世界の音楽市場は今デジタルへの移行が進んでいます。今回はノルウェー文化省の支援の下、ノルウェー音楽を世界へと発信する音楽機関「ミュージック・ノルウェー」で広報として働くポール・ディッメン氏にインタビュー。今、ノルウェー音楽市場で何が起きているのかを伺いました。
ノルウェーで最大級の音楽フェスティバル「オイヤ」。ノルウェーとスウェーデン出身者による北欧大御所ユニット「ロイクソップ&ロビン」は日本でも人気急上昇中 Photo:Asaki Abumi
日本では全音楽の売り上げの85%が未だCDですが、ノルウェーではどうでしょうか?
ノルウェーでは逆の現象が起きています。国際レコード産業連盟IFPIの統計では、2014年のノルウェーでのデジタル音楽の売り上げは87%も占めています(ストリーミング77%、ダウンロード10%)。
CDやレコードで購入している12%は、年齢層が高く、クラシック、ジャズ、ロック、メタルという音楽ジャンルのファンが目立ちます。
ストリーミング配信サービスで最も人気があるのは、SpotifyとWiMP、特にSpotifyの影響力は圧倒的です。
デジタル化はノルウェー音楽市場にどのような影響を与えましたか?
デジタル化で音楽市場が最も苦戦したのは2000〜2005年頃でした(iTunesは2003年、Spotifyは2008年にノルウェーでリリース)。レコード会社の売り上げは激減し、ストリーミング配信で黒字をだせるようになるまで、時間もかかりました。今でも、以前よりも稼げずに苦労しているアーティストがいますよ。
ユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック、ソニーミュージックは最も大きな音楽会社で、ストリーミング配信によって、今は黒字となっていると発表しています。その反面、小さなアーティストはSpotifyなどでは、ほとんど収入を得ていないことも問題となっています。ノルウェーのメディアもその課題点を頻繁に取り上げていますね。
当初はSpotifyから音楽を削除することを選んだレコード会社もありましたが、最終的には多くがSpotifyに戻ってきます。今はストリーミング配信はマーケティング手法としては価値あるサービスとして捉えられているので、Spotifyに音楽があることは重要なのです。
ノルウェーの人々はどこで最新の音楽情報を入手しているのでしょうか?
ノルウェーで最も影響力がある音楽メディアは、トップランキング40を発表している「VG-lista」(ヴェーゲ・リスタ)です(ノルウェーの大手新聞社VGが提供)。WiMPとSpotifyのランキング も参考にされており、ミュージック・ノルウェー社でも、最もストリーミングされたノルウェー音楽の週間ランキング10を出しています。
ノルウェーには音楽雑誌がほとんどありません。あえていうなら『Gaffa』、『ENO』、『Scream』、『Metal Hammer』でしょうか。音楽サイトなら、「730.no」は重要なエンターテイメントチャンネルです。 「gaffa.com」、ノルウェー国営放送局NRKが提供するラジオ局P3の音楽チャンネル「P3.no」も支持されていますね。ノルウェーでは、ほかに新聞社各社が多くの音楽情報を配信しています。
アーティストはファンとどのように交流しているのでしょうか?
Facebook、Twitter、InstagramのSNSは、今や欠かせないコミュニケーションツールです。
CDの売り上げが激減したため、アーティストは経営面のために、これまでよりも多くのコンサートを開催する必要性に迫られています。コンサートは最終的にはファンとの交流の場になるのでプラスですね。
北欧音楽のくくりで、フィンランドなどの他国と異なる、「ノルウェー音楽」の特徴とは?
ノルウェーはジャズ、メタル、エレクトロニカなどの、「ニッチ市場」を得意としています。
特殊な音楽ジャンルに強いことが、北欧他国との違いかもしれません。日本の「AKB48」のような、アイドルグループという存在はノルウェーでは確立していません。
国際的に人気のある独特なアーティストの例をいくつか挙げるなら、
ジャズ: Jan Garbarek、Karl Seglem、Nils Petter Molvær、Karin Krog、Bugge Wesseltoft
メタル: Dimmu Borgir、Satyricon、Immortal、Enslaved、Mayhem、Darkthrone
エレクトロニカ: Röyksopp、Lindstrøm、Todd Terje
日本や海外で成功するノルウェー出身アーティストに、特別な特徴はあるのでしょうか?
日本で成功するアーティストはバラエティに富んでいます。M2M、Pogo Pops、A-ha、 Lene Marlin、Trine Rein、Leif Ove Andsnes、Nils Petter Molvær、TNT は、日本で受け入れられましたね。
面白いなと思ったのが、一部のシンガーソングライターが私たちの予想を超えて、日本で成功することです。Mats Lie Skåre(マッツ・リエ・スコーレ) は、西野 カナ、 EXILE ATSUSHI、倖田來未、平原綾香などに作曲しています。
作詞をするDsign Music社はアジア市場で好評です。一部のジャズバンドも、日本で頻繁にツアーをするようになりましたね。
日本にノルウェー出身のおすすめアーティストを5組紹介するなら?
ありがとうございました!
ノルウェーに住み始めて6年目となる筆者ですが、毎日Spotifyで音楽を聴いているため、店頭でCDは1枚も購入したことがありません。周囲の友人たちの間でも、音楽でCDを聴くという人は、いまや天然記念物!?
オスロ大学のメディア学科でも、「デジタル化で音楽市場はどう生き残っていくか」という話題は常にでますが、注目の的となるのはWiMPです。いまやオンライン配信は当たり前。マイナスに捉えず、どう共存して、ブランディングしていくかが今後の鍵となるのでしょう。
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11月20日(木)は、東京 原宿ASTRO HALLで「北欧MUSIC NIGHT」が開催予定