やっぱり僕は自由にやらせてもらっているので、彼も自由にやってもらおうと思いました。

障がい者の生活基盤を次のステージに上げたい

渡辺:障がい者雇用を進めていきたいという理想があると思いますが、どんなことを描いているのですか?

佐藤:そうですね。障がい者雇用を進めていきたいという想いもあるんですけど、障がい者雇用は、あくまでも目的ではなくて手段だと思っています。今回のアプリじゃないですけど、みんながあまり想像できない斬新なサービスや、みんなにちゃんと「便利だな」と思ってもらえるようなサービスを作っていきたいです。

渡辺:松元さんはいかがですか?

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障がい者の選択肢を増やし生活基盤を上げたいと語る松元さん。

松元障がいを持っている方々の生活基盤を次のステージに上げるところを目指していかなければならないと思っています。生活すること、働くこと、遊ぶこともそうです。その中で、選択肢をもっともっと広げられるような世界、生活にしていきたいなと思います。

渡辺:障がい者の所得倍増議員連盟で講演されるそうですが、政治面でも働きかけをしているのですか?

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参議院会館で開催された「障がい者の自立のために所得向上をめざす議員連盟(障がい者所得倍増議連)総会」でskype講演をする佐藤さん。

佐藤:そうですね。政治家の方との関わりも増えています。今日本ではなかなか障がい者が会社を起こして仕事をするケースが、想定されてないのです。会社で雇用され働く上では補助とか助成があるんですけど、自分で会社を持つと国からは何のサポートもない状況です。

障がい者が起業するケースもあるということを発信し、同じように「会社を起こして仕事をしよう」と思った方がもっとしやすいようにしたいなと思い、そういう働きかけをしています。

渡辺:読者に伝えたいことがあれば教えてください。

佐藤:僕らの場合は、なかなか外に出て自分たちを宣伝することが難しいので、こうやって取材していただき、皆さんに知ってもらえると嬉しいです。

今若い人は、なかなか就職が難しいと言われていますよね。多分そういう状況になっちゃうと、「自分が一番大変だ」と思うかもしれませんが、「こういう人もいるんだよ」ということを知ってもらうと、ちょっと余裕が出るのかなと思います。そういった意味でも、知ってもらえたらいいです。

渡辺:ありがとうございます。松元さんはいかがですか?

松元:起業して仕事をしていくと、目線が当事者から知らないうちに違う次元に変わってしまうこともあるかもしれません。本当に初心の気持ちを忘れず、当事者の思いを代弁する気持ちは変わらずに続けていきたいです。皆さん応援してください。

渡辺:貴重なお話をありがとうございました。

(サイボウズ式  2015年3月12日の掲載記事「重度障がい者も会社をつくれる──19歳で起業した寝たきり社長の挑戦」より転載しました)

撮影:三澤 武彦  文:渡辺 清美