9月のノルウェー統一地方選挙の取材中、筆者は多くの子どもと若者たちに出会った。政治や選挙の現場に、どうしてこんなに若い人がいるのか?彼らはどうして、こんなにも楽しそうなのか? その驚きは毎日続き、出会う人々に、「どうしてそんなに政治に熱心なの?」と自然と聞くようになっていた。
ハフィントンポスト 日本とは違う、なぜノルウェー選挙運動は「祭り」のように楽しい?
その中で出会った一人が、今回の地方選挙で、労働党とともに異例の大勝利を収めた緑の環境党(MDG)にいた。石油産業に依存することをやめ、環境を考慮した緑の政策を掲げるこの若い党は、どこの政党よりも、今期大きな注目を集めていた。
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ノルウェーの政界で、台風の目となっている61歳の政党党首(左)が、26歳のダニエルセンさん(右)のアドバイスに素直に耳を傾けている姿は印象的だった。そこに、上下関係や年の差を感じさせる空気はなかった Photo:Asaki Abumi
筆者が出会った1人が、党首の片腕として、専属広報顧問を務め、国会議事堂で働く26才のアンネシュ・シール・ダニエルセンさんだった(1989年生まれ、Anders Skyrud Danielsen)。学業に励む期間が日本より長めのノルウェーでは、大学卒業の平均年齢が27歳。ダニエルセンさんの年齢で、このような役職に就いている人は稀だ。
どうして政治に熱心なのか、彼の姿勢は、ほかの若者にも共通するものがあるのではないか。深く聞いてみたいと思い、インタビューをお願いした。
※平等を重んじるノルウェーでは、目上の相手でも、名前で呼ぶことが普通のため、本人の回答通りにラスムスと明記。
緑の環境党で働き始めたきっかけは?
党首のラスムス・ハンソン(Rasmus Hansson)の顧問として働き始めたのは2015年の3月。それまでは2年間、同党の青年部で総書記をしていました。党員となったのは2011年8月(当時22歳)。
2011年7月に起きたノルウェー連続テロ事件では、ウトヤ島での犠牲者や生存者に知人がいました。その中には、同郷の親しい友人も含まれていました。
この事件は私を大きく揺さぶることになり、よりよい未来と開かれた社会に向けて戦っていくことに、自分のこれからの時間を使いたいと思ったのです。
どのようなお仕事をされているのですか?
党首のハンソンに、広報全般に携わる助言をしています。異なる現場でラスムスがなにを話すべきかアドバイスをし、報道機関の窓口ともなっています。
ラスムス(61歳、1954年生まれ)は、党首でもあることから、連日メディアからの取材が殺到し、議会での膨大な仕事に追われている。今、ノルウェーでの報道で、彼の顔を見ない日はないほどだ。
上司との仕事はどうですか?
ラスムスはありのままに発言をしてしまう人です。人によっては、正直すぎる上司と働くのは難しいと考えるようですが、私はやりがいを感じています。野外活動、犬、魚釣りなど、共通の趣味が多いので、おしゃべりできるテーマがたくさんありますよ。
選挙運動期間中のオフィス Photo:Asaki Abumi
緑の環境党の本部オフィスを訪問したとき、若い人が非常に多い印象を受けたのですが、20代の方々ばかりですか?
オフィスにいた人たちは、20代半ばのスタッフ。党員と投票者の平均年齢も、圧倒的に若い党ですよ。ラスムスには5人の広報や政治専門の顧問がいますが、最も若くて26歳、最年長は33歳なので、平均年齢が29,8歳です。
若者が選挙に活動的なことについて、どう思いますか?
民主主義にとって、非常にポジティブで大事なことです。若い人は、物事の決定に一緒に参加する権利があるべきです。
若者の選挙参加が大事な理由がもうひとつあります。民主主義の礎(いしずえ)として、統治者は、統治される者を、反映する鏡であるべきだからです。
そのためには、リーダーたちは、幅広い人々で成り立つべきです。年配男性だけではなく、若い女性、少数民族を背景に持つ人、障がいのある人も、リーダーに含まれているべきです。その数が多いほど、民主主義は強くなります。
社会システムを機能させるために、若者の早い時期での政治参加は、ノルウェーでは重要です。
今週、緑の環境党では、南部ローガラン県にある青年部の代表として、15才と17才の2人を選出しました。若い人の考えを理解するために、我々にとって大事な見識者となります。若者も住民なのだから、政治家になれるべきでしょう。
将来の夢は?政治家になりたいですか?
来る者は拒まず。今は現職を楽しんでいます。目標は、次の世代のために、自然と共存した緑の政治を目指して、仕事を続けること。そして、異なるものの存在を許容する、開かれた社会を夢見ています。
「民主主義の礎(いしずえ)として、統治者は、統治される者を、反映する鏡であるべき」、という言葉が印象的だった。日本の首相と現政権は、国民を反映する鏡となれているだろうか?はたして、異なる意見を持つ若い人の意見に、耳を傾けることができているだろうか?
Photo&Text:Asaki Abumi