脱原発「経営者もめざそう」 老舗かまぼこ店"鈴廣"が投じる一石

神奈川県小田原市で創業150年を誇る老舗かまぼこ店の副社長が、脱原発を目指す企業経営者のネットワークを立ち上げている。技術や経験を共有し、省エネと再生可能エネルギーの利用を進める計画だ。
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Minao Ota

神奈川県小田原市で創業150年を誇る老舗かまぼこ店の副社長が、脱原発を目指す企業経営者らによるネットワークを立ち上げ、著書「エネルギーから経済を考える」を出版した。11月16日に東京都内で開いた出版記念会では「地域でエネルギーを自給する動きを進め、仲間を増やそう」と呼びかけた。

■「単なる原発の反対運動はしない」

鈴廣(すずひろ)かまぼこ」(神奈川県小田原市)の鈴木悌介副社長。直営店は休日には多くの観光客で賑わうが、東日本大震災の直後は客が激減。各地で放射性物質の飛散が報じられる中、安全を確認して工場の地下水を無料開放すると、今度は水を求める人たちが詰めかけた。

「安全・安心な暮らしがなければ経済は成り立たない」。原発の安全性や経済性に疑問を抱いた。

ところが経済界からは再稼働を求める声が上がる。知人の経営者らに呼びかけて2012年3月、「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(エネ経会議)を立ちあげた。会員は全国で288人にのぼる。

エネ経会議の狙いを、鈴木氏は会合でこう説明した。

私たちは、地域で仕事をさせていただいている中小企業を中心とした経営者の団体です。単なる原発の反対運動をしようとは思っていません。商売人ですので、実を取るのが得意です。とにかく新しい現実を作っていこうと、今、大きく二つの柱を掲げて活動をしています。

一つは、地域で再生可能エネルギーを中心としたエネルギー自給の仕組みを小さくてもいいから作っていこう。そういう動きを促進していこう。仲間を増やしていこうという活動です。

もう一つは、エネルギーはもっともっと賢い使い方があるはずで、学んで実践していこう。大企業さんは専門の部署があって専門のスタッフがいますから、かなり節電とか省エネルギーも進んでいる。けれども私ども中小企業はおやじが全部やっていますので、なかなかそこまで知恵がまわらない。そこをしっかり学んでいこう。電気を減らすことはエネルギーを作ることと同じ効果がありますので、(この)ふたつの柱を進めていこうと思っています。

再生可能エネルギーというと、そんな不安定な実績の無いエネルギーに頼れないよという意見が出ます。いっぺんに日本中を4割、5割やろうというのは無理だと思いますが、私たちは中小企業の経営者ですから、自分の企業、自分の団体をもっています。自分が腹をくくれば、自分ちの工場の屋根に太陽パネルをつけようと思えば、すぐできるわけですよね。地域で仲間をつのれば地域でなにかできるかもしれない。自分ができることを、まずやるしかないなと思っています。

■「仲間を増やせば影響力を持てる」

鈴廣は震災後に使用電力を2割減らし、太陽光発電も導入した。エネ経会議では、参加企業の間でこうした技術や経験を共有し、省エネと再生可能エネルギーの利用を進める計画だ。専門家が会員の技術的な相談に応じる体制も整えた。

一方で、経済界では原発の再稼働を求める声は根強い。こうした状況をどうとらえるか。鈴木氏は次のように語った。

こういうお話をしてよいか悩んだんですが、日本商工会議所がエネルギー政策の提言をまとめ会頭が(政府に)提出されました。全国に500ぐらいの商工会議所があって、総意としてまとめたといわれる提言です。いくつかキーワードがあります。「安全が確認された原発の再稼働」「より安全性の高い原発へのリプレース等の検討」。リプレースとは新設するという意味です。

私は商工会議所で反乱を起こす勇気も実力もありません。実は私、1週間ぐらい前に小田原箱根商工会議所の会頭にならせていただきました(笑)。五百いくつの会議所のメンバーです。全ての会議所が意見を求められたかというと、必ずしもそうではない。

けしからんという気持ちはさらさらありません。日本商工会議所は素晴らしい活動をしています。しかし諸手をあげて賛成できないこともある中で、現実として、これが、中小企業の団体のまとまった意見と位置づけられていることは、経済人として認識しておくべきだと思い、あえてご紹介させていただきました。

そういう状況のなかで、地域を自立させていくためには、再生可能エネルギーをいかに増やしていくか、エネルギーのもっと賢い使い方を学んで実践していくこと、この点にエネ経会議は絞って活動していきたい。自分ができること、仲間を募ってできること、これしか私はできない。小さい取り組みかもしれないけれども、エネ経会議のような取り組みを通じて、仲間をたくさん増やすことができれば、大きな力になっていって、影響力を持てるのではないかと思っています。

声高に反対運動をしようというつもりはない。商売をしている人間ですので、後ろからごつんと殴られるとすぐころころっとしてしまう弱い立場ですので、その辺はしっかりわきまえながら、みなさんと一緒に活動をさせていただければと思っている次第です。

(太田泉生)

【※】経済界の原発再稼働要求に異を唱える中小企業経営者たちの意見は、理にかなっていると思いますか?ご意見をコメント欄にお寄せください。

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