日本企業が非正規社員への依存から脱却する方法

日本企業は近年、正社員にとって替わる低コストで柔軟性のある労働力として、非正規社員にますます依存するようになってきた。
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Businessperson talking in entrance hall of office
Yagi Studio via Getty Images

非正規社員を雇用することは、日本企業が過去長期間にわたって実施してきた経済の変調に対する緩衝法である。しかし日本企業は近年、正社員にとって替わる低コストで柔軟性のある労働力として、非正規社員(パートタイム社員、アルバイト、契約社員、および派遣社員)にますます依存するようになってきた。過去20年間で非正規社員は16.5ポイントも急増し、今では日本の労働人口の約40%をも占めるようになった。

日本の非正規社員の大多数(契約社員と派遣社員の三分の一以上を含む)は、正社員として働くことを希望している。非正規社員の仕事は、給与、保障、昇進の機会といった側面においてあまり魅力的でないのが現実だ。非正規社員は正社員と比較して、満足度とモチベーションが低く、結果として生産性が75%低いと推測されている。企業が非正規社員の教育への投資に積極的でないことも、非正規社員の生産性が低い理由の一つだろう。非正規社員から正社員になる確率は1.7~10.3%と低く(イギリスでは30%、ドイツでは45%)、日本では一度非正規社員になると、その状況から逸脱することが難しい。そのことが一層、非正規社員のやる気のなさに拍車をかけている(私の著書、『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』参照)

私は、非正規社員への依存が日本の社会と経済を弱くすると考えている。日本の伝統的な社会的一体性を侵食し、人生の成功から取り残されたと感じている市民階級を作り出している。これは社内で二流市民の扱いを受けていると感じることに加えて、非正規社員の魅力的とはいえない労働条件が原因となっている。実際日本の非正規社員は正社員と比較して幸福に感じる度合いと仕事の満足度が低い。非正規社員の低い給与、明確なキャリアパスの欠如、および全般的な不安定性は、若い人々が結婚して家庭を築くことを躊躇する傾向に加担している可能性もある。また、結婚候補者とその家族の目にも、これらの若者達は結婚能力が低いと映っているのが実情である。

実際、国際的な研究でも、非正規社員への依存が生産性の低下につながるという結果が出ている。さらに、今の正社員と非正規社員がはっきり別れた二階層の雇用形式は、社内に否定的な雰囲気を作って、非正規社員の立場にある人々の士気をくじき、日本企業の人材に関する考え方を必要以上に歪めている。社員のエンゲージメント、モチベーション、生産性のすべてにおいて、悪影響を及ぼしているように見える。

それではどうすれば、非正規社員への過度の依存から脱却できるだろうか。もちろん最もシンプルなのは、正社員として雇用する社員の数を増やすことだ。しかし、日本企業が正社員を増やしたがらない大きな理由の一つは、非正規社員は正社員より、給与および福利厚生の両面でずっと安上がりなことである。

しかしながら私は、日本企業は非正規社員に現在支払っているより高い給与を払うことを覚悟で、より多くの正社員を雇用することが道理にかなっているのではないかと考えている。さらに、日本企業は現在よりもっと高い給与を社員に払うことができるのではないかと感じている(円安を考慮して2015年に企業収益の増加が期待されていることを考えるとなおさらだ)。また、昨今日本企業の歴史的な山積みになった現金資産や海外で高価な買収を行っているのを見ると、社内での支出が不可能ではないように思えて仕様がない。実際、安倍総理大臣は、デフレ対策と景気への刺激として、日本企業に賃金の引き上げを呼びかけているが、これには企業が抵抗を示している

日本企業が賃金を倹約しようとしている根底にあるのは、経済不振に対する過剰反応であろう。短期的なミクロレベルでは、そのようなアプローチは賢明であるように思われるが、長期的なマクロレベルの視点から考えると、それは日本経済に害を与えかねない。なぜなら、悲観的な消費者が支出を控えて経済が停滞するという悪循環を作り出し、企業がコストダウンの必要性を更に感じるようになるからだ。日本で流動的な労働市場が欠如していることも、日本の賃金が低い理由の一つであろう。 アメリカのように流動性が激しい労働市場では、企業はスキルのある社員を惹きつけ留めるために賃金を引き上げざるを得ない。将来の労働力不足も労働者に加勢する要因となり、賃金アップにつながる可能性がある。

日本企業が非正規社員を正社員として雇用したがらない2番目の理由は、解雇に関する制限が厳しい日本の労働法により、固定費となる正社員の数を増やすことを企業が懸念しているためである。もちろん労働法を改正して社員を解雇しやすくすれば解決に繋がるだろう 。会社に貢献していない社員の解雇が行いやすくなれば 、価値のある社員に費やすお金も増える。しかし現実問題として、労働法の改正は今の所難しいかもしれない。そう考えるとより現実的な対策は、現在の非正規社員と正社員の間に属するような、ハイブリッドの範疇を作ることではないだろうか。つまり、現在の「忠誠心がなく報酬も低い」非正規社員と、「高い報酬と雇用の安定と引き換えに忠誠を誓わされる」正社員という両極端の間に位置する社員の範疇である。

これらを踏まえると、日本企業はまず、社員に期待すべきことは何か、また社員が企業に期待すべきことは何か、および社員はどの程度の報酬を支払われるべきかについて、 深く再考することが必要だと考えられる。さらに、 二階層の雇用形式から脱却し、雇用条件(会社が指定する勤務場所をそれが単身赴任であっても言われるままに受諾することなど)に基づいて地位や扱いを決めることを見直し、実際に処理された仕事とその仕事の価値に焦点を置く方向に移行することも重要なのではないか。